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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
150/410

神殿都市編03

「これは不手際だな、マハデヴァ」


うっすらと明けていく意識に、私は気付く。

頬と体が硬いものに触れている。

どうやら、寝かされているようだ。

後頭部が、わずかに痛いがそれ以外に異常はなさそうだ。

黒山羊が言っていた悪しき奴らがやったのだろうが、案外優しいのかな?

いや、これから何かされるのかもしれない。

と、妙な想像をして震える。

それに、彼女はどうなった?

目覚めるきっかけになった声は女性のようだったが、知らない声だ。

その女も悪しき奴らの仲間なのかな?


「不手際とはどういうことだい?」


今度はルーインの声だ。

なるほど、奴が悪しき奴らなのは間違いない。


「関係のない者を巻き込むことだ」


「別にいいじゃないか。どうせ、あの修道院の連中は全員口封じをしなくちゃならない」


口封じ、という言葉の響きが私には不吉に感じられた。

概ね、間違っちゃいないと思う。


「そういうことじゃない。私は一気にやりたいんだ」


良識的な人物と思ったその女も、やはり悪しき奴らだった。

口封じに際して、一気にやるなんてどういうことだ、と考えてしまう。


「君には悪いがね。こんな面倒な仕事、少しくらい楽しみがあってもいいだろ?」


「若い女をそうやってたぶらかすから、こういう余計なものがついてくるのだ」


「ターゲットが若い女だったのはたまたまさ。あの砂漠の人間はあまり外に出ないからね。まさか、それがテリエンラッドの血族だとは思わなかったよ」


「ムンダマーラは、テリエンラッドをやけに憎んでいたからな」


「そう。だから、テリエンラッドに固執して砂漠の奥地に封印されるはめになる」


目覚めさせる苦労を考えてほしいね、とルーインは言った。

こいつらは、彼女を使ってムンダマーラとやらを目覚めさせるつもり、だということはわかった。

そのムンダマーラが何者で、それが目覚めるとどうなるのかは私にはわからない。

けど、非常にマズイことになりそうだ。


「お前が把握している限りで、何人目覚めているんだ?」


女の声が、ルーインに問いかける。


「僕ことマハデヴァ。君ことマハタパス。モーレリアにはニーラカンタがいる。今回は協力してもらったけどあの人は癖があるからね」


「お前ほどひどくはないさ」


女ーールーインにはマハタパスと呼ばれていたーーは呟く。

ルーインは聞こえているのか、いないのか、話を続ける。


「パシュパティはルイラム、ハラはコレセント、プーテスバラはプロヴィデンスでそれなりの地位についている」


「ムンダマーラはラーナイルに封印され、ガンガーダラは中原のどこかに封じられている、のだったな」


「僕のセリフをとらないでほしいな。それで、バイラヴァは大陸の南端ヨルカあたりにいるはずだ。寝ているか、起きているかはともかく。そして、シャンカラだけど、あいつは何しているのか不明」


「まあまあ、だな。封じられているのより、目覚めているほうが多い」


「まあ、全員目覚めてもらわないといい加減始まらないからね。と、ここまで聞いたからには君は生きて帰れないわけだけど、どうする?」


そのセリフは、おそらく私に向けられている。

ルーインは、私が起きていたことに気付いた、否、気付いていた。

なぜかはわからないが、話は聞かせていたらしい。


「起きてるんだろ?」


ルーインは私の髪を掴んで引き上げた。

その髪が引っ張られた痛みで、思わず声が出る。


「痛ッ!」


「目を開けろ」


これ以上、無視したら何をされるかわからない。

私は目を開けた。

ルーインの笑顔があった。


「僕はね。意味もなく、殺す、のが好きなんだ。でも、立場上そうもいかなくて、イライラしていた。だから、君をつけさせた」


つけさせた。

私の来ることをわかっていて、つけさせたのだ。

私は、この男の手のひらの上で踊っていたんだ。

簡単に引っ掛かって、バカみたいだ。


「殺しなさいよ。どうせ、全員殺す気だったんでしょ?今、死んでも同じだわ」


「そんなことはないよ。君は、君の命は価値がある。そう、僕に惨めに殺され、僕に満足感を与えるという価値がある」


惨めに殺されるだけの、価値。

そんなものはいらない。

だいたいなんで、こんな奴に殺されなきゃならないのだ?

こんなに清く正しく生きてきた、この私が。

どうせ、死ぬならやりたいようにやらせてもらう。

ふっきれた私は言ってやった。


「そんな価値いらないわ。このクソ野郎」


うわぁーお、あたしってばこんなに汚い言葉もはけるのね。

カルエンさんに怒られるわ、これ。

私の啖呵に、マハタパスがクスリと笑う。

どうやら、マハデヴァは笑われ慣れてないとみえ、額に青筋を浮かべるほど怒っている。


「どうやら、死にたいらしいな?」


「死にたいわけじゃないわ。あなたがクソ野郎なのは本当のことだもの」


「死ね」


マハデヴァは、私の髪をつかんだまま上に引き上げた。

凄く頭皮が痛いんですけど。

そして、もう片方の手に魔力が込められる。

私のような素人が見てもやばそうな魔力だ。


魔力の集まっていくのを見ているとなんだか、妙な気分になっていく。


遠い昔。

私が、わたしとワタシに別れていて、ワタシは魔力の下僕で、わたしは死にながらそれを見ている。


彼はワタシを牢獄から解き放った。


彼は貼り付けられたわたしを見ていた。


彼の名は。


「ロンダフ」


私は、記憶の氾濫から我を取り戻す。

あふれでた記憶とともに、魔力もどこからか溢れ出す。

私を見ているマハデヴァとマハタパスの顔色が変わるほどの魔力。


「貴様、奴の下僕か!?」


マハデヴァは、手に込めた魔力を解き放つべく、拳を突き出す。

本来ならば、打たれた私の体を突き抜けるほどの威力であろう拳は、私に当たる寸前で動きを止めた。

マハデヴァは困惑した表情を浮かべている。

その体にびっしりと木の枝が巻き付いていたからだ。


「娘!何をした」


マハタパスがこちらへ駆けようとしてくる。

意識がそちらへ向いた瞬間、床が鈍く輝く。

そこから、木の枝が幾本も伸びマハタパスを縛る。

見れば、木製の床から壁から天井から、まるで密林のように枝が伸び、次から次へとマハデヴァとマハタパスへ絡み付いていく。

私は、この現象を知っている。

初めて使った能力だが、知っていた。


「“リビングデッドウッド”」


植物限定の蘇生能力。

蘇った植物は、ある程度自由に操れる。

そして、その植物は一定時間の経過で再び死ぬ。

いや、死よりも酷い。

消滅する。

この世から、跡形もなく消え去る。

その力が、今この家を対象として発現していた。


「くッ!このままではらちがあかん。マハタパス、脱出するぞ」


「ホントにそれは不手際だぞ、マハデヴァ」


マハタパスは腕力で蘇った木の枝を引きちぎる。

再び死んだ枝と、そのもとになった床の一部は消え去る。

だが、次の枝がマハタパスへ襲いかかる。

マハタパスは手に持った槍を振るい、枝を払いのけた。


「マハタパス!」


マハデヴァの声にマハタパスは、槍を一閃。

マハデヴァに傷ひとつつけずに枝を取り去った。


「娘、なかなか楽しい趣向だった。魔王様が目覚める前にこのマハタパスが殺してやろう」


「お前は許さん。マハデヴァへの暴言の数々、万死に値する。楽に死ねると思うなよ!?」


「“震天”」


マハタパスの繰り出した槍の一撃が、壁に穴を開けた。

そこから、マハデヴァとマハタパスは脱出していった。

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