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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
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砂の王国14

ホルスの知っていた抜け道を通り、地下牢から脱出できた。

いやに呆気ないとは思う。

それ以上になぜホルスが一人で脱出しなかったのかが気になる。


尋ねると「一人で脱出しても意味はない。イレギュラーな協力者がいれば、それだけ打てる手が広がる」とのことだった。


脱出した先は墓地。

月明かりだけが、その静かな区画を照らしている。


しかし、その静寂を引き裂くような風切り音。


二本。


俺とホルスは左右に跳ねて回避。

地面には投擲用ダガーが二本、穴を穿つ。

ダガーの放たれた場所を、その向きから推測し“杖”の第一階位“マインドピック”を発射。

苦手なカテゴリの“杖”呪文だが上手くいった。


白い光の針が夜闇を疾る。


だが、その先端は獲物をとらえることなく効果時間の終わりとともに消えた。

詠唱も発動も速度も早い、最速レベルの魔法を避けるかよ。

横を見ればホルスも似たような行動をとっていた。

速度こそ遅いが、広範囲を照らす炎の魔法だ。

だが、その明かりも敵の姿を捉えられない。


「恐ろしく早いぞ、奴ら」


ホルスの呟きに同意する。


「セトは暗殺者でも飼っているのか?」


「いや、ラーナイルにここまでの腕の暗殺者は来ていないはずだ。セトの育てた精鋭か、噂でしか聞かない暗殺者ギルドか」


話している間にもダガーが俺たちの周囲に投げつけられる。

最初ほどの精度はないが、付近を刃のついたものが飛んでいくというのはあまりいい気分ではない。

それに、たまに甘いのが飛んでくるが何かの罠のようにも思える。


「嫌な感じだな」


「ああ、妙に誘導させられているような」


ふと、下を見ると何本か前に投げられたダガーが刺さっている。

その柄に刻まれた文字に気づく。


“条件付き爆破”


その不吉な文字の並びに震えが走る。


“条件付与直径2メルト魔法陣”

“効果範囲2メルト”

“待機時間2592000セカンダリ”


これは、爆破のエンチャントがされている!?


「ホルス!」


俺の声にホルスもダガーのエンチャントに気づく。

その顔が爆煙に消える。

遅れて轟音。


視覚と聴覚が麻痺させられた。

立ち込める煙、轟音で遠くなった音。

不明瞭な空間で爆発が連鎖する。

投げられたダガーの数だけの爆発。


これが目的だったのだ、とようやく気付いた。

爆発の中心に誘導する。

そのための投擲。


ずいぶんと頭の回る奴だ。

そして、爆発の最中でもダガーは飛んでくる。

かわさなければ痛いし、かわせば爆発する。


ダガーを回避、爆発を回避。


ダガーを回避、爆発を回避。


ダガーを回避、しながら違和感を覚える。


高精度で狙ってくるダガーだが、かわそうと思えばかわせる程度の速さだ。

速さだけなら、魔法の“マインドピック”のほうがよっぽど速い。

そして、爆発だが効果範囲に比例するかのようにダメージが小さい。

音と煙は凄いが、それだけだ。

俺たちをどうやって倒すかわからない。

決定的なダメージソースがなければ、いかに誘導したって無駄だ。

だとしたら、これは陽動だ。

動きを限定させ、反復させ、慣れさせて、できた隙を狙う。


暗殺者は隙を殺す。


夜が暗殺に適しているのは闇で視界に隙ができるからだ。

なにかに集中していれば、その反対に隙ができる。


暗殺者はそれを狙う、と言っていたのは軽業師だった。


前からダガーが飛んでくる。

反射的に右へステップ。

避けたところへ、さらに右からダガー。

もう一度避け、今度は後方にステップ。


そこで震えるほどの悪寒。


ここが隙だ。

暗殺者がいく本ものエンチャントダガーを犠牲にして生み出した隙。

連続の回避で俺の足は止まり、爆煙と轟音で五感が潰されている。

わかっていても回避できない。


いや、さらに思考を進めろ、と俺の奥でささやく声がする。

ここまで持ってこなければ相手は俺のことを殺すことができない、とすればこの千載一遇の機会に狙ってくるに違いない。


であれば、頭、喉、心臓、のどこか。

他の場所だと魔法で回復される可能性がある。

一撃で致命傷を与えなければならないなら、このいずれかだ。

ここまで考えてあとは反射に任せる。


もう考えている時間はない。


体が選んだのは後ろに倒れこむ、だった。

後頭部にぐにゃりと柔らかいものが潰れる感触と苦痛の声。


どうやら相手の顔面に頭突きしたらしい。

その手にダガー、首をかっ切るか背中を刺すか、何をする気かわからなかったがどうやら阻止するのには成功した。


やがて煙も晴れ、立っていたのは俺とホルスだった。

お互いに相手の顔を見てニヤリと笑う。


「いやあ、さすがはカインとホルスだな。次は俺の相手をしてくれよ」


墓地に響く声の主は暗緑色の鎧を着ていた。

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