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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
173/410

魔王編14

白い骨の丘を二人の戦士が切り結びながら駆ける。

一人は、白き鎧と黄金に輝く聖剣を振るうアーサー・カリバーン。

今一人は、五つの刃を巨大な爪のように振るう魔王のミニオン、ゼットことバイラヴァ。

バイラヴァが赤き刃を振るえば、カリバーンは黄金の聖剣で防ぐ。

カリバーンが両手持ちの聖剣の大きな刃を振るえば、バイラヴァは青い刃で受け流す。

攻撃の多彩さはバイラヴァが、防御の技術はカリバーンがそれぞれ勝っている印象だ。


「やはり、強いな。アーサー卿」


「くすぐったい呼び方をする。今の私は仕える者もない騎士くずれ。なんとか卿という呼ばれ方は相応しくない」


真面目に答えるカリバーンに、バイラヴァは若干鼻白んだようだったが、それでも失望まではしていない。


「呼び方なんぞはどうでもいいんだ。必要なのはどちらが強いかという証明だけ、だ」


バイラヴァはさらに加速する。

飛燕流の高速移動技“爆炎脚”を駆使して、カリバーンの防御を掻い潜ろうと動き回る。

しかし、カリバーンはその動きを見切った上でバイラヴァの移動先を予測し、エクスカリバーの切っ先をそこに置くように振るう。

バイラヴァは慌てて、そこから退避した。

その顔から、血の気が引いていた。

わかってしまったのだ。

このやり取りで。


バイラヴァは、カリバーンより弱い。


「まるで変わっていない。あのアーバーの丘で戦ってから、何も」


顔色一つ変えずに、カリバーンはいい放つ。

その言葉で、バイラヴァは傷付いたような表情になった。


「やはり、そうか?」


「速さも、威力も、お前は私にはかなわない」


「聖剣を振るう最強の騎士殿の前では、俺はやはりただの暗殺者にすぎない、のか」


当然のことを言うように淡々とバイラヴァは呟く。


「……」


「しかし、俺はお前に勝ちたいと思った」


バイラヴァは、五本のダガーを取り出す。

おもむろに、赤い刃を掴む。

刃と触れた指から血がこぼれるのにも構わずに、ミニオンは声を絞り出した。


「炎を放つ力、いらぬ」


力を込めた拳の中で、赤い刃が砕け散り、赤い煌めきとなって宙に舞う。


「魔法を打ち消す力、いらぬ」


同じように青い刃も握り潰す。


「相手の体力を奪う力、いらぬ」


緑の刃も。


「多数の剣先を出す力も、いらぬ」


黄色い刃も。

そして。


「全てを切り裂く黒き刃も、いらぬ」


最後の黒い刃も、バイラヴァの手の中で砕けた。


「ただ、お前を倒す力だけを欲す」


五つの砕けた刃の欠片は、バイラヴァの右手の周囲をゆっくりと回る。

くるくると五色の欠片は、色を変えていく。

やがて、白い輝きに色を変えた。


「この欠片を集め、アーサー・カリバーンを倒す力と成す」


バイラヴァの言葉で欠片がより集まり、一振りの剣と化した。

ギラギラと刃が白く輝いている。


「それが、お前の真の力か?」


カリバーンの問いかけに、バイラヴァはふふっと笑って答えた。


「真の力など、ない。俺は全てを捨てた。お前に勝つためのこの一刀の為に」


バイラヴァは構えた。

先程のまでのふざけたような雰囲気は消え去り、冬の朝のような透徹な気配だけが残っている。

カリバーンも、先程までよりも真剣に構える。

まるで波が引くように、白き骨が床から流れていく。

それは、ムンダマーラが放った魔法の結果だったが、この二人は知らない。

しかし、この白い波が去ったあと相手が動くであろうことが二人ともわかった。


ほんのわずかな時が流れ、黒々とした床が見えた瞬間、バイラヴァは動いた。

燎原の炎のように、果敢に、迅速に、弾かれたように、バイラヴァは駆け、剣を振るう。

カリバーンはエクスカリバーを構え、バイラヴァの“全てを捨てた剣”を受け止める。

ズシリと重い衝撃。

その衝撃が、カリバーンの腕から足へ伝わり黒い床にビシリと割れ目を作った。


「一撃が重いな」


五本分の魔法のダガーをより集めた剣ならば、威力も五本分か?

そんなことを思いながらも、カリバーンはバイラヴァを振り払う。

クルクルと空中で姿勢を制御しながら、バイラヴァは次なる攻撃のための技の名を叫ぶ。


「飛燕流烈火刻」


両の手で“全てを捨てた剣”を握りしめ、バイラヴァは最高の一撃を放った。

受け止めた聖剣から、悲鳴のような音が鳴る。

剣と剣のしのぎを削る、絶叫の鍔迫り合い。

カリバーンは防戦一方だ。

それでも、カリバーンはバイラヴァの攻撃を的確に受け止め、受け流す。

そして、バイラヴァの攻撃にあわせて、カリバーンはエクスカリバーを決められた場所に向かうような、それほどまでに迷いなく振った。

鋭い一撃は、バイラヴァの“全てを捨てた剣”の軌道と交錯し、キーンと甲高い音を生んだ。


ヒュンヒュンと空中を輝く欠片が回転しながら飛んでいく。

やがて、地に落ちる前に欠片はもとの魔力と化して、地下墓地の陰鬱な大気に溶けていった。

バイラヴァの顔が青ざめ、そして土気色に変わっていく。

自らの魔力の塊、即ち魂そのものである剣を破壊された故に、バイラヴァに待っているのは死だけだった。

カリバーンは知らなかったが、かつてカインは“魂の魔剣”の危険性ーー破壊された時のリスクーーについて、アレス・ゾーンから教わっていた。

もちろん、バイラヴァも知っていただろう。

だからこそ、あの剣は“全てを捨てた剣”だったのだ。

全てを捨てたバイラヴァは、膝をついた。

体から力が抜け、もう立っていることすらできない。


「負けた。カッチリ負けた」


なぜか満足そうに、バイラヴァは言った。

そして、億劫そうに寝転がる。

仰向けになって、黒い天井を見ている。


「何から何まで、私がお前に勝っていた。というわけではない」


「あん?」


カリバーンはバイラヴァを涼しげな表情で見ていた。


「飛燕流、という流派の伝承者に私は出会った」


ベスパーラのことだ。

だが、ここでそれ以上のことは言わない。

言う必要は無いだろう。

バイラヴァは呆気に取られたような顔になり、そして笑った。


「そうか。飛燕流の伝承者がいたか。俺の飛燕流の……」


「そうだ。お前が死んでも、お前の残したものは続いていく。伝え続ける限り、永遠に」


「永遠に、か。そいつはいい。千年生きて、それより長く、俺の残したものが続いていく……」


「そのお前の残したものが、私に伝わり……その分、私がお前を上回った。私の勝因はそれだけだ」


「なら、俺の勝ちだな。くっくっく、勝っても負けても、俺の勝ち」


くっくっくと笑いながら、バイラヴァはゆっくりと事切れた。

それを見守って、カリバーンは瞑目した。


ドーン、と巨大な何かが倒れたような音がした。

カリバーンはそちらを見る。

モルドレッドがやったらしい。

いまだ薄暗い地下墓地をカリバーンは歩きだした。

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