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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
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砂の王国11

「実のところ、ラーナイル王国に出現したサバクオオカミは全部で500匹でした」


俺たちの予想を越えた数だった。


「討伐依頼をだしたのが冒険者だけだ、と思いましたか?答えは否です。衛兵隊、辺境防衛騎士団、国境警備隊、ありとあらゆる兵力をラーナイル北部に集めました」


「ラーナイル北部だと?」


「まさか、そんなはずは」


ルーナの焦った声。


なんだ?


何がある?


俺の知識の中で、この問いの答えに引っ掛かるものを感じる。

ラーナイルの南でなにかがあるのだ。


南にあるもの。


工業都市ラソ、違う。


海賊の拠点軍艦島、違う。


ラーナイルに危機をもたらすもの。

内乱で追放されたセト王の一派、それだ。


「ラーナイルにクーデターを起こす気か!?」


こいつは冒険者を含む大兵力を隔離し王都をがら空きにしたのだ。

だが、奴の言葉は想像のさらに上を行った。


「クーデターを起こす気か?いえ、クーデターはすでに起きています。セト王子の軍勢がいまごろラーナイルの王宮に足を踏み入れているところでしょうね」


「なんてことを」


ルーナが絶句。


「王国付きの魔法使いがなぜクーデターを起こす!?」


「サバクオオカミが大発生した。その討伐のために冒険者や兵士にお願いをした。その何を責められるというのです?」


「その結果が問題だといっているッ!」


薄い笑いを浮かべたままフェルアリードは話を続ける。


「まあ、そんな些事は置いておきましょう。いかがです?直々にスカウトしましょう。こちらがわに付きませんか?」


「よくもそんなぬけぬけと」


「例えばカイン君」


「俺はつかないぞ」


「まあそういわずに。君の知りたいことを少しは知っているつもりだよ?そう、炎の王はここにはいない、とか」


「!」


「これ以上の情報は君の返答次第だね」


少し揺れた。

炎の王の情報は、喉から手が出るほど欲しい。

だが。


「それからルーナ姫。あなたには素敵な贈り物を用意してありますよ」


「いりません。あなたからもらうものなど何一つありません」


そのルーナの台詞に俺は思い直した。


「情報は確かに欲しいが、それは自分の力で見つけてみせる。あんたの手は借りないよ」


それを聞いてフェルアリードは薄い笑いをさらに薄く浮かべる。


「さすがは選ばれた冒険者です。立派な覚悟ですね。感嘆いたしました。お礼といってはなんですが、特別に今の王都の様子をご覧いただきましょう」


無詠唱でフェルアリードが魔法を放つ。

俺たちの目の前に光が現れ、薄い板状になる。

そこにラーナイルの光景が写し出された。


砂漠の果てから、軍勢がやってくる。

革と布の鎧をまとい、曲刀を腰に帯び一糸乱れぬ隊列で彼らはやってきた。

たなびく軍旗には“ラーナイル王国軍”の文字、そしてセト王の紋章である黒い竜が染め抜かれている。

平時の三割近くまで減っていた衛兵、王国兵はたいした抵抗もできずに蹴散らされた。

ほぼ無損害でセト軍は王宮まで到達、速やかに占拠が完了した。


謁見の間へ続く大廊下を悠然と歩く影がある。


それは三つ。


一つはきらびやかな軍装の青年。


もう一つは暗緑色の鎧に大剣を背負った戦士。


最後は、黒い服に黒い髪の女。


「ずいぶんと呆気ないものですね、殿下」


戦士の言葉に、殿下と呼ばれた青年は笑いながら答える。


「それもそうさ。内通者がいればどんなに堅く高い壁でも意味をなさない。それになアルフレッド。我らは帰ってきたのだ。ただ安全な城壁の中にいたような奴等に遅れをとるわけがないだろう?」


「ま、それもそうですね」


戦士ーアルフレッドは、主君にあわせるように笑う。


「さあ、殿下。間もなく謁見の間でございます」


黒い服の女が二人を先導するように、進む。


「間もなく、だ。失ったもの、奪われたものを取り戻す時」


三人はラーナイル王宮の謁見の間にたどりついた。

普段は賑やかであろうその部屋は、今は沈黙している。


玉座に座すはラーナイル国王オシリス・テリエンラッドである。


他の者はいない。


内乱の勃発を知らされた時から、覚悟をきめここに座していたのだろう。

にもかかわらず、世間話でもするように会話がはじまる。


「お久しぶりですね、叔父上」


「小セトか、息災のようだな」


「息災ですよ。息災に決まっている。あんなところで死んでたまるか」


激昂するセトを静かにオシリスは見ている。


「そなたが来たということは、兄は、大セトは」


「死にましたよ。三年も前に」


「そうか」


「それだけですか?父上はあなたに殺されたようなもの。それだけしか、反応することはない、と」


「もはや、我が運命は尽きた。いまさら後悔もなにもない。兄には向こうで話をすることにしている。私の首が欲しければ持っていくがいい」


「潔い。心配なさらずに逝くとよいでしょう。この国は私が治めます」


一閃。


セトは、オシリスの首を薙いだ。


オシリス・テリエンラッドはその生涯を終えた。

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