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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
144/410

魔法ギルド編06

赤の尖塔研究。

中間報告。

対攻撃魔法用実験の献体をアメンティス氏より提供される。

“符”魔法の才があり、実験に相応しい献体だ。

その日から研究を開始する。

第七階位相当の火炎、麻痺混合魔法の開発実験を開始。

火炎系統の威力が高過ぎコントロールに難がある。

やはり、黒魔機関の協力が必要か。

研究を続行する。

追記。

献体に意識の発生を確認。

適当な名前と過去を刷り込みし、対応する。


飢え、というのは人間、いや動物にとって根源的な欲求だ。

水分の不足からくる渇きと違って、飢えはある程度我慢ができる。

しかし、我慢したからといって何も食べなければ飢えはますます酷くなり、体と心を苛む。

飢えによって乱れたペズンの精神的なバランスは、パシュパティの干渉を受けて崩壊した。

食欲に支配され人型の魔獣と化したペズンには、アベルの言葉は届かない。


とは言ってもアベルのほうでも大したことは言っていないけど。


「僕の腕なんか食べてもおいしくないよ」とか「これ以上来ると、本気で倒すよ」


といった程度だ。

ペズンは全く、耳を貸さずしゃぶりつくした腕の骨をペッと投げ捨てる。

そして、獲物に視線を向け構える。


「治癒魔法は得意ではないんだけどね」


アベルはまたもや無詠唱で“杯”の治癒魔法を放つ。

失われた左腕の骨が生成され、腱が伸び、肉が増える。

皮膚が再生し、アベルは新しい手を何度か握って異常がないか確かめた。

新しい腕を見て、ペズンはぐるると唸る。

どうやら、アベルのことを減らない食糧として認定したらしい。

歓喜の唸りのようだ。

そして、獣の行動原理のまま飛び出した。

が。

雷鳴のような音がして、ペズンは動きを止める。

いや、動きを止めた時にはすでにアベルの仕込んでいた“杖”の設置型攻撃魔法が発動していた。

魔法の雷で射抜かれ、ペズンは全身から黒い煙を出している。


「本日二回目の電撃だよ、ペズン君。もう少し学習したほうがいい」


ぐるると唸るペズンは、目を光らせた。

その瞬間、アベルは全身に電撃を浴びせられた痛みに襲われた。

アベルのように電撃魔法を無詠唱で使った様子は無かった。

そもそも、ペズン程度の魔力ではアベルの高い魔法防御を突破できるわけはない。

つまり、ペズンが使ったのは魔法ではない、ということだ。

もちろん、直接攻撃でもない。

ならば。


「魂の使い方を会得している、というわけですか」


第13階位“死”の階位を突破したものだけが見いだすはずの固有の能力をペズンのような若者が使えるというのは信じがたかった、信じがたかったがアベルはその前提で動きはじめた。

実際に使っている以上、もしとか、はずは意味がない。

電撃、のようなダメージというのがポイントだろう。

おそらく鍵となるのは、アベル自身が放った設置型攻撃魔法“サンダートラップ”。

こちらで食らったダメージも、それと同じくらいだろう。

受けたダメージを反射する能力だろうか?

ペズンは唸りながら、襲ってくる。

油断すれば、さっきのように腕一本持ってかれる。

治せることは治せるが、食われた瞬間のあの激痛は正直勘弁してほしい。

回避しながらの思考だったが、アベルは次に打つ手を見出だした。


「“杖”の第三階位“ピアッシングサンダー”」


高速発動かつ必中の電撃魔法であるピアッシングサンダーは威力こそ低いが、急所に当てるのが容易で当たりどころ次第で一撃必殺になる場合もある。

魔力消費も低いため、過去のアベルはよく使っていた。

電撃は跳び跳ねるペズンに着弾。

悶絶するペズンの目がギラリと光る。

それを確認した瞬間、きた。

はじめに熱。

そして、痛み。

それから、痺れ。

だが、低階位の魔法だけあってそれほどのダメージではない。

アベルはすぐに復帰できた。

ペズンは、当たりどころが悪かったようで震えている。


「範囲ダメージ投射、の能力ですね。そういえば、カイン君達がフェルアリードの拠点“灰色の迷宮城”で戦った相手にそんな能力を持った相手がいましたね」


フェルアリードによって、強制的に“魂の使い方”を覚えさせられた魔法使い達がいた、と寄越された記録に書いてあった。

案外、アルフレッド・オーキスという男はマメなのだ。

と、砂の王国の戦士のことを思い出す。

それはともかく、相手の手が分かればやることをやるだけ。

アベルは魔法を無詠唱で放つ。

詠唱する時間は威力に影響するが、強力な魔法を放つには長い時間詠唱しなければならない。

その間は、完全に隙だらけだし、相手に手を読まれる。

短い詠唱で放てる妨害魔法だって無いわけではないのだ。

だから、アベルはよほどのことがなければ無詠唱で魔法を放つことにしていた。

威力を補うために、“風の旅人ソライア”とオース魔法で契約を結んでいる。

使う魔法も風に属する電撃魔法を中心に構成しており、オース魔法のメリットを活かしている。


魔法を高速かつ連続で放つ。


「“杖”の第三階位“ピアッシングサンダー”を五連続」


宙を駆ける五本の電撃は、次々にペズンに命中する。

ダメージは少ないだろうが、痺れは止むことなく体を苛むだろう。

動けなくなったペズンにアベルは近付く。


「“杯”の第七階位“ディススペル”」


青く清らかな光が、アベルの手から放たれペズンの体に染み込む。

魔法分解効果を持った光が、ペズンの体に侵食している魔獣変換魔法を駆逐していく。

これが、アベルの目的だった。

言い方は悪いが、ペズンごとき木っ端魔法使いなど古代から転生した魔導師にして魔道皇帝アベルにとって道端の小石以下である。

それが魔獣化しているとしても、だ。

超高速必中魔法を当てれば一撃で、この世から吹き飛ばすことができる。

それをしなかったのは、ペズンの命を助けたかったからだ。

木っ端魔法使いとは言ったが、ペズンの素性を推測すると興味深いものがある。


「ん……あ、れ?」


「目が覚めましたか?」


「こ、こは閉鎖図書館?何が?あれ?」


「君は魔王の手下に操られ、僕を襲ったんですよ?」


大分はしょっての説明だが、おおむね間違ってないだろう。


「あ、うーんと何か覚えてるような」


「まあ、それはいいです。さて動けるようなら行きますよ」


「へ?どこにです?」


「王宮です。魔王の手下パシュパティを止めなければなりません」


「ぼ、僕もですか?」


「そうです」


「なんでですか?僕を連れてく理由はなんです?なんで、なんでなんですか!?」


ペズンは紫の髪をグシャグシャとかきむしりながらわめく。


「今。ルイラム王国の戦力は底をついています。魔法ギルドは壊滅。王宮付き魔法使いは魔獣と戦い、衛兵隊は謀反を起こし王都へ攻め寄せようとしています。使える者はなんでも使います」


「そ、そんな……」


ガックリと頭を下げるペズン。

そこへ、アベルは声を掛ける。


「この騒乱が収まったら」


「?収まったら、なんです?」


「王宮の宮廷調理師の豪華料理全席を食べさせてあげます」


「!?」


ペズンは顔をあげた。

どころか、跳ねるように立ち上がる。


「さあ、行きますよ」


「はい!!さあ、行きましょう」


ペズンは走っていった。

食欲に対して忠実になってしまったペズンを見て、少し将来と王宮の備蓄食糧が心配になったアベルだった。

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