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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
162/410

魔王編03

試しに構えると、その剣は俺の姿勢にピタリとはまった。

俺の為にあつらえたかのような剣だ。

軽く振ってみると、心なしか動きまで滑らかになる気がする。


「どうかな?」


モルドレットの問いかけに俺は、悪くない、と答える。


「タチの悪いエンチャントやら、呪いはかかってないようだ。ウチの凄腕の鑑定士の保証付きだ」


鑑定士、のくだりでカリバーンの眉が動く。


「それは、あの子のことか?」


「そうだ」


と、モルドレットは頷く。


「なら問題なかろう」


カリバーンがそう言うなら、実際問題無いのだろう。

俺自身も危険はないと判断している。

勘だけど。

あの、ロンダフの剣と言うからにはどんな禍々しい剣なのか、と思ったけれどいたって普通だった。

刃の見事さと使われている素材が一級品だということを除けば、妙な装飾もないし、ましてや髑髏模様なんかもない。

どうやら、俺はこの剣のことを気に入ったらしい。

そして、トラブルがやってきた。


妙に天気が悪いとは思っていたが、どんよりと雲が空を覆い、夕暮れのように暗くなる。

道の向こうに、少女の姿が見えた。

と、思った瞬間。


「どうして、あんたたちがそこにいるの!」


聞いたことのある少女の声があたりに響く。

同時に、巨大な魔力の発生を感じる。

俺を含む全員が、そちらを見た。

そこにいたのは、4メルトほどの身長を持つ巨大な魔族だった。

赤銅色の肌に、黒い甲冑を纏い、蝙蝠のような羽を羽ばたかせている。


「なんだ、あれは?」


カリバーンの呟きに、グウェンが続ける。


「まさか、また魔王のミニオン……?」


「いえ、あの少女は」


ベスパーラが何かを思い出したように呟く。


「ガッジールの?」


モルドレットが声を発したその時、黒い魔族が俺たち……主にモルドレットとベスパーラに襲いかかる。

咄嗟に前へ出た俺は、ロンダフの剣で魔族の一撃を迎え撃つ。

感じたのは激しい重圧。

そして、重い魔力の塊。

踏みしめる足の下で、石畳がビキビキとひび割れていくのを感じる。


「お引きください、カイン殿」


魔族の発した言葉に、俺は思わずそいつの顔を見た。


「俺の名を知っている……?お前誰だ!?」


「私はアザゼル。アズ・リーン様の従者」


「誰であろうと仲間を傷つけさせるわけにはいかない」


エクスカリバーを構えたカリバーンも参戦する。

魔王の剣と聖剣によって阻まれたアザゼルは、ふわりと身を翻しアズのもとへ戻った。


「カイン、アーサーさん、そこをどいて。私はそいつらを倒さなきゃならない」


「落ち着け、アズ。何があったか知らないが、こいつらは仲間だ!とりあえずは!」


「いくらカインでも、そいつらの仲間だっていうなら一緒に吹き飛ばすッ!」


「いいから、止まれッ!」


アズは何やら魔法の詠唱を始め、アザゼルは力を込めて突撃の準備。

こちらは攻撃するわけにもいかないから、全力で防御態勢。

ただではすまないな、と覚悟した時、更に凄まじい魔力がやってきたのを感じた。


「“杖”の第13階位“マナフォール”」


放たれた魔法は、俺達全員にふりかかった。

そして、紡ごうとしていた魔力は全て消え去る。

アズも魔法の発動を停止している。

かたわらのアザゼルも、こちらに留まるための魔力が供給されなくなったのだろうか、姿を消した。

戦闘態勢に入っていたカリバーン、モルドレット、ベスパーラ、グウェンらの魔力も消え去ったようだ。


「ずいぶん、大袈裟な登場だな。アベル」


俺達全員の魔力を一時的に消失せしめた大魔法。

それを放った若者は笑顔だった。

青いローブには、銀の刺繍。

ルイラムの魔導師アベルだ。


「こんな往来の真ん中で戦闘している方が、大袈裟だと思うんですけどね」


しかも仲間同士で、と呆れたようにアベルは呟いた。


「私はこんな奴らの仲間なんかじゃないわ」


アズがいきりたった口調で喋る。


「いいえ。ここにいる全員、そしてまだ見ぬ幾人かは皆仲間です」


「ずいぶん、はっきりと断言するんだな」


「でなければ、ここにはいないでしょう?」


それもそうか、と俺は納得した。

そして、とりあえずイクセリオン修道院へ帰ることになった。

道中、アズは口を聞かないし、モルドレットとベスパーラの雰囲気も微妙になっていた。

そうそう、アズとグウェンは知り合いだった。

なんでも一時的に旅をともにしたことがあったとか。

敵だったり、仲間だったり、妙な因縁で俺達は知り合っていたらしい。

アベルとカリバーンは共にパーティーを組んだ仲間だし、ベスパーラとは大闘技会で戦った相手。

アズとはアルフレッドと一緒に冒険した。

カリバーンとベスパーラとモルドレットは、同じアルザトルス神殿騎士団の団員仲間で、カリバーンとグウェンは同郷の出身、そしてモルドレットとベスパーラはガッジールを支配しようとした時にアズと一悶着あったとか。

そんな話をしているうちに、俺達はイクセリオン修道院へ到着した。

そこで、アズが。


「あの気配……?」


と呟き、中へ駆け込む。

俺は慌てて追う。


中では、アズとエミリーが対面していた。


「あら、あなたお客さん?それとも、カインのお仲間さん?」


「あなた、魔族?それとも人間?それとも死人?」


どんな質問だよ?

エミリーはどう見ても、人間だろう。


「私は、魔族ではありません。もちろん生きています」


「ふうん……」


「どうしたんだ、アズ?」


「なんでもない。ところでアイツは?」


「アイツ?」


「アルフレッドよ。魔王討伐の仲間でしょ?」


どうやら、アズは知らないらしかった。

結構、有名な出来事で近隣諸国の間にも話がでまわっている。

アルフレッド・オーキスは、死んだということを。


「アズ、アルフレッドは死んだ」


「……死んだ?」


アズの目がキッとつり上がる。

嘘を言ったら許さない、という目だ。


「嘘じゃない」


「嘘よ。あんな、豪快でそのくせちょっと細かくて脳まで筋肉な奴が、死ぬわけないじゃない」


「人は死ぬものよ、お嬢さん」


見かねたエミリーがアズを抱きしめた。


「どうしても、死ぬの?」


「そう。これは規則なの。全ては誕生しそして死ぬ。これは誰にも変えられない摂理」


「だからって」


「その人があなたにとってどんな人かなんて知らないわ。でも、彼の死した魂が安らかに眠るためにはあなたがしっかりと生きなきゃだめ」


「…………」


アズは無言で下を向いていたが、その言葉を聞いて顔をあげる。

泣きそうだったらしいその目は潤んでいる。


「大丈夫よ」


エミリーの意外な一面を見たような気がした。

これ以降は、アズもおとなしくなった。

俺の知る限り、魔王討伐の仲間は全員揃った。

あと一人を残して。

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