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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
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魔王編16

コンビネーションの練度で言えば、明らかに俺達の方が有利だった。

俺の攻撃がアレスに当たり、その反撃が来る前に小規模ながらエミリーの結界魔法が展開され、俺へのダメージを軽減する。

逆に、相手の攻撃はエミリーの“リビングデッドウッド”ーー植物限定の蘇生能力ーーによって蘇った木の枝や、蔦によって阻まれる。

動きが止まったそれは、俺にとって絶好の攻撃の機会だった。


「ちいッ!」


アレスが俺のレーヴァテインをケイオスニードルで防ぐ。

ほんのわずかなタイミングで、アレスの胴を薙ぐ攻撃だったが、阻まれた。


「まだだ!あんたに教わった全て、まだ出しきってない!」


そう叫びながら、俺は剣を振るう。

灼熱の刀身で、淀んだ空気ですら焼け焦げる。

アレスは防戦一方だ。


カイン達が知るよしもないが、ハラ=アレスはマハデヴァ=ルーインのことが嫌いだった。

いや、憎悪していると言ってもいい。

千年前に魔王レイドックによって、ミニオン同士のいさかいが禁じられてから、表面には出さなかったものの、それ故に憎しみは往時より増している。

ある意味では、アレスが魔王のミニオンなどという立場に堕ちたのは、このルーインのせいなのだから。

なので、ルーインとアレスの間にはコンビネーションは生まれえない。

存在することはありえない。

カインとエミリーの連携を前に、アレスは単独でカインと戦い、ルーインはアレスの攻撃の隙を見て攻撃魔法を放っている、だけだ。

二つの独立した戦闘者がいるだけなのだ。


“剣”魔法による強化で直接攻撃に特化しているカインとアレス。

“リビングデッドウッド”による妨害と低位ながらも結界と回復を併用する“杯”魔法を駆使するエミリー。

強力な“杖”の攻撃魔法を連射できるマハデヴァ=ルーイン。

前衛は似たような二人だが、後衛に大きな違いが出ている。

そして、マハデヴァ=ルーインの“杖”魔法は“リビングデッドウッド”にほぼ封じられていた。

アレスの剣は、カインによって押さえられている。

そうなると、微弱だが治癒魔法で回復できるカイン、エミリー側が優勢だった。


傲慢で、居丈高で、自信家のルーインにもそれは理解できた。

尊大な自我ではあるが、賢くないわけではないのだ。

この状況が続けば、いずれ盤面は詰む。

まさか、カイン・カウンターフレイムがハラ=アレスを上回るほど強くなっていたというのは予想外だった。

しかし、予想外の事態に応じてこそ、真の勝利者となれる。

マハデヴァ=ルーインは、こんな事態への備えとして大事に、大事にとっておいた言葉を放った。


「久しぶりだねえ、エミリー」


「わたしは二度と会いたくなかったわ!」


「そんなつれないことを言わないでくれよ」


「そうさせたのは、アンタだけど!?」


「君の出生の秘密を教えてあげよう」


その言葉を聞き取ったエミリーの援護が一瞬崩れ、ハラ=アレスが鋭い斬撃を加える。

カインはかろうじて防いだ。

エミリーはすぐに立ち直り、結界と治癒と妨害を続行する。


「そうやって、動揺を誘おうってわけ?」


「あそこから立ち直ったのは見事だったね。でも、僕が言っていることはブラフではないよ。真実さ」


「真実……?」


「二十数年前……」


「話さなくていいッ!」


エミリーの反応に、ニィィと笑いながらマハデヴァ=ルーインは続けた。


「この大陸には、ガッジールという国があり、そこにはロンダフという王がいた。その何度目かの侵略先に選ばれたのはナスという小国だった」


「……ナス……」


エミリーの頭の中を、その単語がつついた。

脳髄の奥底の何かが蠢く。


「ロンダフの手下オルファネスはかつての親友ベルオレワを裏切り、ナスへの侵略の手引きをした。そして、ベルオレワが一番苦しむことを実行した」


「オルファネス……ベルオレワ……」


その二つの単語も、執拗に頭の中を引っ掻く。


「それは、ベルオレワの娘エミリーを火炙りにすることだった」


「聴くな、エミリー!」


カインの叫びが聞こえたが、エミリーの頭の中には届かない。


「エミリー、私、が、ひあぶり……?」


エミリーの全身が火傷にあったかのように、赤く染まる。

ガクガクと震えながら、膝から崩れ落ちた。


「そして、哀れな少女エミリーはそこで、死んだ」


「……?……え……?」


「それを見たロンダフは何を思ったか、その少女を甦らそうとした」


エミリーの頭の中で、一つの疑問が生まれた。

瞬く間に脳内を占める。

私は誰だ?


「蘇った、私?」


「いいや、違うよ。君は亡くなったエミリー少女の姿を模しているだけだ」


また、おかしなことを言っている。

私はエミリーだ。

それ以外のなんだというんだ?


火傷のような痛みに耐えながらエミリーは言った。


「私はエミリーだ。私がエミリーだ!」


「だから違うって言ってるだろ?君はエミリーの

姿を模したロンダフの魔族、死霊術を統べる者、地獄の大侯爵、ガミジンだよ」


ロンダフの魔族、ガミジン……?

ドクン、と心臓じゃない器官が鼓動を打つ。

ガクガクと体が揺れ、立つことができない。

私は、エミリーじゃない。

私は魔族?


バチン、と頬を叩かれた。


見ると、カインが強い視線で私を見ている。


「目を覚ませ。あんたはエミリーだ。誰がなんと言おうと、あんたはエミリーだ」


「……バカか、あんたは。戦い放ってんじゃないよ」


「お前が言うな」


カインが心配そうな顔でこちらを見ている。

役得だなあ。

きっと誰も見たことないよ。


でも、私気付いてしまったんだよね。


いや、思い出してしまった、か。


私はエミリーじゃない。


私は魔族ガミジン。


「ごめんね、カイン。私、戦線離脱するわ」


主を失った魔族は、封印の地ダビディスへ還る。

死んだ人間は、魔力の断片となって雲散霧消し、世界と同化する。

どちらであろうと、私はここで終わりなのだ。


「エミリー!!」


あは。

最期まで、そう呼んでくれるんだ。

ありがとね、カイン。


そこで私の意識は浮遊し、魔王の城を飛び出した。


夜の闇から、漆黒の闇の中へ。

その闇の中で、黒い山羊のようなモノが哀しそうな目でこちらを見ていた、ような気がする。

いつの間にか、私は、私とワタシに別れていた。

エミリーと呼ばれていた人間の女である私。

青白い馬のような姿の魔族であるワタシ。

私とワタシはお互いの姿を見ると、同時に微笑んだ。

それが最期だった。


エミリーは消え去ってしまった。

俺は、深い喪失感と激しい怒りを感じていた。


「マハデヴァ……」


俺と同じ顔のミニオンは、大きく笑った。


「うははは、消えた。消えたよ。目障りな女だったが、ようやく清々したよ」


「テメェは殺されたいようだなッ!」


俺は怒りのままに突撃する。


「猪武者め、ハラ、止めてくれないか」


「いいだろう……“混沌”の第13階位“ハラ”」


と、ハラ=アレスはケイオスニードルを構え、固有魔法を放った。


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