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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
160/410

魔王編01

秋口のデヴァインは、ひどく寒々しかった。

セトラール-デヴァインではグラールホールドのまま呼ばれていた-への出兵のあおりで減員された衛兵へ、一人の少女が入国許可を求めた。

灰色というよりかは、銀に近い髪色。

幼い顔付きだが、その目には力強い意志の色が見える。

手にした杖には黒い輪が一つはまっている。

その意味をほとんどの人間は理解できない。

知っている者だけが理解し、恐怖する。

知らない側の人間である手際の悪い衛兵は、おそらく新兵だろう。

引き継ぎもよく出来ぬまま、前任者は戦地へ送られたらしい。


「アズ・リーン……さん?プロヴィデンス帝国発行の通行許可証か……どうだったかな」


寒空の下、たっぷり二十ミニッツァは待たされてアズはイライラしている。

それでも我慢できているのは、意識下で語りかけてくる“おしゃべり”カイムがさらにイライラするようなことを言ってきているからだ。

内容は割愛する。

それはともかく、アズはやる気のない新米衛兵から入国許可をもらった。

デヴァインの南門は南方諸国の旅人向けに開かれた門で、中に入るとそこはアーリードーン神の神域だ。

剣の守護神ということで、兵士たちに信仰されているほか、武器を扱う鍛冶職人にも敬われている。

その関係からか、鍛冶屋が何軒か見受けられる。

そして、そのほとんどの店がフル稼働していた。

前線に送る武器の製作をしているのだと、気付くまでに少し時間がかかった。


カンカンと鎚が焼けた金属を叩く音に、熔けた金属の匂いの中に、動き回る人の群れに紛れて、アズはよく見知った気配を感じ取っていた。


「カイム?」


アズの呼び出しに答え、鳥型の魔族が姿を現す。


「いかがいたしました、我が主よ。道に迷いましたか?」


「迷ってないわよ。それより、この気配わかる?」


魔族の気配だ。

独特の世界の歪みを体現したような、不安な気配。

目の前の鳥型の魔族よりは、人間よりにも感じられるが。


「魔族の気配、のようにも感じられますが……」


「人間のようにも感じられる?」


珍しくカイムが戸惑っていた。


「死者のようにも、感じられます」


魔族であり、人間であり、死者でもある存在。

そんな者がいるのだろうか。

アズはその気配を追って、デヴァインの街を歩き始める。

アーリードーンの神域を抜け、イクセリオンの神域へ。


デヴァインのイクセリオン修道院での居候生活も長くなった。

ただ飯食らいもなんか恥ずかしいものがある俺達は、それぞれ何かしらの仕事をして暮らしていた。

俺とカリバーンはエミリーの伝手で冒険者ギルドの仕事を請け負っている。

コレセントの暫定最強闘士である、俺ことカイム・カウンターフレイムと、グラールホールド最強の騎士アーサー・カリバーンが揃ってきたことで受付のお姉さんは目を白黒させていた。

いまだに進展がないグラールホールド奪回軍に衛兵まで駆り出されていたため、デヴァイン周囲の治安は非常に悪くなっている。

モンスター達がそこらに巣穴をつくり、山賊どもが闊歩する、そんな国になっていた。

冒険者ギルドの仕事も増加し、モンスター討伐、山賊討伐の依頼が繁盛に出されていた。

ここ最近は、東門近くの森に巣食う虫型モンスターの討伐にかかりきりだ。

本来は東門衛兵の定期的な駆除で被害は無かったが、その駆除が行われなくなったため、モンスターが大繁殖していた。

硬い甲殻の間をぬって、俺の剣が巨大化した虫を貫く。

甲殻を叩き割るようにカリバーンの剣が虫を両断する。

二人とも、手練れなためこの程度の相手に苦戦するようなことはない。

それが、これほど時間がかかったのはその数だった。


「カリバーン、あと何匹くらいだ?」


「さあな。見えているくらいだ」


俺の目に写る森の風景は、うぞうぞと蠢く虫型モンスターに埋め尽くされていた。

これでも減らしたのだ。

だが、毎日倍増しているんじゃないかと思えるくらいモンスター達は森を埋め尽くしてくる。

だが、そろそろケリをつけたい。

もう、期限なのだ。


「そろそろ決める。一気に行くぜ」


「うむ。後ろは任せろ」


「“剣”の第10階位“ストレングス”」


俺の放った魔法は、俺の全身を包み強化していく。

アルカナの名を持ったこの魔法は、複数の効果を同時発動する。

筋力強化、反応強化、視角拡充、耐性強化などを一気にかける。

古代魔道帝国時代の失伝した魔法の一種だ。

意外に強力な魔法使いであるカルエンさんに伝授してもらったのだ。

そして手にした剣は、新しく購入した普通の鋼の剣だ。

鍛冶屋がフル稼働しているため、オーダーメイドの剣は手に入りにくい。

カリバーンの聖剣とまでは言わないが、もうちょっと手に合う剣が欲しいものだ。

鋼の剣に、魂の魔剣を被せ、さらに炎の剣を物質化する。

オリジナル俺専用魔法“レーヴァテイン”だ。

強化された身体で突撃する。

目にも止まらぬ動きで俺は森を駆け抜け、精密さを増した刺突でモンスター達を倒していく。


「さて、私も行くか。エクスカリバー!」


聖剣の特殊効果である全身の防御向上を身にまとい、カリバーンは突撃する。

まるで、鉄の塊が突き進んでいくように傷一つ負わないカリバーンは聖剣でモンスター達を断っていく。


半刻もたつと、あたりはモンスター達の死骸だけになった。

立っているのは、俺とカリバーンだけだ。


「流石に厳しいな」


俺の魔力はほとんど空、そして量産ものの鋼の剣は刃の部分が熔けてしまっていた。

俺の高まった魔力で生み出された炎の火力に、通常の鋼では耐えきれなくなっているのだ。


「そうだな。森の中はあらかた片付いたようだが」


「ああ。巣の大元を叩かなきゃならん」


モンスター達は、森の奥にある遺跡から出現していた。

エミリー曰く、ほとんど調べられて何もない遺跡だと言うことだが、だからこそモンスター達が住み着いたのかもしれない。


「そのまま行くか?」


カリバーンの問いに俺は頷く。

持ち時間はもう無い。

明日はもう、目的の日なのだ。


「行こう」


イクセリオンの加護によって、炎の魔法に限っては魔力の消費が抑えられる。

それを頼りに行くしかない。


遺跡の中は、モンスターの巣だ。

巨大な虫の、繭や卵が壁際や角に産み付けられている。

成虫となったモンスターはもういないようだが、虫の生態を考えると。


「女王がいる、か?」


カリバーンの呟きは、俺の推論と同じだった。

モンスターを産み出している親玉が奥にいるはずだ。


いた。


奥も奥、最奥部にそれはいた。

全長三メルトほど、幅もそのくらいの肥大化した虫だ。

その感情なき複眼が、俺達を捉える。

嫌な雰囲気が、あたりを包む。


「カリバーン、行くぞ」


「応、リーダー」


「それは暫定だろうが」


熔けた鋼の剣を再度、“レーヴァテイン”へ構成する。

俺とカリバーンはほぼ同時に飛び出した。

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