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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
123/410

騎士の都編05

聖剣認定の開催要項がアーサー・カリバーンに伝えられた。


「ほう?野外戦か」


と、カリバーンが呟いたとおり、聖剣認定は野外で行われることになったらしい。

城都の東にあるアーバーの丘周辺がその舞台だ。

小高い丘であるアーバーは、近くにキィエルドーの森、森の中の沼地帯、レインドの川など特徴的な自然が集まっており、レインダフの各騎士団の訓練場所にもよく選ばれる。

参加者はレインダフの紋章がついたメダルを渡され、別々の場所から行動を開始する。

別の参加者を倒すか、降参させることでメダルを得ることができ、最終的に二枚以上のメダルを持っている者が聖剣の取得に挑戦できる、と要項には記載されている。


「二枚、というのがなあ」


二枚以上メダルを得るのが条件ならば、参加者の半数は落第してしまう計算になる。

いや、半数も残るというほうが正しいのか。


「だいたい参加者が多すぎる」


カリバーンに渡された要項には、参加者10名と記されている。

レインダフの騎士団は五つ、その団長らとカリバーンを含めてさらに四名の参加者がいる、というのか。

確かに、聖剣認定の参加資格は騎士団長であることだが、アーサー・カリバーンが参加資格を得たことで各国の騎士団長クラスの騎士が集まってしまっていたのだ。

それが、例年にない二桁の参加者の理由だった。


その日、カリバーンは会場となるアーバーの丘に下見に行った。

すでに、要項を受け取った各騎士団が現地調査をしており丘の周辺は騒がしい。

ドラーケルク卿も来ていた。

そのあたりに集まっているのが、レインダフの各騎士団の団長達だろう。

正直に言うと、あの程度なら軽く倒せる。

炎の王と黒騎士という超級の戦士を相手にしていたカリバーンだ。

まったく騎士団長たちを恐れてはいなかった。


「あんたなら、そうだろうねぇ」


その言葉に、カリバーンは命の危機を感じた。

思わず、前に転がり草むらに身を隠す。

何気ない言葉だった。

それはわかっている。

恐ろしかったのは、まったく気配がなかったこと。

真後ろで声がするまで。


「誰だ?」


「あんたらの敵」


真っ赤な染めたような髪をドレッドに結った、キャラメル色の肌の男が草原に立っていた。

普通の格好をしているが、右手のシルエットがおかしい。

ドラゴンのような巨大な爪を五つ。

五本の短剣を指の間に挟んで保持している。

純粋に握力だけで五本持っていることになる。


「魔王のミニオン、か」


「そのとおり。俺の名はバイラヴァ」


「こんなところに、倒されに来たのか?」


「待てよ」


バイラヴァは爪をゆらゆらと振った。

カリバーンは油断なく構える。


「倒されに来た訳じゃない、と?」


「そうそう、そのとおり。俺はね、正面きって戦うのが苦手でね」


「後ろから不意討ちするのが得意、か?」


バイラヴァはニマァと笑う。


「そのとおりさ。俺は暗殺者。誰にも見られず影のように動き、闇のように殺す」


「そのわりには、こんな昼日中から姿を見せているな?」


「はは。今日は暗殺に来たんじゃないのさ」


「なんだと?」


「俺は聖剣認定を邪魔しに来た」


ゾワリとバイラヴァの姿が大きくなった気がした。

蜃気楼のような、ゆらめく姿。


「なぜ邪魔をする?」


「決まってる。偉大なる魔王様の障害は少しでも減らさなければならないからだ」


「ならば、わたしがその障害であると知っているなッ!!」


裂帛の気合いとともに、カリバーンはバイラヴァへ切りかかる。


「もちろん、知っている。かなり高めの障害だ。早めに排除するに限る。だが」


それは今ではない、とバイラヴァは笑う。

カリバーンの剣は空を切った。

ミニオンの残像がゆらゆらとした笑みを浮かべたまま漂っている。

気配を残したまま、バイラヴァは移動ができるらしい。

ならば、とカリバーンは気配に頼らずバイラヴァの位置を探る。


「今、でも構うまい。どうせ、倒されるのなら」


カリバーンの背で、クックックと笑う声。

まただ、移動したのがわからない。


「もっと、面白い舞台があるだろう?」


カリバーンは振り向きざまに切りつけるが、またしても刃は何もとらえない。


「何をする気だ?」


「賭けをしよう」


バイラヴァは笑顔を貼り付けたまま、悪意を撒き散らす。


「賭け、だと?」


「あいつら」


とバイラヴァは四人の騎士団長を指す。

これほどの使い手がいるのに、気付いてすらいないようだ。


「彼らがどうした?」


「俺があいつらを一人につき一度襲う。あんたは奴らを守る。そうだな、せっかくだからメダルで判定しよう。俺がメダルを二つ以上集めたら、参加者を全員殺す」


「そんなことをさせると思うか?」


「あんたは守ればいい」


「先に貴様を叩きのめす、という選択肢もあるな」


「そうだな。それもアリだな」


バイラヴァは笑いを止めない。


「それで、わたしが勝てば何かメリットはあるのかな?」


バイラヴァは呆気にとられた顔をした。

ようやく笑いが止まる。


「面白いことを言うやつだなあ」


「賭け、というからにはメリットとデメリットがなければいけない。貴様は全員殺すという。つまり、わたしに命を賭けろ、ということだ。ならば、貴様は何を賭け、何を報酬に寄越す気だ?」


「そうだな、考えたこともなかった。今までは相手をみんな殺していたからなあ」


バイラヴァは考え始めた。

カリバーンは構えを解かずに相手の動きを待つ。

実際、何か考えがあって発した問いではない。

バイラヴァがあまりにも理不尽なことをいうから、反論したくなっただけだ。

四人の騎士団長を守りきることが、どれほどの価値になるかはわからないが。

何の価値もなく、殺されてしまうというのはあまりにも酷い話だろう、とは思った。


「さあ、どうだ?」


「わかったよ。あんたが、四人全員守りきったら魔王様の弱点を教えよう」


「は?」


魔王の弱点、だと?


「なんだ?不満か?」


「不満というか、不審だな。いいのか?そんな機密を賭けの報酬にして」


「どうせ、出来はしないとたかをくくっている、のはあるな」


「いいだろう。魔王の弱点と俺たち全員の命、それで賭けを始めよう」


「ふうん?あんた真面目そうでいて、なかなか楽しい性格のようだね」


「知り合いからは自己鍛練の権化と言われるがな」


「じゃあ、当日にまた会おう。とても、とても楽しみにしている」


「私もだ」


カリバーンはニヤリと笑う。

黒騎士のおかげ、いや黒騎士のせいで変な度胸がついたのは認めよう。

だが、いい機会だ。

ここでわたしの誓いを再確認しよう。

すなわち、この鎧と剣にて全てを守る、ことを。

気配を残さず、バイラヴァは消えた。

カリバーンも会場に背を向け、さらなる修行のため城都に戻った。

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