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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
122/410

騎士の都編04

グウェンは年末にはレインダフに到着していた。

砂の王国ラーナイルを出て、数週間大陸北上した。

中原に行けばいくほど、アーサー・カリバーンらしき人物の噂は得られやすかった。


曰く。

アンデッドの巨人の一撃を受けて平気だった。

炎の王の軍勢を全滅させた。

いやいや、炎の王と一騎討ちした。

俺は、ドラゴンを倒したと聞いたぞ。

などなど。

にわかには信じられないような噂の数々に、ウルファの固有名詞などはわからないグウェンですら呆れた。


何割かは真実なのだが、やはり嘘くさい。


「アーサー様。いったいこの地で何をしているのです?」


グウェンの気持ちである。

故国を放り出して、吟遊詩人の語る英雄のような冒険をしているアーサーにグウェンの口からはため息しかでないのだった。


アーサー・カリバーンがレインダフに滞在している、と聞いたのはデヴァイン領に入ってからだ。

数ヶ月前に滅びた国があったそうで、その領地をどこかの軍勢と争っているデヴァインは戦前のものものしい雰囲気に包まれていた。

酒場のほうも閑散としていて、話好きそうな主人が久しぶりにきた旅人であるグウェンにいろいろ話してくれた。


「新年になると、レインダフでは聖剣認定の儀式が開かれる。そこでは、勇猛果敢な騎士たちがしのぎを削って名誉を手に入れんとするんだ」


「それに、アーサー・カリバーンが出る、と?」


頼んで出てきた果実水は、爽やかな酸味のアプールという果実が入っているそうでこれはこれで飲みやすくて美味しい。

アプール水を飲みながら、グウェンは話を聞く。


「今まで流浪していた騎士だからね。これに成功すれば、いやある程度の実力を見せられればレインダフに仕官も可能だろう。やはり騎士は仕える主がいないときまらないよ」


やはり、仕官が目的なのだろうか。

生きるためにあくせくと職を求める、というのは悪いことではない。

むしろ、それが当然だ。

けれどグウェンの知っているアーサー・カリバーンはそのような人物ではない、と思っている。

私が全てを守って見せる、と自信満々で言い放つような男だ。

もしかしてもしかすると、別人なのだろうか。

と、疑問が頭の中を渦巻く。

ここまで来て、別人だったらグウェンは立ち直れないかもしれない。

とは思いつつも、グウェンはその翌日にはレインダフへ旅立ったのだった。


故国を出るときに、上から預かった親書をグウェンはレインダフ入城に際して、提出した。

出来るなら救援をよこしてほしい、という内容の親書はグウェンを心配した上官が余計なトラブルに巻き込まれないように手配してくれたものの一つだ。

例えば、初めて来た国に急ぎで入りたい時、その国の上層部に取り入りたい時などだ。

その親書はかなり早くレインダフの上層部に届き、その日の内にグウェンは目論見どおり?レインダフのナンバー2である天騎士ロアゾーンに面会することができた。


「グウェン・ブラン・ヴィア君か。ああ、ヴィア将軍の娘さんだね?オータムファーム王国の」


「ご存知でしたか」


「北方大陸の動静は常に注視している」


優しげな口調のロアゾーンだったが、言っていることは冷静な政治家のものだ。

グウェンのような小娘には太刀打ちできない。

北方大陸の情勢をかなり詳しく把握している。

オータムファームで将軍を勤めるグウェンの父のことすらも。


「では、この親書のことは」


「まあ、私が言うのもなんだがレインダフ王国は他国への出兵は行っていない。君の故国への救援は行えない」


歯にものが挟まったような言い方なのは、ロアゾーンがガッジールへ外征に行ったという事件のせいだろう。

大きな目で見ればレインダフを含む中原の平和を守ったということにはなるだろう。

が、それを本人は納得していない。

それがいまだにわだかまっていると思われる。


「それは、断られるのは想定のうえとオータムファームでは言われて参りました」


「そうですな。あの北の黒熊ヴィア将軍なら、この親書を駆け引きの道具にするくらいはするだろうな。まあオータムファームを攻めている六王連合王国はレインダフとある種の取引がある。それを利用して、牽制することはできよう」


「本当ですか?ありがとうございます」


ロアゾーンの申し出に、グウェンは恐縮した。

レインダフとオータムファームは没交渉であり、逆にオータムファームの交戦国である六王連合王国との繋がりのほうが強い。

それを翻して、グウェンらに肩入れしてくれるのはただの好意か。


「その代わりと言ってはなんだが、君にはお願いしたいことがある」


来た。

歴戦の騎士にして、レインダフの頭脳の中枢、ウルファ大陸の二十人の英雄の一人。

そんな大人物が、ただでそんなことをしてくれるわけはない。

金……はないか。

私自身を差し出す、とか?

むう、私は体には自信ないのだけれど。


「必要なのは君自身だ」


まさか、本当に?


「わ、私ごときの体でよろしければ」


かなりドキドキしている。

アーサー様、これもあなたと故国のため、私の純潔で救われるのでしたら……この身は惜しくありません。

ああ、出来るなら初めてはアーサー様に……。


「年始に聖剣認定を行う。君の武芸を見込んで審査員をお願いしたい」


あれ?


「……夜伽じゃないのか」


ボソリと呟いたグウェンの言葉は誰にも届かなかった。


「それにはアーサー・カリバーンも出る」


心拍数があがる。


「やはり、こちらに」


アーサー様がいる。


「そうだ。彼は純粋に聖剣を求めてここにやってきている。仕官も望んでいないだろう」


その言葉に、グウェンはホッと胸を撫で下ろした。

自分の知っているアーサー・カリバーンは、そのままだった。

いや、ちゃんと見てないから断言はできないが。

そんなこんなで、アーサー・カリバーンには内緒でグウェンはレインダフに滞在することになった。


そんなある日、グウェンはロアゾーンに呼び出された。


「君の実力を知りたい」


「審査のためですか?」


「そうだ。聖剣認定には騎士団長のみが出場できる。それゆえに、その程度の実力は持っててもらいたい」


言っていることはめちゃくちゃだとグウェンは思う。

頼んでから、実力を問われるとか。


「まさか、二十人の英雄の一人が相手、とか?」


「いや、私ではない。ところで、伝説の五人については知っているかな?」


「そうですね。名前とさわりくらいなら」


ウルファ大陸の五人の第13階位到達者。

圧倒的な力を持つ魔導師だ。


「紹介しよう。第13階位の魔導師にして“軽業師”スフィア・サンダーバードだ」


ロアゾーンの後ろから現れた女性。

両手に剣を持つ二刀流。

その女性、スフィア・サンダーバードはグウェンを見て微笑んだ。

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