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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
138/410

ガッジール王国編08

結局のところ。

カリバーンは炎の王より強くなっていた。

黒騎士が太鼓判を押したのだから間違いないだろう。

黒騎士の上段からの縦切りーーしかも、爆発魔法を三段かけて凄まじい威力と速さになっていたーーを受けて、剣も、カリバーンも無傷だった時にカリバーンはいけると判断していた。


問題は、その後になぜか興奮したグウェンが糸を放って乱入し、モルドレットも面白そうだからと言って黒騎士に殴りかかったことだ。

状況的に、カリバーンが壁となって黒騎士を引き付け、モルドレットが攻撃を担当し、グウェンが糸で拘束をかけながらサブ攻撃役を担う、というパーティー戦闘へと移行していた。

上手く連携が取れれば、個々の実力よりも強い相手と渡り合えるパーティー戦闘は、黒騎士をわずかに、だが確実に追い詰めていく。

なし崩し的にとは言え、パーティーを組んだことでエクスカリバーの特殊効果の適用範囲に含まれたらしく、グウェンとモルドレットは体力の充実や防御力の向上といった効果を感じていた。

カリバーンのエクスカリバーに炎の大剣の攻撃を阻まれ、グウェンの糸を避けつつ、モルドレットの攻撃を防ぐ黒騎士は、致命傷こそ避けていたものの、ダメージが蓄積されていくのが全員にわかった。

黒騎士でも、ダメージを与えることはできるのだ、とモルドレットは希望を見出だし、攻撃を加速させる。

徐々に、カリバーン達の方へ勝利は傾いていく。

だが。


「誉めてやるぜ。俺に本気を出させるんだからな」


黒騎士の、その台詞が反撃の合図だった。

モルドレットの放った黒と紫に輝く蹴りは、黒騎士に掴まれ止められた。

ガタノトーアの力が込められた鎧の力が、黒騎士によって干渉され黒と紫の光が消えていく。

ほとんど力を込めない黒騎士の腕の振りで、モルドレットは空中へ投げ出された。


「モルドレット、お前の鎧の防御力なら死ぬことはない」


黒騎士は左手で何かの印らしきものを結ぶ。

広げられた手のひらから、白い光の槍が放たれる。

かつて、モルドレットはアズに似たような魔法を食らったことがある。

あの時は黒い槍だった。

無詠唱かつ、高速で放たれた魔法にそんなことを思いながらモルドレットは吹き飛ばされ、廃墟の壁に叩きつけられた。


「グウェン。その怒り癖は何とかした方がいい」


モルドレットが吹き飛ぶ時には、グウェンは糸を掴まれ身動きがとれなくなっていた。

糸を通じて、拘束魔法をかけられている?と理解したときにはグウェンも意識を失っていた。

黒騎士が糸を通じて放った魔法は、グウェンの精神を拘束し、意識を刈り取るもの。

展開と発動が早すぎて、グウェンには防ぐこともできなかった。


「カリバーン、合格だ」


二人を一瞬で倒した黒騎士は、いつの間にか現れた黒い剣を降り下ろしていた。

エクスカリバーが受ける。

黒い剣と黄金の聖剣がぶつかりあい、鎬を削る。


「合格というのなら、この剣を引いていただきたいな」


「己の力で押し戻してみればいいだろ?」


やはり、黒騎士は化け物だった。

ほんのわずかな間に、グウェンとモルドレットを倒し、今カリバーンを屈服させようとしている。

しかも、片手持ちで。

強くなればなるほど、自分との差が広がる気がする。

まあ、それを認めるのもなんだか癪にさわるのは確かだ。

カリバーンは意地でも押し戻そうと踏ん張った。


ほんの一センチメルト。

指一本分の距離を押し戻すのが精一杯だ。

しかし、黒騎士はそれで満足したらしい。


不意に力の行き場を無くして、カリバーンは前につんのめる。

なんとか倒れずにはすんだが、体勢が崩れている。


「ここをやられたら終わりだな」


やや自嘲気味に呟くと、そうだな、と黒騎士が笑う。

いやに爽やかな笑いだった。

どこかで聞いたことのあるような……?


「試験は終わりだ。血の気が多い奴らのせいで思った以上に頑張っちまったぜ」


既視感は去っていった。

残ったのはほどよい疲労感だけだ。


「強いな。やはり強い。まだ届きそうにない」


「俺が強いのは否定しない。あんたも今の時代にしては充分強いがな」


慰めになってない黒騎士の台詞に、カリバーンは思わず笑った。

起き出してきたモルドレットとグウェンは、笑うカリバーンに首を傾げるだけだった。


黒騎士は、その少し後に去った。

なんでも、ルイラムで用事があるらしい。

あれだけ大暴れして、すぐに動けるのはやはり化け物だ。

モルドレットもグウェンも大した怪我はない。

手加減して大暴れをするとか……。

本当に何者なんだろうか?

あれだけの化け物が居れば、魔王のミニオンなど恐れることはないのではないか?

それを直接聞いてみると、俺一人に十人相手しろと?疲れるだろ?との答えだった。

ゼットのような奴を十人相手して疲れるだけ、か。

黒騎士の凄さを改めて理解することになった一日だった。


モルドレットはガッジールの復興に携わるため、集合には間に合うように出発するそうだ。

カリバーンとグウェンは翌日出発することにした。


その夜。

モルドレットに連れられて、アルキバがグウェンの部屋を尋ねた。


「聞けば昨夜、幻術をかけられたとか?」


面食らいながら、グウェンはそうだ、と答えた。


「それがなにか?」


「こいつの仕業だったので、謝罪をしたい」


アルキバがモルドレットに頭を押さえられ、謝った。


「ごめんなさい」


「ちゃんと反省しているのか?」


「はい……」


その様子が親子の会話のように見えて、グウェンはクスリと笑ってしまった。


「私は、なんていうか嬉しかったんです。会えなくなった人に会えたから」


「へっへ~、モドさん。おれ、役に立ったでしょ?」


「調子にのるな」


と、モルドレットがアルキバに拳骨をくらわせた。

頭を押さえて、わめくアルキバにグウェンはまた笑った。

こんなに笑ったこと、最近無かったな、とグウェンは思った。


モルドレットとアルキバはほどなく去り、グウェンは今夜はゆっくり休んだ。


冬の月明かりが照らす道を、モルドレットとアルキバは帰っている。


「というか、幻術なんぞいつ覚えた?」


モルドレットは聞いた。


「ん~、いつの間にか、かな?」


「いつの間にか、か。便利だな」


「シェーミ兄ちゃんも、つい最近だって言ってたよ」


「俺がガタノトーアに出会ったころか?」


「ああ……そうかも」


「そうか」


モルドレットに力を分けて、さらにガッジールの民へも力を与えて、ガタノトーアは何をするつもりなのか。


『さてな。人の時代の一区切りがやってくる故に、せめてガッジールの民は救わんとする親心、とでも思っておけばいい』


頭に直接突き刺さるような、ガタノトーアの言葉の塊に、モルドレットは微笑んだ。

邪神と言われてはいるが、面倒見がよいのだな、とガタノトーアの評価を上昇させたのは邪神殿には秘密だ。


夜が明けて、カリバーンとグウェンは旅立った。


「挨拶しなくて良かったのですか?」


「モルドレットはすぐ会える。それにガッジールの民にこれ以上負担をかけるわけにはいくまい?」


「確かに、美味しい食事を頂きましたけど。無理している感じでしたね」


「だから、何も言わずにいくのだ」


薄暗い朝に、二人は歩いていった。

綺麗に片付いた二人の部屋に、誰もいないことにガッジールの民が気付くのにはまだ時間がある。

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