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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
171/410

魔王編12

杖は補助器具にしか過ぎない。

アズは思い至った。

確かに、ロンダフの杖があったおかげでアザゼルを呼び出すことができるようになった。

けれども、私の本分は意識の紐で魔族と繋がること。

無駄話を続けているミニオンたちに気付かれないように、意識の紐を伸ばす。

消えたアザゼルを探して、紐を伸ばしていく。

正直、シャンカラはちょっと強い。

思っていたよりも。

打った手を全部先読みされて、潰された。

ぶっ潰す、と言った割りにこっちが顔面潰される始末。

情けないったらありゃしない。

言ったことは必ずやって見せる。

あの牙の仮面ヤロウをぶっ潰す。


『もう、止めませんか、主?』


意識の紐に引っ掛かった声が、アズにそう囁く。


『止める?』


『あのミニオンは主の手には負えません』


『だからって諦めるなんて』


『もう、いいじゃないですか。これ以上やったって無駄ですよ』


『何情けないこと言ってるの、あたしはやる』


「強情な娘だな」


無理矢理、目を開けられた。

のぞきこんでいるのは、シャンカラだった。


「……ッ!?さっきの声!?」


「そう、私の声だよ。手を潰されたら、あとは一番強い手を出すしかない。そう考えれば、次にやることは魔族との接触だよね。予測できれば、対策は容易だよ」


意識の紐に接触されて、頭の中を読まれた。

それだけで、戦意を喪失しそうになる。


「あ……あ……」


「もう、打つ手は無いかな?それじゃあ、さよならだ」


「“震天”」


アズの後ろから、シュラが槍を突く。

高速の槍は、シャンカラの顔面を抉る。


「おおっと、危ない」


慌てたように、しかしおどけてシャンカラは幻化する。

思わず手を離された、いや、幻になった手からすり抜けるように落ちたアズは、距離をとる。


「未だ、我ら負けず」


シュラの顔は鬼気迫るものがあった。

アズの顔もひどいものだろう。

それでも、二人とも立ち上がり戦う意志を示す。


「しつこいけど、根性は認める」


マハタパスが喜んだような顔で槍を構える。


「しつこいのは同意する。根性なんて私は評価しないよ?」


シャンカラは牙の仮面を触り、位置を整える。


私は、冷静さを失っていた。

アルフレッドの死と、その仇に対して。

相手は格上なのに、冷静な頭がなきゃ対抗もできない。

精神攻撃してくるような相手を出し抜くには、もっと冷静にならなきゃ。


「マルファス、カイム、エリゴール、バラム、オセ、マステマ」


同時六体召喚。

かつてのロンダフに迫る同時召喚をアズは成功させた。

杖が無くても、これくらいできる。


「おいおい。あのでっかいのですら役に立たないのに、こんなに雑魚を出してどうする気だい?」


私は、それぞれの魔族の能力を使用する。

マルファスの遠目、バラムの咆哮、オセの虚飾の王冠で基礎能力を向上させ、エリゴールの飛槍を放ちつつ、私も“デーモンランス”を放つ。

遅い、と言われた詠唱だが数を出せば幾つかは当たる。


「主、私はどうすればいいのです?」


カイムが剽軽な声で、話しかけつつ飛び回る。


「あんたは自由にしてなさい」


「そうですか。まあ、頑張ってくださいよ」


連射される魔法の槍を、シャンカラは苦笑しながら避ける。


「奇襲の次は、飽和攻撃かい?戦術としては間違ってないけどねえ」


相手の防御が間に合わないほどの、攻撃が続けばいつか守りは崩れる。

アズはバラムの背に乗りながら、縦横無尽に駆け回り、槍を放ち続ける。


「“杯”の第10階位“ヘビーデフェンス”」


軽く唱えたシャンカラの結界魔法は、アズとエリゴールの槍をすべて受け止めた。

結界は割れることもなく、シャンカラを守る。


「マステマ」


強力な魔族であるマステマが、結界を破るべく攻撃を開始。


「なるほど、あまり強くない魔族は杖なしでも行けるのか。それは誤算だった」


シャンカラは結界の中で、“杖”の魔法の詠唱を開始する。

マステマが結界を破ることを想定した上で、その上を行く一手だ。

その通り、マステマは結界を破り、待ち構えていたシャンカラの魔法に焼き尽くされた。

しかし、その後ろに控えていたオセが剣を振るう。


「オセ」


「おいおい、バンザイアタックかい?戦術戦略の欠片もなくなったのか?」


失望したようなシャンカラは、さらなる魔法でオセを切り刻む。


「エリゴール」


赤い鎧の騎士が、突進する。


「いい加減にしろ。駒にも駒の生き方があるだろうに。無駄で無力で無知な指し手は死んだほうがいい」


エリゴールと、その後ろにいたバラムとアズを巻き込む一手をシャンカラは放った。

魔王に与えられた名に由来する強力な魔法を。


「“混沌”の第13階位“シャンカラ”。君たちに死と破壊の恩恵を授けよう」


強制的に肉体を破壊する魔法の波動がエリゴールを、バラムを、アズを包む。


「焦れて、大技を使う瞬間を待っていた。出てこい、剣の王ベリアル」


冷静なアズの声に呼び出され、赤い巨躯の魔族が出現する。


「魔族使いが荒いぞ、主」


「あんたに言われたくないわ」


ベリアルは、口の端を歪めた。

そして、一言いい放つ。


「“無価値”」


ありとあらゆる魔法を無効化する剣の王の隠された秘術が、シャンカラの“シャンカラ”をも無効化した。

キラキラと、魔力な欠片と化した己の奥の手にシャンカラは呆然とした。


「行け、カイム」


「本当に魔族使いが荒いんだから」


愚痴を言いながらも矢のように突進したカイムが、シャンカラを突き抜けた。

自動で幻と化し、その攻撃を無効にしたシャンカラへ、アズは最後の一手を放つ。


「全員合体、アザゼル幻ごとそいつをぶっ潰せ!!」


残っていた魔族が、全て合体し再度アザゼルの姿を取り戻す。

魔力を込めた拳をアザゼルは開き、シャンカラの幻を掴む。

それを地面に叩きつける。

石畳が粉々に割れるほどの勢いで、シャンカラは地面にめり込み、実体化し動かなくなった。


魔族がシャンカラを叩き潰したのを見て、マハタパスはため息をついた。


「あ~あ、やられちゃった。まあ、あんな頭でっかちなんて、いくら死んでも魔王様には影響ないけど。で、あんたはどうすんの?」


マハタパスの目の前には、ぼろぼろに傷つきながらも槍を離さず立っているシュラの姿がある。


「……」


「女の子でも倒せるミニオン、か。情けなくて涙が出るわ」


「ヤクシ宝蔵院流奥義“震天”」


と低く言ってシュラは槍を構えた。


「だから、それは未完成であたしは見切ったから無駄。と言っても聞くわけないか」


ダンと強く、シュラは足を踏み込む。

更に速さが増したような突きに、マハタパスは寸分変わらぬ速さ、威力、正確さで応じる。

それは、最初の槍と同じようにあしらわれる……ことはなかった。

穂先がスルリとマハタパスの槍を抜け、マハタパスの頬をかすった。


「……」


「ほお……?」


マハタパスの目が本気になる。


「……」


「じゃあ、一度だけ本気でやろうか?」


マハタパスは槍を構える。

先刻までの軽い態度は鳴りを潜め、冷たい殺気を放っている。


「“槍”の第4階位“強化”、“震天”」


シュラは魔法で強化した槍を突く。

マハタパスは、合わせた突きではなく、シュラを殺すための突きを放つ。

両の槍は空を貫き、相手を一心に目指す。

だが、シュラの槍はマハタパスによって見切られかわされる。


「これで終わりだな」


そして、マハタパスの槍はシュラの腹を貫いた。


「あなたの槍は止めた」


口から吐血しながら、シュラは笑った。


「お前、自分の身を……!?」


「“震天”二段目」


接近状態から放たれた、シュラの二発目の“震天”は、無防備のマハタパスの胸を貫き、吹き飛ばした。

だらだらと血を吐きながら、マハタパスは言う。


「負けた。お前の震天に」


「震天にあらず、我が奥義、二段階の突きを放つ“震天動地”」


倒れながら、マハタパスは笑った。


「楽しかったぞ。シュラ、そして“震天動地”」


そのまま、マハタパスは動かなくなった。

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