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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
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神殿都市編04

それから私は夜闇に紛れて、色々あった建物を脱出した。

といっても私の力の暴走で、使われていた木材は全て消費され消えていた。

残っていたのは石で作られた基礎と、彼女だけだった。

あれだけの騒ぎで寝ていたのだから、たいしたものだ。

まあ、薬かなにかを盛られていただけかもしれないが。

女の子一人背負って夜道を駆ける私は、かなりの不審者だったが幸い衛兵さんにも、住人にも見つからず修道院へ帰りついた。

眠気はまったくなく、心臓はバクバクいっていた。

布団にもぐっても寝付けず、マハデヴァやマハタパスが襲ってきたらどうしようとか、私のこの力ってなんなのとか、考えていたらいつの間にか朝になっていた。


翌朝。

彼女は、普通だった。

普通すぎるくらいに。

昨日のことはともかく、深夜徘徊についても何も覚えていないようだった。

目の下にくまを作ってきた私に、ちゃんと寝なきゃ、とか言ってきた。

誰のせいだと思ってるんだよ、とか内心思ったが言わないでおいた。

幸い、彼女の行動も、私の尾行もバレずにすんだ。

あれだけのことがあったのに、日常は変化なく進んでいった。

まあ、私が黙っていればすむのかな。


というか、思い返して見れば結構な修羅場だった。

これをささやかな事件と思っていた自分が頭悪い。

そして、彼女は次の年の春先。

母国へ帰った。

砂の王国で内乱が起きそうだ、という情報が知らされたらしい。

あわただしく出ていくことになったから、最後に話もろくにできなかったなあ。


それから、夏が来て、秋が来て、冬が来て、年が明けてーー。


また、春が来て。

私は忘れかけていたその事件のことを思い出した。


きっかけは、ルーインだった。

ルーインあるいはマハデヴァ。

私と彼女を、いや主に私にひどいことをしたモーレリアの商人。

本当に商人だったかも不明だ。

私自身、忘れかけていたあの事件、そしてルーインの顔。

そいつの顔をデヴァインでまた見ることになった。

そして、私は事件のことを思い出したのだ。


その日。

私は、カルエンさんに頼まれたお使いに商店街へ出た。

イクセリオン修道院がある神殿地区は、王宮のあるデヴァール大神殿を中心に大きく広がっている。

円形の神殿地区は、北に粛水の女神レフィアラターの神域がある。


東には大地の巨人ドラスティアの神域。


西には風の旅人ソライアの神域。


そして、 南に私の暮らす浄火の神姫イクセリオンの神域と別れている。


また、レフィアラターの神域の外縁には魔杖の守護神ガストランディアの神域。


ドラスティアの神域の外縁には祝杯の守護神ジュオレンゼルの神域が。


ソライアの神域の外縁には天符の守護神ベリオラスの神域が。


イクセリオンの神域の外縁には威剣の守護神アーリードーンの神域がある。


商店街は、ソライアの神域の外縁のベリオラスの神域のさらに外にあるから、イクセリオン修道院からは結構遠い。

まあ、お使いと言ってもカルエンさんが言付け忘れた調味料の注文をしてくるだけだから、そんなに苦労はない。

楽なお使いになるはずだった。


商店街のさらに向こうはデヴァインの西門で、主にモーレリア方面からの旅人がそこからやってくる。

オラクル商店の老商人もそうだったし、ルーインもそこからやってきた。

私が、ハーブ屋からお使いを終えて出てきたとき、西門から入ってきたばかりの一行と遭遇した。


先頭は、中原で一般的な風貌の青年だ。

蜂蜜色の肌が、風を切る。

背で揺れる長い髪は赤い紐で結わえられている。

とびきりの美男子、というわけではないが涼しげに笑えば女の子の一人や二人は飛びついてくるだろう。

次に入ってきたのは、表情の読めない顔をした若者だった。

これも長い黒髪だったが、先頭の男とは違ってそのまま背に流している。

その黒い装束から、この若者がヤクシ族の戦士だと、私は直感した。

そして、最後にやってきたのがこれも黒い髪のやや長身の青年。

前の二人と違って、髪は短い。

軽薄そうな笑いをしていないことをのぞけば、ルーインそのものだった。

いや、むしろルーイン本人だろと思うほどだ。

ただ、服装はあの時と大分違っていた。

儲けていそうな商人のような、華美な服装だったルーイン。

しかし、目の前の男はよく使い込まれたであろう革鎧に丈夫そうな布の服、汚れているが厚く頑丈そうな外套、そして鋼の片手剣。

その見た目はまさしく旅の冒険者そのものだった。


違和感を覚えながらも、私は三人の後をつけることにした。

また、あんなことになっては大変だ。

好奇心は猫を殺す?

私は猫じゃないし、マハデヴァ達はあまりにも簡単に修道院の人間を殺すと言っていた。

遅いか早いかの違いでしかないとしても、行動することに意味がある、と私は思う。

現に、あの時は意味不明の力が暴走したとはいえ、惨事を防ぐことができたのだから。


三人は商店街を抜け、ベリオラスの神域とその敷地内にある歓楽街を抜けていった。

ベリオラスは“符”の神様で、賭博の守護者という側面があるとされる。

その結果、ベリオラスの神域に賭博場ができ、賭博場を囲む形で歓楽街ができていったのだ。

まあ、今回は関係ないし、昼の歓楽街は閑散としている。

これが、噂に聞く快楽の都モーレリアントなら昼も凄いのだろうけど。

ベリオラスの神域から、一行はソライアの神域へ入る。

神殿地区の地火風水の神域は、その外側と違って商業施設はない。

だから、非常に静かで落ち着いている。

ということはつまり尾行するのも、難しくなるということだ。

だから必然的に距離をとった私は、ほんのわずかな間、目を離した隙に一行を見失ってしまった。

こんなときに上手くいかない私、ダメすぎる。

とか焦って、曲がり角を覗いたら、そこには槍の穂先があった。

ギラリと煌めく金属。

私の顔が歪にうつっている。

背中に冷や汗が流れるのを感じる。


「何用だ、娘」


槍を握っているのはヤクシ族の戦士。

こちらを睨む目には、うっすらとした殺意。

おそらく、尾行に気付かれていたのだ。

自分で言うのもなんだが、素人丸出しでおそらく早い段階で気付かれていたんじゃないか、と思う。


「ご婦人にそんなに殺意を向けるものじゃないよ。シュラ」


蜂蜜ハンサムさんが止めてくれそうな雰囲気だ。


「ベスパーラ殿には関係ないこと。この娘は我が主を追っていた」


ヤクシ族の戦士シュラの勢いが増してきている。


「落ち着きなって。それにもしこの娘が間喋かなにかだったとしても、たいして役にたたないでしょうに」


蜂蜜ハンサムさんの言葉が私にグサッと突き刺さる。

ええ、ええ、確かに私は役立たずですよ。

修道院でも扱いに困られてますよ。

泣きそうだ。


「で、どうして俺を追っていた?」


軽薄さなしのルーインらしき男は、なぜか優しく聞いてきた。

むう、こいつルーインじゃない気がしてきた。


「あなた、もしくはあなたに似た人物にとてつもなく迷惑をこうむったため、同じ事態にならないよう後をつけました」


正直に言った。


「主、自業自得ですか?」


「君、ここで何やったの?」


ルーイン似の男は苦笑した。


「ここで迷惑をかけたことはないと思うけどな。そいつ、名前なんていうんだ?」


「ルーイン、って名乗ってた」


「じゃあ、人違いだ。俺の名はカイン。カイン・カウンターフレイム」


それが、私とカイン達との出会いだった。

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