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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
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騎士の都編03

アーサー・カリバーンのレインダフでの生活は規律正しいものだった。

毎朝、五時には起床し朝の修行をしている。

七時に朝食をとり、そのあとは斡旋された仕事をする。

仕事は、その日によって様々で周辺の魔物退治や、点在する村落の巡回、それに騎士団の訓練に参加することもあった。

昼食をとったあとは、仕事があればそれをし、なければ修行にいそしむ。

夜は軽めに食事をし、就寝までの時間は魔法の習得や、その勉強にあてている。

ストイック過ぎる、とカインあたりに評されているように酒も少ししか飲まないし、賭博や女遊びはまったく手を出さない。

自己の実力を高めることを、至上目的に置いている。


一度、生活サイクルが決まれば同じようなサイクルの騎士達と出会い、交流が始まる。

アーサーと騎士ケイトが話をしたのはアーサーがレインダフに来てから四日目の朝のことだった。


「卿が、アルザトルスの神殿騎士アーサー・カリバーン、かな?」


騎士ケイトは、アーサーより年上の四十路の男だ。

四十路になっても役職がつかない、というのはおそらく実力に由来するのだろうが、カリバーンはそれを表には出さない。

相手に失礼のないよう返答する。


「サー・ケイト。早朝からお疲れ様です」


「卿は私のことを知っているのかね?」


「もちろんですよ。ブロイテン砦の防衛戦で、相手の背後から奇襲をかけ砦勢と挟撃し、デヴァインの指揮官を生け捕りにした騎士、サー・ケイトの名は存じておりました」


自身の武功話を語られて、騎士ケイトはたちまち上機嫌になった。


「いかにも、その騎士ケイトである」


まあ、実際はケイトの手勢がたまたま砦から出ていたところを、デヴァイン兵が見つけ襲撃し、それを砦の駐屯部隊が救出した、という小競り合いに過ぎない。

騎士ケイトが、デヴァインの小隊の隊長を生け捕りにしたのは本当だが、誇るほどの武功ではない。

グラールホールドの調査では、そこまでわかっていた。

大げさに喧伝したのは、レインダフか、騎士ケイトか。

どちらにしても、今のカリバーンには関係ない。


「ところで、何か御用でしょうか?」


「おお、そうだ。実は卿に手合わせを願いたくてな」


「サー・ケイトが、ですか?」


一介の騎士程度が、元とはいえ騎士団長に手合わせを願う?

規律が緩んでいるのか、騎士ケイトが私を舐めているのか。

そのカリバーンの不快感を察したか、ケイトが下手にでる。


「いやいや、お気に障ったのなら申し訳ない。私の属する騎士団の団長がどうしても、卿の実力が見たいと仰せでな」


騎士ケイトが所属するのは対デヴァイン方面を守護する聖ドラスティア騎士団。

その団長となると、確かドラーケルク卿か。

若くして、騎士団長となった凄腕の騎士らしいが、ケイトの上司であるため大げさに吹聴している可能性もある。

こんなことを仕掛けてくるくらいだから、自分で見に来ているはずーーいた。

カリバーンのいた訓練場の入り口に、屈強な数人の騎士に囲まれて、若い男が腕を組んでこちらを見ている。

顔には傲慢な笑み。

こちらを値踏みする視線。


「世間知らずの小僧、か」


「何か言いましたかな?」


つい本音が漏れでてしまった。

騎士ケイトには、聞こえなかったようだが。


「いえ、是非ともお願いしたい。いやあ、栄えある聖ドラスティア騎士団の団長殿に見られるとは恥ずかしいものがありますな」


「はっは、所詮は手合わせ。力を抜いてやれば良いのです」


「では、胸を借りるつもりで。いつでもどうぞ」


訓練用の木剣を構えて、ケイトとカリバーンは睨みあう。

先に仕掛けたのはケイトだ。

木剣を横薙ぎに振る。

今のカリバーンには止まっているようにも見える斬撃を、あえて剣を出して止める。

実力を測られているのは気分が悪い。

低く見積もってもらおう、との腹積もりだった。

ケイトよりもわずかに早く。

わずかに強く、木剣を振る。

ケイトがついてこれないほどの早さではなく。

受けきれないほどの強さでもない。

ドラーケルク卿の表情が、優越感と期待はずれに満ちていくのがわかる。

そして、ケイトの顔には自信。

グラールホールド最強の騎士といえど、この程度か。

そんな侮りが見てとれる。

数分間の試合中、それと悟られずに戦いをコントロールしきったカリバーンは息を切らすようなことはなかった。

ケイトのほうは肩で息をしている状態だ。


「なかなかの勝負でしたな」


ケイトの態度が、少し変わっていた。

自分より強いのは認める。

しかし、ドラーケルク卿ほどではない。

ならば、この程度の口のききかたで構うまい。

そんな感情が透けて見えた。

まるで犬だな、とカリバーンは思う。

飼い主に従順で、出会ったものすべてに序列をつけ、自分の居場所を定める。

それが悪い、とは言わない。

しかし、それで良いと考えることはカリバーンには出来なかった。

良くも悪くも、冒険者達に影響されたのだろうな、と砂の王国で出会った仲間達のことをカリバーンは懐かしく思った。

赤き目の魔法戦士カイン。

青き衣の高位魔法使いアベル。

銀の髪の神官戦士ルーナ。

そして、黒騎士と炎の王。

彼らはカリバーンのことを上とも下とも見なかった。

対等の仲間と扱った。

そして、カリバーンもそうした。

そうすることがなぜか心地好かった。

なるほど、もしかするとこれが故郷に帰りたくない理由なのかもしれないなと、カリバーンは不意に閃く。

仲間達とただただ冒険をしていたい、それだけなのかもしれない。


「アーサー卿?いかがされました」


ケイトの声で我にかえる。

物思いにふけっていたらしい。


「いえ、サー・ケイトのなかなかの腕にまだまだ精進が足りぬな、と猛省していたのです」


「左様ですか。私などまだまだですぞ。我が騎士団長ドラーケルク卿は私が手も足もでない力をお持ちです」


貴公では相手になりますまい、とまでは言わなかったがサー・ケイトはそう言いたそうだった。

相手の実力を見極めて戦え、と言いたいのだろうがカリバーンはケイトにこそ、そう言いたかった。


ドラーケルク卿はケイトとカリバーンの試合の話を各所に広めた。

主に取り巻きが中心となって、アーサー・カリバーンはたいしたことない、と噂しあったようだ。

カリバーンには影響はほとんどなかったが、騎士の都といってもこんなものか、と苦笑はした。

噂を聞いたロアゾーンは一笑に付した。

あの男が、その程度ではあるまい。

それを見抜けぬなら、レインダフのレベルも落ちたな、と呟いたらしい。


聖剣をめぐる者達が、レインダフをうごめく。

誰も彼も身近に破滅が迫っていることに気づかない。

その時にはその時で、なにがしかの文句は言うのだろう。

その時が来ないように、カリバーンのような人間が頑張っていることを知らずに。


新たな年がやってくる。

レインダフの地にも。


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