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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
113/410

古代迷宮編05

戦いは激しさを増していく。


リヴァイアサンの喉元から転送されたアズを待ち受けていたのは三体の魔族だった。

黒いカラスの姿のマルファス。

赤い鎧の騎士の姿のエリゴール。

そして、獅子の姿のバラム。

短くはない時間、共に戦った仲魔たちが一斉に襲いかかる。


なぜ?とは思わなかった。

そういうことにはなるかもしれない、とここへ向かった瞬間には思っていたからだ。

魔族の本体が幽閉されたこの迷宮で、仲魔だからといって容赦されるわけではない。

ロンダフ老人に酷使され、人間と人間世界に疲れていたオセを見て、ますますそう思った。

思考の傾向が近い場所に転送されるというのなら、いつかはこの三体に出会うこともあるだろう、と予測していた。


バラムが吼える。

バラムの固有スキルである“咆哮”の効果が発動し、バラムたちが強化された。

微量ながらも、筋肉、持久力、などが強化され動きが、力強さが、俊敏さが目に見えて変わってくる。

速さを増したマルファスが縦横無尽に飛び回り、固有スキル“遠目”で仲魔と視覚を共有する。

バラムに強化され、マルファスの視覚を共有したエリゴールは同じく固有スキル“飛槍”でアズの死角から攻撃してくる。

連携が完璧でつけいる隙がない。

“飛槍”を止めようと、エリゴールに攻撃すればバラムが“咆哮”を放ちつつ攻撃してくる。

視覚共有を止めようとマルファスへカイムを向かわせれば“飛槍”が唸り飛んでくる。

“飛槍”の威力は小さいものの、何度も当たれば命にかかわる。

だが、アズも黙ってやられてはいない。

カイムを陽動に、オセを壁にして、アズ自ら攻撃する。

精神特効の“デモンズランス”を連射しつつ、オセの固有スキル“虚飾の王冠”を発動。

一定時間のみ、戦闘能力が跳ね上がる強力なスキルだ。

その時間を過ぎれば、能力が減少するデメリットはあるが、そこまで長く持たせる気はない。

アズの黒い槍が疾り、エリゴールの飛槍が貫く。

マルファスが飛び、カイムが翔ぶ。

バラムが吼え、オセが絶叫する。

魔族たちの戦闘がダビディス迷宮に轟いている。


「気付いているか、主人?」


オセの問いかけに、アズはデモンズランスを二発同時に放ちながら答える。


「バラム達の決定力不足のこと?」


黒い槍は二発とも外れ、空を突く。


「わかっているなら良い」


バラム達の決定力不足。

攻撃力の不足。

マルファスが陽動しながら戦闘状況を把握し、バラムが強化しながらサブアタッカーとして動き、エリゴールが不動の遠距離攻撃の砲台と重装備の壁を兼ねる。

そこに足りないのは、三体の魔族が作り出した隙を縫って放たれる必殺の一撃。


「それはマステマの役目だったのね、きっと」


「そうだ。そして、この連携を考えだし、実際に運用したのが人間の言うところのロンダフだ」


「あの偽物じゃなくて、本物のロンダフね?」


「そうだ。我とフラロウス、そしてあの三体とマステマ。我らは全てロンダフによって召喚され、人間世界に束縛された」


「召喚士として一流ね。マステマも加えて四体同時召喚なんて、あたしだって力を借りなきゃできないわ」


「主人。ロンダフが魔王と呼ばれるにはそれなりの理由がある。あれは天才を通り越した異才、同時に召喚できた魔族は最低でも七体だ」


「な、七体!?」


信じられない、とアズは呟く。

二体をようやく、余裕をもって召喚できる。

三体になると成功率は低くなる。

四体はマステマの力を借りてようやくできる。

それよりも、三体も多い七体を同時召喚だなんて。


「マステマ、バラム、エリゴール、マルファスの攻撃連携。我とフラロウスのロンダフ防衛、そしてネクロマンシーを駆使するガミジンの七体だ」


「死霊術の魔族まで……。そういえば、ロンダフはアンデッドの軍団を持っていたって聞いたわ」


「魔族の先駆けが敵を蹴散らし、人間の兵がそこを切り開く、死した兵はガミジンによってアンデッド兵に変えられ更に戦う。我らに敵が迫ったことなど数えるほどだった」


聞くほどにとんでもない術者だ。

そんな人物に統治されたのなら、偽物でもロンダフの帰還というだけで熱狂する気持ちもわからなくはない。

まあ、アズたちがガッジールであんな暮らしをしていたのも、ロンダフのせいではあるのだが。

ともかく、今は決定力不足のバラム達を制するのが先決だ。


「オセ、あなたエリゴールの飛槍を受けてどのくらい持つ?」


「今、発動している“虚飾の王冠”がきれるまでは」


「わかったわ。カイム、あなたの固有スキル活用させてもらうわよ?」


「存分に」


「では、これで決めるわよ!!オセ、前へ」


「御意のごとく」


オセが前に出る。

エリゴールの飛槍が殺到するが、豹の柔軟な身のこなしでよける。

アズはカイムの固有スキル“迷宮の掟”を発動。

ダビディス迷宮のルールを語るだけのスキルだが、使い方次第だ。


「召喚士は迷宮に入るに際し、全ての魔族との繋がりを断たれる」


「主人、何を今さら?」


「それは、召喚士との繋がりだけではなく、魔族にも適用される。即ち、あなたたちはロンダフとの繋がりも断たれ、その連携を維持するのは迷宮の掟に反している」


古代の魔道皇帝のかけた魔法、ダビディス迷宮のルールを永続的に施行する魔法が効果を発揮した。

ロンダフ時代の繋がりを断たれたバラム達は、混乱する。

バラムの“咆哮”はバラムのみに適用され、マルファスの“遠目”の視覚共有は断たれた。

能力上昇が消え、戦場を把握した視界が閉ざされ、エリゴールの“飛槍”は命中率が激減する。


「今よ!!」


カイムがマルファスへ体当たりし、二羽は絡み合いながら地に落ちる。

バラムとオセ、獅子と豹は互いに噛みつきながらもつれあう。

アズはエリゴールの前に進み、デモンズランスを放つ。

応戦するエリゴールの飛槍を飲み込みながら、黒い槍は突き進み、赤い鎧に穴を開け貫く。

そして、その時には三体の魔族は全て地に伏していた。


「あたしの勝ちね」


アズの勝利宣言とともに、三体の魔族は実体を取り戻す。


「ダビディス迷宮の掟に乗っ取り、我ら三体アズ・リーン様に永劫の忠誠を誓います」


代表してバラムがそう言った。

アズはニコリと微笑む。


「うん。今後ともよろしくね」


三体はアズとの繋がりを取り戻す。

総勢五体となった魔族に心強さを覚えつつも、アズはいまだ現れぬもう一体の仲魔、マステマについて心配していた。


「勝利の余韻を噛み締めているところ悪いが、どうやら不味いことになりそうだぞ、主人」


苦々しくオセが話す。

その理由を探そうとしたアズは、既に転送が行われていたことに気付く。

薄暗い洞窟の広間だった場所は、どこから来るかわからない光源によって白く照らされた四つの棺が安置された部屋へと変わっていた。


「ここは?」


「ダビディス迷宮最下層、四の棺の間。杖の王、杯の王、剣の王、符の王が眠る部屋」


確かに、この空間には魔力が満ちている。

それぞれの棺からあふれでた魔力が部屋中で衝突している。

その衝突の結果生まれた白い光が、部屋を照らしている。


「やはり、貴様も来ていたのだな、小娘」


掛けられた聞き覚えのある声に、アズは敵意をもって答える。


「そっくりそのまま、同じ言葉を返してあげるわ、ロンダフ老人」


ロンダフの名を僣称した老人は、不愉快そうに顔を歪めた。

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