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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
134/410

ガッジール王国編04

モルドレットの話を聞いて、アーサー・カリバーンは驚いていた。

かつての部下の良い意味での変わりように。

他人のために働くなどと、以前の彼からは決して出てこない言葉だ。

建前や欺瞞の言葉として出てくることはあったにせよ、だ。

なるほど、今の彼ならば守護者としての王に相応しい。

高貴なる義務という言葉があるが、今の大陸の王候貴族の中でもそれを意識している者がどれだけいるか。

民から貢ぎ物を得て労働から解放されるかわりに、有事の際には民の前で戦い、彼らを守らなければならない。

それが真の意味での王候貴族のはずだ。


モルドレットはその後、邪神ガタノトーアの予言に従い、聖なる剣を持つ旧知の者を探しにレインダフに現れ、そしてカリバーンと再会した、ということらしい。


カリバーン、モルドレット、そしてグウェンの三人でガッジールを目指している。

普通のウルファ人なら嫌悪の表情を浮かべて拒否するであろうガッジール訪問を、他大陸人の二人はむしろ好奇心をもって喜んでいた。

二十年前の激戦の地であり、魔王ロンダフの支配下にあった街だ。

不謹慎だがワクワクする。

ガッジールはレインダフの南にある。

“ウルファの目”と呼ばれる大平原が広がり、今の季節はうっすらと雪が積もっている。


「そもそも、どうしてロンダフ王は大陸制覇をしようとしたのですか?」


グウェンがモルドレットへ問い掛ける。

普段は淑女としての教育の成果が出ており、非常に礼儀正しい。

カリバーンの前だけなのだ。

荒れ狂うというか、病んでいるというか、そういう態度を取るのは。


「当時は私も幼かったので聞いた話ですが」


と前置きしてモルドレットが話始める。


「ロンダフ王にとって大陸制覇は手段であったそうです」


カリバーンとグウェンの顔に疑問符が浮かぶ。

とてつもない労力をはらって成すことになるだろう大陸制覇が手段?

二人の疑問を当然だろうとモルドレットは頷き、話を続ける。


「問題は大陸制覇の後だったそうです。彼はウルファ大陸を、その上に住む全ての民を生け贄にして邪神を現世に呼ぶつもりだったようです」


情報源は邪神ガタノトーアである。

ただガタノトーアにも、ロンダフがどんな神を呼ぶつもりだったかはわからなかったようだ。

ガタノトーア自身は呼ばれてもいかなかった、と教えてくれた。


「うむ。スケールのでかい話だ」


「君臨すべき土地をなくしてなお得たいものがあったということですか」


住むべき土地を失おうとしているグウェンにとって、ロンダフのやったことは理解しがたい。

だからこそ、後世にまで名を残す人物なのだろうが。

だが、そんな悪名ならば欲しくはない。


「ともあれ、ロンダフ王は決戦に敗れ、亡くなりました。今のガッジールはその脱け殻に過ぎません」


過剰な期待はするな、ということだろうか。

廃墟へ向かう旅路を歩きながら、グウェンは初春の雪混じりの風を受けた。

まるで、来るのを拒むかのような突風だった。


結果としてたいした苦労もなく、一行はガッジールへたどりついた。

ウルファの目大平原を過ぎれば、昔の街道がガッジールへ繋がっている。

誰も通らないと結構荒れるものなのだな、と雑草だらけの道を歩きながらカリバーンは思った。

そして、いつの間にかガッジールへ入っていたことに気付く。

中心部の方こそ建物は残っているが、周辺部は大平原に飲み込まれつつある。

繁殖力の強い雑草は街のあとも何も関係なく、根をおろし繁っていく。

その雑草の向こうから、粗末な服を着た若者が数人歩いてきた。

古のガッジールの民の幽霊……ではない。

ちゃんと生きている気配がある。

会話はせず、こちらをじっと見ているからそんな誤解を招いたのだろう。

殺気や敵意は感じなかったから、身構えることはしない。

グウェンが糸を出しかけたが、自制したようだ。

数メルトの距離をとって若者らは止まる。

モルドレットはカリバーンの前に出た。


「おかえりなさい、我らが王よ」


「モドさんで構わんよ」


「じゃあ、おかえりモドさん」


モルドレットは己が王国へ帰還し、カリバーンたちは客人として迎え入れられた。


シェーミと名乗る若者は、モルドレットの王国の宰相を称した。

ガッジールのことは全てシェーミから教わったと、モルドレットが言ったからだそうだ。

あとは元ロンダフ政権下で政治に関わった人間が、王国の首脳部に選ばれていた。

とは言っても、本当にロンダフの支配下で悪行を働いた人間は二十年前に死に絶えているため、当時は大したことのない役職についていたものが大半だったらしい。

屋根が吹き飛んだ大聖堂跡が王国の幕府となっていたが、ひとまずカリバーンらはそこに案内され、そのような話を聞いた。

宰相のシェーミ、小姓頭のアルキバが中心に話をしている。


予想以上にガッジールは崩壊寸前だ、とカリバーンは判断した。

政府の無力化、産業の途絶、国外との交流の遮断。

まさに廃都。

廃れて滅び去る寸前の都だ。

だが、その中で凄まじい才覚の持ち主が育っていたことをカリバーンは知っている。

アズ・リーンという名の少女。

何体もの魔族を自在に操り、“魔”属性の魔法を使う彼女もガッジールの生まれだ。

もしかしたら、このシェーミやアルキバといった若者も何かの才能に目覚めているかもしれない。

この若者らの成長如何でガッジールの将来は決まるのだろう。

そんな感慨にふけっていると、シェーミが声をかける。


「モドさんに聞いたのですが、折れた剣を治しに来たのですよね?」


「ああ。ここにはどうやら鍛冶屋はないようだがな」


「私たちもモドさんが一緒じゃなかったら、追い出していましたよ」


笑顔で毒舌なシェーミに、やはりここはガッジールなのだと気が引き締まる思いを抱いたのは内緒だ。


「それでどうするのだ?」


「まずは剣を見せていただけますか」


シェーミの言葉にカリバーンは頷き、折れた聖剣クロノエクスを取り出した。

刃が三つほどの大きな破片と、細かな破片に砕かれ剣としての用途をなさない。

聖剣に秘められた力も今は感じ取れない。

それをシェーミに手渡す。


「なおるか?これが」


「まだ、わかりません。アルキバ」


シェーミはアルキバに剣を渡す。

アルキバは神妙な顔でクロノエクスの柄を握り、何かを読み取ろうとしている。


「なんだ?何をしている?」


「アルキバは読めるんです。この世に存在する魔力を秘めた物質の情報を」


「なに?」


アルキバという少年もそういった異能の持ち主だったらしい。

さすがガッジールと言えばいいのか。

少しの間が空いて、アルキバは喋りだした。


「空間内魔力素子制御デバイス。No.0003。空間内における時間制御特化型。取り扱い資格レベル13以上技術者もしくはデバイス認証済み技術者、現在の保有者アーサー・カリバーン、レベル12」


言っている意味の大半はわからないことだったが、この剣が時間を制御することと保有者がカリバーンであることはわかった。

また、モルドレットが黒騎士の話を補足する。


「この剣は第13階位“死”に到達した者なら誰でも扱えるらしい、もしくは聖剣に認められた者」


ということらしい。


「それでどうなるんだ?」


カリバーンの問いにアルキバが答える。


「この剣はまだ生きています。情報が拡散していない今なら、復活させることができます」


なぜか興奮して喋るアルキバにカリバーンは自分も興奮してくるのがわかった。


今日は旅の疲れもあるでしょうし、アルキバの準備もあるので明日にしましょう、とのシェーミの提案にカリバーンは賛同した。

疲れているときに、無理をしても効率はあがらないだろう。

カリバーン自身もまぶたの上下がくっつきそうなのを抑えている状態だった。


「明日、ロンダフ三番通りで」


モルドレットのその言葉で解散となった。

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