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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
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魔王編11

乾いた石の匂いに、アズは目を覚ました。


「嫌な感じ」


と、呟く。


「左様。長居はしたくないでござる」


声の方を向くと、黒い服ードウギとかいうらしいーを着た男がいた。

確か、シュラとかいうヤクシの戦士。

カインを主君とか言ってたっけ。


「ええと、シュラだっけ?あなたしかいないの?」


「否。後二人、人と言えるかどうかは分からぬが」


アザゼル、と小さな声で呼び出しながら、アズはシュラの向いている方を向く。

シュラと同じ黒いドウギの人物、シルエットは女性に見える。

もう一人は、牙の仮面をつけた男。

どちらも、雰囲気がただ者ではない。


牙の仮面で、アズは気付いた。


「あいつ、もしかしてシャンカラ?」


シュラは頷く。

であるならば、遠慮はいらない。

全力で蹴散らすだけだ。

アズは手に持ったロンダフの杖を構える。


「ならば、それがしはあの槍使いを相手にしよう」


ダッとシュラは駆けた。

墨ののった筆でスッと一文字を描くように、ヤクシの戦士は槍を突く。

足を踏み込み、体躯の力を全て右腕へ、そして槍へ伝え放つ。


「ヤクシ宝蔵院流奥義“震天”」


アズの目から見ても、それがとんでもない突き技だとわかった。

速さ、威力、正確さ、どれをとっても達人級。

しかし。

その渾身の一撃は、女槍使いの突き技に阻まれた。

同じ速さ、同じ威力、同じ正確さで放たれた突きによって。


「確か震天は、未完成だって言ってたな、あいつは」


「震天が……」


「それに、ヤクシの戦士の実力も落ちた。なあ、アンティラの槍士?」


美しい女性だ。

そして、獰猛に見える。

例えていうなら、黒い豹。


「アンティラの槍使い、千年前の人物……まさか!?」


シュラの顔に驚きと、畏敬の表情が浮かぶ。


「ここでは、マハタパスと呼ばれている。ヤクシの里では、アスラ・アンティラと呼ばれていたな」


シュラは膝をついた。


「ちょっと?」


アズの驚きの声に、シュラは構わず言った。


「お目にかかれて光栄にござる。我らが族長」


それを興味なさそうに、アスラ=マハタパスは見下ろす。


「まあ、千年前に放り出して以来、空位だったらしいね。アンティラ族の長。悪かったとは思ってる、思ってるけど……この場には関係ない」


滑らかな動きで、黒豹は槍を降り下ろした。

無防備なシュラの頭上へ。


「左様。この場には関係ないでござる」


シュラの槍がマハタパスの槍を弾く。

遅れて、カーン、と乾いた音が響いた。


「へえ……?」


「族長への礼でござる。礼を果たしたからには、あとは戦うのみ」


シュラの言葉に、マハタパスは満足げに頷く。


「うん、そうだね。その通り、あとは戦うのみ」


共に、戦いへの歓喜の表情を浮かべ、二人のヤクシの戦士は槍を振るった。


その戦いを横目に見ながら、アズは声を張り上げる。


「あなたがシャンカラね?」


牙の仮面の男は淡々と答える。


「だったら?」


「ぶっ潰す」


その言葉を合図に、シャンカラの後ろにアザゼルが顕現。

その拳を振り下ろす。


「おっと、これは素晴らしい奇襲だな」


ふわりと前へ跳んで、拳を避けながらシャンカラは喋る。


「“魔”の第8階位“デーモンプレス”」


シャンカラの前に、紫の球体が出現。

ミニオンの動きを縛る。


「ははは。前に跳ぶのは読まれていたか?しかし」


何かを呟き、シャンカラはデーモンプレスの束縛を脱し空中へ駆け登った。


「“魔”の第10階位“デーモンダウン”」


そこへ、効果を束縛のみに限定した不可視の鎚がシャンカラを捕らえた。

抵抗しがたい圧力がミニオンを下へ落とし、そこへアザゼルが攻撃を叩き込む。

魔力のこもった魔族の拳は、シャンカラの体をへこませ、潰していく。

その原形が分からなくなるまで。

ミニオンが動かなくなるのを、確認しアズは勝利を確認した。


「ふぅッ」


と、アズが安堵の息を吐いた時だった。


「奇襲からの連携、なかなか堪能した。しかし、君はまだ未熟」


耳元で囁かれた。

おぞましさに、鳥肌がたつ。

バッと振り払うように、後ろを向く。

仮面で表情が見えないが、こちらを嘲っているような雰囲気を感じた。


「未熟ですって!?」


アザゼルに合図を送り、自身も魔法を詠唱する。

どんな手を使って脱出したのかは知らないが、もっと追い詰めて倒してやる。


「冷静に見えて、憤怒に我を忘れている」


知らぬ間に、腕を掴まれ、口を塞がれていた。

魔法の発動を抑えられた。

アザゼルもどうすればいいかわからず、動けない。


「何が君を怒りに駆り立てるのか。ああ、わかった。アルフレッド・オーキスか」


「あんたに何がわかるってのよ!」


やみくもに振り回した杖で、アズはシャンカラを殴るが体を押さえつけられている状態ではたいして威力もでない。


「わかるさ。人の喜怒哀楽を理解しなきゃ、軍師なんて出来ないからね」


シャンカラは巧みに、アズの手から杖をもぎ取った。

主とのリンクが途切れたアザゼルは、消える。

興味ありげに見ていたシャンカラだったが、最終的に投げ捨てた。


「何すんのよ!?」


「君の力を削いでいる。魔族の力が無ければ、ちょっと腕がたつ程度の魔法使いに過ぎない女の子だからね、君は」


「“魔”の第1階位“デーモンランス”」


放たれた黒い槍は、シャンカラの体を穿つ。

呆気に取られた顔のシャンカラだったが、次の瞬間には笑っていた。


「ああ。いいよ。悪足掻きは嫌いじゃない。それをどう叩き潰すか、考えることができるから」


穴が開いたシャンカラの姿は幻のように消え失せ、その後ろから無傷のシャンカラが現れる。


「ま、ぼろし?」


「正解。だから、いくら潰しても、魔法で穴を開けても無駄だったわけ」


「“魔”の第1階位“デー”」


ぐしゃ、という音をアズの耳は聞いた。

鉄のような臭いをアズの鼻は嗅いだ。

振り下ろされる拳をアズの目は見た。

血の味がアズの舌に広がった。

顔面が潰される痛みを、アズの肌が感じた。

立つこともできないアズは、床に倒れた。


「魔法の詠唱も遅い。その程度で、よくミニオンと戦おうと思ったね?」


「同感だ」


マハタパスの声が追従する。

そして、アズの横に投げ捨てられるシュラ。


「そっちも済んだのか?」


「遊んでやったが、まだ足りない。お前、ちょっとやらないか?」


「冗談でしょ?こっちは軍師、そっちは戦士。役割が違う」


「その割りには、拳で一撃でしょ?女の子なのに可哀想」


「そっちだって子孫じゃないか」


「あたしはいいのよ」


ミニオンの声を遠くに聞きながら、痛みで動けない体を叱咤しながら、アズはそれでもまだ反撃の機会を伺っている。

それは、シュラも同じだ。

負けられない。

絶対に。

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