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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
124/410

騎士の都編06

「参加者の名をここに発表する」


審判団の男が、声を張り上げる。

聖剣認定は、レインダフの新年における一大行事だ。

モーレリアの大武術会のように、市民のほとんどが見に来るといったようなものではないが、話題にはなる。

たとえ、聖剣に選ばれなくてもその年の聖剣認定に残った騎士団は給与、待遇面で優遇される。

その期待を背負った騎士団長達は全力を尽くさざるを得ないのだった。


「レインダフ騎士団ルーグ・フォーモレス」


黒い長髪を風になびかせ、白銀の槍を持った騎士が登場する。

ロアゾーン・カドモンの実弟で、次の天騎士か騎士王がほぼ確定していると言われている。

槍術の才と軍略の才を併せ持つ、騎士団長になるため生まれてきたと噂されている。

まあ、本人は謙虚な性格で噂をやんわりと否定している。


「聖ソライア騎士団エドモンド・ボンド」


対ルイラム方面を担当する聖ソライア騎士団の団長は鋭い眼光を持つ老人である。

ルイラムとは外交的に対立はしていないため、騎士団の出動は多くはないが、過去ジャンバラ時代のルイラムと何度か戦を交えた名将である。


「聖イクセリオン騎士団ベアトリーチェ・トリクス」


対プロヴィデンス帝国方面担当の聖イクセリオン騎士団の団長はレインダフの騎士団長唯一の女性である。

快活な性格で、騎士達の信頼もあつい。

プロヴィデンス帝国は事実上中原で最強の国家であるため、機嫌を損ねないようベアトリーチェが配されたという噂があるが、噂にしか過ぎない。


「聖レフィアラター騎士団レゴン・ムラージ」


鎧の上に青いサーコートをつけた青年が、対ガッジール方面を担当する聖レフィアラター騎士団の団長レゴンだ。

サーコートには魔法使い協会の紋章が染め抜いてあり、彼が魔法使い出身であることを示している。

戦士でも魔法が使えるこの世界では、魔法戦士というのは珍しいものではない。

が、彼は魔法使い協会の大学で修練した生粋の魔法使い。

生まれた家が騎士団長の家系だったため、騎士団長になったと言われる。

そして、もう一人。


「聖ドラスティア騎士団ドラーケルク・フォートガード」


騎士団長の中で最年少。

騎士ケイトを通じて、ちょっかいをかけてきたドラーケルク卿である。

自信に満ち溢れた様子で立っている。

それを見るとカリバーンは、かつて自分の部下だったベスパーラとつい重ねてしまう。

天賦の才に全て任せ、努力なしで立ち回る姿にかつてのカリバーンは不安を覚えたものだ。

その危惧は、炎の王の来襲時の彼らの対応に表れた。

すなわち、手勢を率いての戦場からの脱出。

逃亡と言い換えると、カリバーンの気持ちがわかるかもしれない。

何か理由があったかもしれないが。

それに似たようなものをドラーケルク卿に見た。

不安を覚えながらも、カリバーンはなにもできない。


そうして、五人のレインダフの騎士団長が紹介された。

残る五人、レインダフ国外からの参加者も名を呼ばれる。


「グラールホールド、アルザトルス神殿騎士団アーサー・カリバーン」


実に虚しい肩書きながらも、その職にあったおかげで今この場にいられる。

カリバーンの名が呼ばれた時に失笑がおきたが気にしていられない。

なぜなら、隣にいるのが。


「ヨルカ王国、王立親衛騎士団ゼット・バイラヴァ」


魔王のミニオン、バイラヴァなのだから。

よくもまあ、堂々と出てきたものだ。

南の小国ヨルカ王国の騎士団長という肩書きは、ともかくとしてだ。

まあ、わたしがここで奴の正体をさらすことはない、と確信しているのだろうな。

と、カリバーンは思う。

ここで、奴が魔王のミニオンだ、と暴けば騎士団長達に袋叩きにされるだろう。

その代わり、必ず何人かの騎士団長が死ぬ。

そのぶん、レインダフの戦力は落ち、魔王側は大きなアドバンテージを手に入れられるわけだ。

まあ、わたしが負ければ結果は一緒か。


「プロヴィデンス帝国、北方方面騎士団リチャード・ゴールデンアイズ」


厳つい風貌の騎士だ。

あのプロヴィデンス帝国で騎士団長に任命される、というのは余程の強者だろう。

ただ、今回はレインダフ国内を合法的に視察できる機会ということで訪れただけに過ぎないらしく、聖剣認定には本格的には関わらないようだ、と事前にロアゾーンから聞かされていた。


「ルイラム王国、霜の手騎士団ルーティ・フロストハンド」


北の魔法王国からは、隠そうともしないほどの魔法使いがやってきていた。

青いローブは、ルイラムの魔法使いの正装だとアベルに聞いたことがある。

そして、手に持っているのはオーク材の杖。


後に聞いたところ、この聖剣認定に参加するために創設した騎士団だったそうだ。


最後の一人に、カリバーンは驚きを通り越して呆れてしまった。


「ガッジール王国、ガッジール騎士団モルドレット・ガッジール・バニジュ」


ベスパーラ、ファイザーンとともに、グラールホールドから消えたアルザトルス神殿騎士団の騎士、モルドレットがそこにいた。

廃都ガッジールの騎士として。


声をかけてきたのは、モルドレットの方だった。


「団長。その節は大変失礼なことをいたしました。お詫びをいたします」


何かが違っていた。

家柄を誇り、ある意味傲慢なところがあったモルドレット。

その傲慢さがない。

澄んだ目をしていた。


「何があった?」


「いろいろ、としか言えません」


「そうか、ならば何も聞かん。今はわたしも主も国もない放浪者だ。仕えるもののできた騎士に言えることは何もない」


「団長は相変わらずですね」


「さて、どうだかな」


これは感傷だ。

失ったものに執着するのはよいことではない。

相手の成長を喜ぶべきだ。

モルドレッドを含む、騎士たちはそれぞれのスタート地点に向かった。

わたしも、行かねばならない。

自分一人で止められるかはわからないが、魔王のミニオンは確かにここにいるのだ。


カリバーンのスタート地点は、アーバーの丘の上だった。

冬ではあるが、穏やかな気候のレインダフには心地よい風が吹いている。

雪も降っておらず、戦いにはとてもいい。


審査員として、何人かの戦士が参加していることはスタート直前に参加者に知らされた。

参加者と同じようにメダルの取り合いに参戦してくるが、審査員はメダルなしでスタートするので最初に戦うことになると厄介だ。

これで認定者を減らすわけだ、とカリバーンは腑に落ちた。


今回から始まったこのルールが、黒騎士のせいだとはカリバーンは知る由もなかった。


「なんでもいい」


と、カリバーンは風に声をのせた。


「わたしは強くなる。炎の王よりも、黒騎士よりも、高く、強くなるために」


そのためならば、騎士としての己を捨てることもいとわない。

と、カリバーンは決意した。

手にした両手剣の柄を強く握る。

そして、待つ。


開始の時を。

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