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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
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砂の王国13

あまりにもすえた臭いに目が覚めた。


腐った臭い、あるいはこれから腐っていく臭い。

あたりは薄暗く、ぼんやりとしか見えない。

縦に何本か直線が見えるが、恐らく鉄格子かと思う。


ラーナイルのどこかの地下牢。


フェルアリードとの戦いに俺は負け、ここに入れられた。

啖呵を切ったまではいいが、実力が追い付いていなかったのだ。


それにルーナだ。


気を失う直前、葬儀だの王位継承権譲渡式だの聞こえた気がする。

葬儀は、オシリス王のことだろう。


では王位継承権譲渡式は?

字面だけみれば、王様になれる権利を誰かにあげる、ということだろう。


ルーナの持つ王位継承権を誰に譲る?


ということは、王様になりたい誰かは王位継承権を持っていない?


そこであの映像を俺は思い出した。

ルーナの父である国王オシリス・テリエンラッドの最期の瞬間だ。

あのとき、セトは“私が国を治める”旨のことを言っていなかったか?


つまり、セトは王位につきたいが継承権がない。

それをルーナから譲り受けたい、ということか。


ん?


確かルーナの継承権は第二位で、兄である王子が王太子だっような?

名前はーー。


「ホルス。ホルス・テリエンラッドだ」


そうそう、そんな名前だった。


「え?」


「途中から音声が漏れていた」


声の方向を見ると俺がいるところの奥、壁際に青年が座っていた。

薄汚れてはいるものの、育ちの良さそうな顔付きにルーナより金色がかった髪色。

ルーナの兄と言われれば頷けなくもない。


「あんた捕まっていたのか」


「ああ。俺も一隊を率いて、近郊のサバクオオカミ討伐にでていたが襲撃を受け捕縛された」


「俺はカイン」


「お前は、ルーナとはどういう関係だ?」


それを今聞くか?


「仲間だ」


「そうか。現在の状況について教えてくれないか?」


先にそっちを聞かないか?普通。

まあ、一人で脱出するには無理がある。

仲間を増やすのも手だろう。

敵の、フェルアリードの強さを考えればなおさらだ。


サバクオオカミの大発生と王国兵の分散。


それにつけこんだセト軍の侵攻。


フェルアリードの内通。


そしてオシリスの死。


俺の敗北とオシリスの葬儀、王位継承権譲渡式。


ほんの二、三日でいろんなことが起きていたと、俺自身も気付いた。

全てを聞いたホルスは顎に手をあて考える。


何を考えている?

ややあって口を開いたホルスはこんなことを言った。


「王位継承権譲渡式、これがどういう儀式か知っているか?」


「知らん」


知るわけがないので正直に答える。


「だろうな」


「何で聞いた?」


「奴らの目的は八割がた達成されている。つけこむならそこあたりかな、と思ってな」


八割については同意する。


そもそも王都に侵入され、国王が殺された時点でもう終わっている。


だけれども。


「相手が他国の侵略者ならともかく、同じラーナイル国民ならまだ勝てる目がある、と?」


「ラーナイルにはラーナイルのルールがある。セトとてそれは無視できない。私が生きているのがその証左だ」


古来、王殺しは支持されてもその王子、王女を殺すことは許されなかったという。

その王の死後の安寧を祈るものがいないと、王の霊が迷い害をなすと信じられている。


「王の霊か、さぞかし強力なアンデッドになりそうだな」


「実際でたときは、国を二分する大戦争になったらしい」


でたのかよ。


「で、王位継承権譲渡式ってのはなんだ?それも古きよきラーナイルのルールってやつか?」


「良いかは知らんが、古いことは確かだな。開祖であるラー・テリエンラッドが定めたとされている。どうしようもない王が現れたときに対抗するための法だそうだ」


「具体的には?」


「テリエンラッドの血を引くか、五人以上の王族の信任を受けたものが、大臣と将軍の八割以上の支持を受ければ王位継承権を譲渡してもらう権利を得ることができる」


「ん?王位継承権を譲渡してもらう権利?」


「そう、あくまで王族から継承権を譲渡してもらわねばならない。そして、王族を追放されたセトは王位継承権が無い。だからこの場合は、私かルーナから継承権を得ることになる。そして、この時点で私に接触がないということはルーナが選ばれたようだな」


「内容は?」


「事実上の婚約だ」


「よし、止めよう」


「決断が早いんだな」


「大事な仲間だからな」


「それだけか?」


ホルスは含むような笑いを見せた。


「それだけ、とは?」


「いや、いい。そんなことより、まずは脱出しよう。これ以上ラーナイルを奴らの好きにはさせておけん」


立ち上がったホルスにこの話題はあんたからだったよな?と思いつつもカインは続いて立ち上がり歩き始めた。

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