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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
136/410

ガッジール王国編06

翌朝。


ロンダフ三番通りにも朝日が当たり、綺麗に片付いた街路に残雪が輝いていた。

その煌めきに照らされて、カリバーン達もそこに立っている。


まぶしさに目を細めながら、カリバーンはあたりを見回す。

平服のモルドレット。

妙にすっきりした顔のグウェン。

シェーミとアルキバ。

カリバーンを含めて五人が、そこにいる。


「それでは始めましょうか」


シェーミの言葉にモルドレットとカリバーンは頷く。


「アルキバ、この三番通りの歪みは今は見えるか?」


「ううん。見えないね」


「やはり、モドさんが鎮静化させたのが続いてますね。では、私の力で一時的に歪みを発生させます。そのあと、アルキバは預かった剣の記憶を引き出して、カリバーンさんが剣と対話し、再生をはかるという手順です」


「わかった」


アルキバが承諾し、続いてカリバーンも頷いた。

とは言うものの、剣との対話をどうやるかなど疑問はおおいにある。

というか、怪しい。

モルドレットに連れられて、のこのことガッジールにまで来た自分がおかしく感じる。

だが、ここまで来たら出たとこ勝負だ。

半ば諦めのような気持ちだったが、カリバーンは覚悟を決めた。


「モドさんとグウェンさんは周囲の警戒と、歪みでもし悪影響が出た場合の対処をお願いします」


「無論だ」


「わかったわ」


二人の応えを確認して、シェーミは作業を始めた。


「我らが父祖たる暗黒の魔物の神ガタノトーアに乞う。我は汝が加護受けしガッジールの子シェーミなり、我が声に応え御身の力を顕現させたもう。いざや、汝が力を汝の形でここに顕さん。汝が力を借り受ける古の秘術の再現を持って、我が誓願となさん。“魔”の第六階位“ダークドレイン”」


カリバーンの知る限り、それは伝承されているどの魔法とも違う呪文だった。

祈る神はガタノトーア。

通常ならば、杖剣符杯の四柱の神に魔法の枠組みを祈り、そこへ地火風水闇の五柱の神の力を満たすことで魔法は成立する。

しかし、シェーミはガタノトーアただ一柱に祈り、魔法を成立させている。

神の側からの深い加護と、人の側からの篤い信仰があってこその魔法だった。

ある種の、天才と呼ばれる人々は行使したい魔法の呪文がひとりでに頭に浮かぶのだという。

この聞いたことのない、シェーミの魔法も、その産物なのかもしれない。


カリバーンの考察をよそに、シェーミの祈りはガタノトーアに聞き届けられ、魔法は発動した。

遥か昔の“旧支配者”らが構築した邪神からの魔力吸収装置に擬されたシェーミの“ダークドレイン”は凄まじい量と質の“闇”の魔力をガタノトーアから吸い上げ、シェーミを通してガッジールに放出している。

さながら、“魔力炉”からの無限魔力のように。

そして、カインのような無限魔力をプールする器を持たないシェーミは魔力の通過する苦痛と快感に顔を歪め、魔法のコントロールに全力を注いでいる。

カリバーンは、シェーミがミスればガッジール全体が危険にさらされると理解していた。

それは、モルドレットもグウェンもそうだ。

非常に危ない橋を渡っていることを、皆気付いている。

長いような、短いような時間が過ぎシェーミの魔法は停止した。

放出され、利用されなかった溢れた魔力は形を成せぬまま、キラキラと発光してガッジールの空に舞っている。

そして、地の底から大量の魔力を吸い上げた歪みがゆっくりとロンダフ三番通りを覆っていく。

歪んだ時間の波が、押し寄せ引いていく。

そうして、歪みは再現された。


青い顔をしたシェーミが叫ぶ。


「アルキバ!出番だぞ、しくじるな!!」


わかってる、というふうにアルキバは一度頷き、前に出た。


「メモリゾーン展開、アクセス。クロノエクスコントロール領域を検索……ヒット!!デバイスと接続、いいよ、開ける!!」


アルキバの謎の呪文を聞きながら、カリバーンは徐々に何かが近付いてくるのを感じていた。

呼び出しているのはなんなのだ?

古代ルーン語と現代ウルファ共通言語の入り交じったアルキバの魔法はこの場の誰にも理解されていなかったが、何かが起ころうとしているのはカリバーンだけではなく、皆が感じていた。


いつの間にか。

カリバーンは真っ白い光に包まれていた。

目がくらむほどの強い光だ。

そして、誰かに見られているような視線を感じる。


「オペレーター確認、アーサー・カリバーン・ペンドラゴン。ようこそ、クロノエクスコントロール領域へ」


古代ルーン語らしき音声が、語りかけてくる。

不思議と内容は理解できた。

名前を呼ばれ、歓迎されたことは確かだ。


「誰だ?私のことを知っているのか?」


「オペレーターの音声を確認中。極東アジア言語に類似したオリジナル言語と判断。便宜的にウルファ共通語と定義し、以降使用します」


カリバーンの問いかけに、わけのわからない言葉で返したのは何者か。

カリバーンは警戒しつつも、動きがあるのを待っている。

やがて、ゆっくりと光の明るさが収まり、ウルファ大陸の宿屋によくある寝室のような部屋が現れた。

四台ほどの寝台とエンドテーブル、大きめのクローゼット、板張りの床に白い壁、窓の向こうには青い空と緑の田園風景が広がっている。


「名乗りが遅くなってすまないね。カリバーン」


寝台に腰かけている人物が、声をかけてきた。

突然、何者かが現れるなど今更驚くことでもない。


「あなたがクロノエクスか?」


剣との対話、とシェーミが言っていた。

これがその展開に沿っているならば、彼が聖剣クロノエクスだろう、との判断だ。

耳の下あたりまで伸ばした金の髪、彫りの深い顔には青い瞳、立ち上がればカリバーンと同じくらいの身長、いや全く同じかもしれない。

要するに、カリバーンと同じ顔、背丈の男だったというだけだ。


「そうだよ、カリバーン。ああ、この姿かい?君の容姿をトレースしたんだ。気に入らなければ変えるけど」


「いや、構わんよ」


「言語も大分変わっていたし、適応させるのに苦労したよ」


クロノエクスの中のカリバーンに似た男は、苦労を感じさせない笑顔でそう言った。

カリバーンが見せたことのない笑顔を、同じ顔でされると気持ち悪い。

やはり、自分の顔を模されるのを断れば良かった、とカリバーンは思った。


「クロノエクス、と呼べばいいのか?」


「そうだね。別にそれでも構わないよ」


「では、クロノエクスよ。早速本題だ。お前を復活させる方法を教えてくれ」


クロノエクス、と呼ぶことを了承したカリバーンを模した男は軽く笑った。


「復活させるもなにも、時間制御型魔力素子干渉デバイスとしてのクロノエクスは壊れていないんだよ。オペレーターのレストアがあれば再生可能なんだ」


「すまんが、言っていることが私にはわからないのだが?」


「ああ、そうだね。文明は大幅に退化してしまった。言葉を適応させても通じない、か。噛み砕いて言おう」


クロノエクスは残念そうに言う。

聖剣が出来てから幾星霜の年月が流れたのか。

その間に、人間の文明は衰えてしまったらしい。

そして、クロノエクスはカリバーンにもわかるように言い直した。


「クロノエクスは壊れていない。あとは君の意志次第で甦る」

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