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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
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騎士の都編12

カリバーンが目を覚ましたのは三日後だった。

ふかふかの寝台に、趣味のいい調度品。

そのうえで華美にならずに落ち着いている。

はじめに目に入った光景はそんな平和なものだった。

どうやら生き残ったらしい、と判断して体力が完全に戻るまで寝ることにする。

あのギリギリの状況でよく生き残ったものだ。

などと考えていたら、寝るのを邪魔するように客が訪れた。


はじめに訪れてきたのはエドモンド卿、レゴン卿、ベアトリーチェ卿の三人の騎士団長である。

直接、カリバーンに助けられた連中だ。

代表して話を始めたのは老齢の騎士エドモンドだ。


「目が覚めたと伺ったゆえ、失礼を承知で訪ねてまいった」


「いえ、まだ起き上がれぬのでこのような姿でこちらこそ失礼しております」


「わしらは礼を言いにまいった。あのゼット・バイラヴァと名乗った男。奴から命を救ってもらった礼だ」


ベアトリーチェとレゴンが頷く。


「隠して巻き込んだのは私です。礼を言われる方が恥ずかしいものです」


「それでも、だ」


エドモンドは重ねて礼を言い、そのあと少し世間話をして去っていった。


次に訪れたのはルーグ卿とドラーケルク卿だ。

見たことのない組み合わせの二人だ。

どちらも若くして、高い地位にいて、それに相応しい実力をもつという共通点がある。


「ご加減はいかがかな?カリバーン卿」


「ゆっくり休ませていただきました。気分はいいですよ」


「それは良かった。ところで、このドラーケルク卿から話がある、ということで、まあ私は付き添いです」


さあ、とルーグはドラーケルクを促した。

ドラーケルクはカリバーンをほんのわずか見て、口を開いた。


「貴公のことを見誤っておりました。いや、私がただ誤っていたのです。どうか、お許しください」


確かに、バイラヴァと互角に戦ったカリバーンに対し、ドラーケルクは恐怖に屈し、重圧に倒れた。

騎士としての自尊心、矜持、覚悟というものが折れてしまったのだろう。

それでも、彼は前を向いて歩こうとしている。

天才、というものが良く作用したのだろう。

ひとしきり、礼を言って二人は去っていった。


昼を回って訪れたのはグウェンだった。

共に武術を学んだ、カリバーンにとっては妹のような存在だ。

カリバーンが国を離れている間に、隣国の侵攻を受けオータムファーム王国は滅びる寸前まで行った。

その時に助けに来なかったことを、グウェンは恨みに思っていたのだ。

冷たいほどの憎悪の表情は今はなく、疲れたような顔をしている。


「いろいろと失礼しました、アーサー様」


「それは……別に構わんが」


「アーサー様はこのあとどうなされるのです?」


「そうだな。友人との約束があってな、その日まで己の強さを磨くことに専念しようと思っている」


「私も付いていきます」


「……なぜだ?」


「今まで色々探し回って、とても大変でした。アーサー様は見失うと大変だと、この大陸に来て理解しました。それだけです」


「そうか」


付いてきたいのなら勝手にすればいい。

やけになったのではなく、責任を取る気になったのだ。

なぜか、満足げな表情でグウェンは退室した。


夕暮れの前に、訪れたのはロアゾーンとモルドレット、そして黒騎士だった。


「なるほど、裏で糸を引いていたのはあなたでしたか」


その三人の面子を見て、カリバーンはそう直感した。


「裏で糸を引くなんて人聞きの悪いことを言うなよ。俺はただ、アーサー・カリバーンを一歩上に引き上げたかっただけだ」


どうやら、強さのステージらしきものがあるらしい、と黒騎士との修行でカリバーンは感じていた。

素人の、熟練者の、達人の、そして超越者の領域。

黒騎士が最後で、カリバーンはその前だ。

バイラヴァも超越者の部類だった。

聖剣の力を借りて、ようやく手が届く場所。


「いや、黒騎士殿ばかりは責められまい。私もまた、貴公を嵌めた人間なのだから」


ロアゾーンがすまなそうに言った。

確かに、グウェンを審査員として引き込み、新しいルールを設定したのはロアゾーンだ。

まあ、バイラヴァの襲撃やニーラカンタの登場まで想定できるとは思わない。

黒騎士はわかっていたようだが、あれは異常だ。

凄まじい第六感、もしくは未来を知っているか。

答えの出ない問いだ。

本人に聞いてもはぐらかされるだろう。

だから、カリバーンはそこを掘り下げずにロアゾーンの話が続くように話題をふる。


「いえ、己の力が足りないということに気付き、なお生きている。今はそれで十分です。ところで、ロアゾーン閣下もただ礼を言いに来たわけではありますまい?何かありましたか?」


「うむ。悪い知らせがいくつかある。まずは、ルイラム王国の霜の手騎士団のルーティ・フロストハンド卿の亡骸が国境付近で発見された」


「本物の、フロストハンド卿……亡くなっていたのですか」


ニーラカンタが詐称していたルイラムの騎士団、その団長ルーティ・フロストハンドは死んでいた。

ついに会うことはなかった魔法使いの騎士に、カリバーンは哀悼を捧げた。


「情報封鎖をしていたのが仇になった。そのせいで発見が遅れた」


それが、カリバーンの情報をもらさないためのものだとは、カリバーン本人は知らない。


「ニーラカンタなら、死体をカムフラージュするくらいはしてそうだがな」


黒騎士がロアゾーンをフォローするように言う。


「そして、これはかなり新しい情報だ。私たちが聖剣認定を行っていた元旦当日、伝統の大武術会を行っていたモーレリアが魔王のミニオン“ガンガーダラ”の襲撃にあい、壊滅的被害を受けたそうだ」


「モーレリアにも、魔王のミニオンが……」


カリバーンは嘆息する。

バイラヴァ一人でも、レインダフの防御の中枢である騎士団長たちがほとんど手も足も出なかった。

あの強さを持つミニオンが暴れれば、国ひとつ傾く。


「モーレリアの三姉妹のうち、女王にして長女のリリレリアが死亡、次女のリリレアが重体、そのため三女のレリアが女王に即位したとの報が入っている」


モーレリアの三姉妹体制はいつか、なんらかの火種となるだろうとカリバーンは予測していた。

それが不幸な形で杞憂に終わったことにカリバーンは複雑な思いを抱いた。

ロアゾーンは話を続ける。


「そして、その翌日。モーレリアの北、闘技場の町として知られるコレセントが市街を両断する広範囲、高威力の攻撃を受け半壊した。

あの町に暮らす闘士の五割が死亡もしくは重体になっている、との報告だ」


「相手は誰なのです?」


「わからん。ただ、並大抵の奴にそのような攻撃ができるはずがない。おそらく魔王のミニオンの仕業だろう」


カリバーンが寝ている間にも、魔王のミニオンの攻撃は激化していたのだ。

呑気に寝ていた自分に腹が立つ。


「年が明けてからずいぶんと慌ただしいことだ」


「奴等にとって、悲願の叶う年だからな今年は」


黒騎士が溜め息をつきながら言った。


「やはり、魔王が目覚めるのだな」


そうだ、と黒騎士は頷いた。


「それで、あんたにはやってもらいたいことが一つある」


黒騎士の言葉の意味をカリバーンは予測してみる。

してみるが、答えは出ない。

強くなる以外に何が必要なのだ?

それが声に出る。


「強くなる以外に何が必要なのだ?」


「モルドレット」


黒騎士の振りに、今まで沈黙していたモルドレットが頷く。

かつての部下の話にカリバーンは耳を傾けた。


「ガッジールに行けば、聖剣クロノエクスを再生できます」


「砕かれた聖剣を?」


「ええ。ガッジールには時が歪んでいる場所があります。そして、クロノエクスは時を司る聖剣。その相乗効果で聖剣を再生するのです」


わかったような、わからないような説明だったが、真面目になったモルドレットがそこまで力説するのならある程度は信用していいかもしれない。


「あんたには聖剣を再生させて更に強くなってもらう。まだいくらかの時はある。存分に励むことだ」


とだけ言って黒騎士は去っていった。

面倒なことに巻き込まれたくなかっただけかもしれないが。


そうして、カリバーンはモルドレットとともに、廃都ガッジールへ向かうことになったのだった。

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