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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
129/410

騎士の都編11

無我夢中で、カリバーンは目の前の剣を手に取り振った。

バイラヴァのダガーの100の刃先が、全て切断される。

彼が手に持つ本体の刀身も無くなっている。


「……なんだ?その剣は?」


「聖剣クロノエクス、だと思う」


「剣に選ばれたってか?面白くねえなあ。俺が勝つところだったじゃねぇかよ?」


バイラヴァは緑の刀身のダガーを振る。

その時、起こった変化にカリバーンは戸惑う。

バイラヴァの刃先がゆっくりと動く。

カリバーンは、余裕でそれをかわす。

極限状態で相手の攻撃が止まって見える時の状態に似ている。

しかし、それは自分の目がよくなっているだけだ。

けれど、今のバイラヴァの動きは、攻撃自体が遅くなっているように見えた。


「試してみるか」


「今、何をしやがった!」


バイラヴァは追撃する。

しかし、ある程度カリバーンに近付くと攻撃が遅くなる。

苛立ちを隠さず、バイラヴァは攻撃を続ける。

時間の壁がカリバーンを守る。


「聞いたことがある」


バイラヴァが攻撃に集中したためか、恐怖が解けたルーグが呟く。


「レインダフの聖剣はそれぞれ、大地、空間、時間を象徴するらしい。騎士王ヌァザ陛下の持たれるガイアギアが大地を操り、我が兄ロアゾーンのスカイウラノーが天候を、そしてあのクロノエクスが時間を……」


「時間を……?」


エドモンドもようやく恐怖から解放されて、ルーグと会話できるまでになっていた。

ドラーケルクはまだ喘いでいる。

グウェンも然りだ。


「私が見る限り、カリバーン卿への攻撃が時間が遅くなる影響を受けているようだ」


確かに、バイラヴァの攻撃はカリバーンに近付くたびに遅くなり、回避と反撃の機会を与えている。

ゆったりとしたダガーの動きを見切って、カリバーンは反撃に転じる。

目にも止まらぬ剣さばきで、バイラヴァの緑色の刀身のダガーは粉々に砕かれた。

バイラヴァよりも、カリバーンのほうが己の攻撃の結果に驚いていた。


「なんだこれは?」


カリバーンとバイラヴァの同時に発せられた呟きだった。

相手の攻撃を遅くし、自分の攻撃を早くする。

時を操る聖剣クロノエクスの凄まじさに、カリバーンはもやもやとした何かを感じた。

そこまできて、バイラヴァは距離をとる。

近接攻撃では、不利だということを悟ったらしい。

そして。

五本目のダガーを取り出した。

揺らめいているように見える黒い刀身のそのダガーを、嫌悪の視線でバイラヴァは見る。


「本当は使いたくなかったんだ」


そのまま、軽く振る。

まったく届かない切っ先に、しかしカリバーンは全力で避けた。

左肩から下の装甲がごっそりと削られる。

肩当て、肘当て、手甲、が肌の露出する部分まで削られてしまう。

カリバーンの額から一筋、汗が落ちる。

間一髪すぎる。


「何をした?」


「そっちが聖剣を使うのなら、こっちだって奥の手を使わざるを得ないだろ?」


バイラヴァの笑みに、心なしか疲れが感じられる。

それにしても、さっきの攻撃。

見えなかったうえに、聖剣の時間の壁も発動しなかった。

何をしたというのだ?


「いや、私はただ戦うのみ」


カリバーンは動く。

考えてもわからないことは、考えるだけ時間の無駄だ。

振った聖剣が、加速する。

バイラヴァは焦ったように、大きく回避。

その動きにキレがない。

やはり、疲れているのか?


「厄介な剣だな、それ。魔王様の手を患わせる前にここで潰しておく!」


あくまで冷静さを崩さないカリバーンに、バイラヴァは徐々に苛立つ。

黒い刀身のダガー、という切り札はあるものの攻撃の主導権はカリバーンが握っている。


「そのダガーを使われる前に斬る」


カリバーンが距離を詰めた。

聖剣が加速し、バイラヴァの逃げる手を封じる。

どう動いてもバイラヴァは斬られる。

しかし、バイラヴァは笑った。


「我が名は“恐怖”を意味する。密やかな影の中から、あるいは襲いくる暴力の形で。そして、あるいは魔王様の意思を代行する形で。単一近距離で食らえ、“混沌”の第13階位“バイラヴァ”」


浴びせられた“恐怖”をもたらす魔法は、カリバーンの心を折りにきた。

矜持、自尊心、覚悟、ありとあらゆる意思を叩き折り、恐怖に心を屈服させようとするその魔法に、それでもカリバーンは耐えきった。

耐えきった、だがカリバーンの動きがその一瞬、止まった。

勝利を確信した笑みを浮かべ、バイラヴァが黒い刀身のダガーを振る。

攻撃しようとしていたカリバーンは、本能的に剣を防御のために構えた。

しかし、黒い刀身のダガーの見えない斬撃は防御した聖剣ごとカリバーンを斬った。


その衝撃に倒れこみそうになったカリバーンは、輝きを失いながら砕けちっていく聖剣の刃が見えた。

と同時に、聖剣に与えられていたであろう体力と気力がごっそりと抜け落ち、支える力も無いまま仰向けに倒れた。


「は、は、は。俺の勝ち、だな。アーサー・カリバーン。約束どおり、全員殺す」


四人全員を守りきれなかったら、だろう?と薄れる意識の中でカリバーンは思ったが、自分が死ねばバイラヴァは殺るだろうとも思った。

バイラヴァにとって、これは命を賭けた遊びなのだ。


「実際のところ、あんたには期待以上の戦いをしてもらった。俺のダガーを五本全部出させるんだからな。物体の存在を斬る、というエンチャントをしたこの黒のダガーを見せるのはレアなんだぜ?」


バイラヴァは動けないカリバーンに近づき、耳元に囁く。


「それに、このエンチャントな。魔力の消費が激しくて、実はもう撃てないのよ。倒しきれてよかったぜ」


「ならば、ここで貴様を仕留められるということだな?」


空から落ちてきた声にバイラヴァは狼狽し、カリバーンは笑った。

声の次に落ちてきた騎士。

モルドレットはバイラヴァに着地の勢いを利用して猛然と殴りかかる。


「聖剣に続いて、騎士の援軍か?よほど、俺の邪魔をしたいらしいな?」


「真の騎士には天祐があるもの。邪悪なものにはないがな」


モルドレットの拳がバイラヴァを穿つ。


「抜かせッ」


ゴキリ、と防御した腕の骨が折れる。

バイラヴァは苦悶の色を顔に浮かべながらも、悪態をつく。

モルドレットは顔色を変えずに追撃を与える。


「ここで、魔王のミニオンを一人でも潰す」


「お主らにはできぬよ」


ドズン、と凄まじい重圧がバイラヴァ以外の全員にのしかかる。

恐怖から脱したルーグをはじめとしたレインダフの騎士たちも地に伏す。

現れたのは、ルイラム王国霜の手騎士団ルーティ・フロストハンド。

青いローブに、青いスカーフ、オーク材の杖。

見まがうことなき魔法使いの騎士団長。

安心したようにバイラヴァが笑う。


「いつになったら助けに来てくれるかと思ったぜ、ニーラカンタ」


モーレリアでブルネックと名乗っていた男、魔王のミニオンの一人、ニーラカンタは不快げに言葉を発する。


「吾が輩は忙しいのだ。弟子の相手に、破壊者の弟子に、ルイラムの馬鹿。そして、レインダフの阿呆。体がいくつあっても足りぬわ」


「俺が阿呆か」


バイラヴァは可笑しくてたまらないというふうに笑う。


「ここは痛み分けということで引いた方がいいのではないかな?吾が輩はそう思う」


「だな」


バイラヴァはカリバーン他、レインダフの騎士たちに声をかける。


「じゃあな。また、楽しい殺しあいをしようぜ」


バイラヴァとニーラカンタは消えた。

カリバーンは意識不明。

モルドレット、ルーグ、エドモンドは重圧に倒れ、グウェンとドラーケルクは恐怖に立ち上がれない。

聖剣は砕け散り。

魔王のミニオンには逃げられた。

これが聖剣認定の全てだった。

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