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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
167/410

魔王編08

深い水の中で、ベスパーラは目覚めた。

いや、器である肉体は死んでいるので、正しい意味での目覚めではない。


「するとここは死後の世界か?」


「そうではない」


答えたのは聞いたことがある声だった。

そのセリフに最も相応しく無い声。

ベスパーラはその人物の名を呼んだ。


「兄上……」


ベスパーラが自らの手で倒したはずの兄。

スズメビー・ランスロー。


「私は確かにスズメビーだが、死人の霊がさ迷い出てきたわけではない」


「そうですか。恨み言でも言われたらどうしようかと思いましたよ」


「私はお前の魂に残った、スズメビーの欠片に過ぎない」


「魂?」


魂とはなんだ?

死霊ではない、と本人が言っていた。


「魂とは、自分のことが刻まれた魔力の塊のことだ」


「それは、世の魔法使いが聞いたら泣いて喜びそうな言葉ですね」


魂は自分のことが刻まれた魔力の塊。


「戯れるな。私は、お前が死にかけているが故に出てきたのだ。時間がない」


なるほど。

このスズメビーは、ベスパーラの魂に残っていた欠片。

普段は、ベスパーラの意思の下で眠っている。

しかし、ベスパーラが死にかけていることでその抑圧が無くなり、出てきたのだ。


「何を伝えたいのです?」


「何も。強いて言うなら感謝だ。あの老人に、いやミニオンに利用されていたのを解き放ってくれたこと、それに対する、な」


「それは……私のやりたいようにやった結果ですから」


「それでも、だ」


そこだけ、力強く言ってスズメビーは消えた。

唐突だったが、時間がない、とは言っていた。

そして、何もないのにあの兄が出てくる訳はない。

今の言葉に、何らかのヒントがあるのだ。


「魂とは魔力の塊、ということだろうな」


ならば、魔力とはなんだ?

単なるエネルギーではなさそうだ。

魔法の呪文によって、炎になり、氷になり、水に、雷になる。

また、強固な壁になるかと思えば、癒しの力ともなる。

もしかしたら、呪文、いや、意思の力でその形態を変える物質であるのかもしれない。

ならば、水を魔力に還元するベスパーラの力は、意思の力が、自然の意思を上回ったということになる。

もし仮に、肉体も魔力の何らかの現れだとしたら。

魂がそうなら、肉体も……。

そして、結論を得たベスパーラは凄まじい意思を持って周囲の水を魔力へ変え始める。

魔力を死んだ肉体に集め、死んだ部分を再生し、生命活動を促す。

そうだ。

確か、ガンガーダラは自分の体を水に、水の精霊に変えていた。

そういうことができるなら、逆もできるはずだ。

精霊を受肉させる。

やがて、肉体の再生が終わり、ベスパーラの魂はそこへ入る。


視界がクリアになり、大気の匂いを感じる。

生きていることを実感する。

あふれでる魔力を、レイピアに込め叫ぶ。


「飛燕流青滝閃・神無月アロンダイト」


単発技である青滝閃を追加し、神無月が現す十の斬撃を放つ技に変える。

その斬撃に、更に魔力を込め一撃一撃が必殺クラスの、アロンダイト級の威力を込める。

完全に不意をつかれたミニオン、ガンガーダラとニーラカンタはまともに受けた。


「な、お前は死んだはずだ」


「蘇生魔法は存在しないはず……」


二人を無視して、ベスパーラは水中に漂う腐敗物に触れた。

これは、グウェンだ。

水中に漂うグウェンの魂を探す。

自分が死んだ、という時点で活動を止めているグウェンの魂に魔力を注ぐ。

それは、短い時間ながらも共に過ごしたベスパーラの持っているグウェンの記憶だ。

それに刺激されグウェンが目を覚ますまで、ベスパーラはグウェンの体の再生に手をつけた。

やることは簡単だ。

水を魔力に変え、ベスパーラがそうしたように受肉させる。

あとは、本人の意思が己の肉体を作り直すだろう。

やがて、グウェンは起き上がった。


「あ、れ?私、死んで?」


「生きています」


力強い言葉をベスパーラは放った。

不安定な意思だと、魂が霧消してしまう可能性がある。

今は、生きていると信じこむこと。

そう導くことだ。


「死者蘇生!我らが探し求めた真なる魔法!いいぞ、その力を吾が輩によこしたまえ」


傷を治したニーラカンタが、再び喉の紋章をこちらへ向ける。


「あなたは散々、私たちに迷惑をかけましたね。ここで、その根を断つ」


ベスパーラは、レイピアを構える。


「遅い、“ニーラカンタ”」


「遅いのはあなたです」


青い光は空を貫いた。

神速で接近したベスパーラは、その魔法をかわし、そのレイピアはニーラカンタの喉を貫いていた。


「わ、吾が輩が、死ぬ?」


「死にます」


「これではなんのために、ミニオンになったのか……わからないではないか?」


「そうです。あなたの長い生涯は無意味でした」


ニーラカンタは絶望したような顔をして、事切れた。


「よくも、よくも先生を」


回復が遅れようやく立ち上がったガンガーダラは絶叫する。


「次はあなたの番です。グウェン」


「はい」


グウェンは糸を射出。

ガンガーダラを絡めとる。


「舐めるな。僕にこの糸が効かないことは知っているはずだ!」


ガンガーダラは水に溶け、水流を起こした。


「これを待っていました」


冷静なベスパーラは、自身も水に溶けた。

水流の中に、ベスパーラとガンガーダラが溶け合っている。


ベスパーラは見た。

ガンガーダラとレルランの境目を。

魔力の、魂の触れあいの中でベスパーラが知っているレルランの魂を掴みとる。

実体化しながら、レルランの肉体を魔力から作り出し魂を込めた。

そして、二人でドサリと床に投げ出される。


「ベスパーラ様」


心配そうなグウェンに手をふり、ベスパーラは呟く。


「約束したのは、ガンガーダラを倒すこと。レルランの生死は問わない。困難なご命令でしたがなんとか果たせそうです」


そして、ガンガーダラから引き離したレルランの頬をペチペチと叩く。


「う、ぐぐ」


「意識はありますか?」


「お前か……僕はレルラン、だな?」


「そうです」


「最悪な気分だ。だが、助かった」


「まだ、助かったわけではないですよ」


「何?」


ベスパーラとグウェンとレルランの前で、水が澱む。

引き離されたガンガーダラの魂が、精霊の状態で悶えている。

そして、さざ波のような声がする。


「よくも、我が依り代を奪ったな。許さぬ、絶対に許さぬ。我は大河を支える者ガンガーダラぞ」


津波のような大きな波が、押し寄せてくる。

ガンガーダラそのものの大波。


「どうします?避けるところはないですけど」


「そもそも僕は、そんなに動けないぞ」


グウェンとレルランの心配を、ベスパーラはいなした。


「レルランという肉体を失ったあれは、過去の残響に過ぎません。私はそんな者には負けません。“符”の第13階位」


「お前、いつの間に魔導師に?」


「まさか、一度死んだことで第13階位になったのですか?」


「そんなところです。行きますよ“ユルルングル”!!」


それは、ベスパーラの魔力が形を得た姿だ。

竜のような、蛇のような形。

七色に煌めくのは虹のようだ。

大きな口を開けて、ユルルングルはガンガーダラを飲み込んだ。

虹の竜の中で、ガンガーダラは分解され、その魂をバラバラに崩され、消滅した。

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