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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
108/410

大武術会編10

カインが第13階位“死”に到達した魔導師となったことを、アレスが認定した。


「どうだった?」


「なんつうか、気さくな神様で気が抜けた」


カインの言葉に、アレスはわはは、と笑った。


「そうか、そうか。気さくな神様じゃったか」


「あんたは、どんな神様と会ったんだ?」


「そうさなあ……忘れたな」


「年、か」


「むむ?師匠を馬鹿にする気か」


ひとしきり、雑談を楽しむ。

そして、カインは立ち上がった。

これで、本当の別れだ。


「ではな」


「ああ。師匠も元気でな」


既に日は登りかけ、朝は終わっていた。

アレスが見送り、カインとシュラは旅立つ。


モーレリア王宮では、ベスパーラが出発するところだった。

商人ギルドを、サラマンドに。

モーレリア国軍をギルノースに任せ、旅立つ。


二組は、すぐに合流した。

道は一本しかないので。


「よお、元気そうだな」


気さくに声をかけるカインに、丁寧な口調でベスパーラは挨拶する。


「あなたも、お元気そうで」


「昨日の今日で、もう出発か。モーレリアントも大変だろうにな」


「それよりも、重要な案件がある、ということですよ」


「そうか。ところで、もし良かったら一緒に行かないか?俺たちとあんたが組めば、旅は楽になると思うんだが」


「ふむ。いいでしょう。手駒は多いほどいい」


「俺たちが大人しく言うことを聞くと思うか?」


顔は笑っているカインに、同じく顔だけ笑顔でベスパーラは返す。


「気付いたら言うことを聞いていた、という手を考えましょう」


「そいつは、面白そうだ」


「面倒な旅になりそうでござる」


シュラの呟きは、二人には届かなかった。

届いていたとしても、なにも変わらなかっただろうが。


モンスは寝台の上からカインたちを見送った。

いまだ起き上がれないが、気力だけは充実している。


「アニキ、お気をつけて」


さて、モンスはこの後、リーダーとしての才覚に目覚め上位闘士のいないコレセントの闘技場を掌握。

元“王者”バランを相談役に、コレセントの実質的独立と再興に挑んでいくことになるが、それはまた別の話である。


ところで。

カインは、夢の国で黒い羊が語っていたことにもう少し気を配るべきだったかもしれない。

ここ数十年で、第13階位“死”である魔導師になったのは四人と黒い羊は言っていた。

だが、ウルファ大陸にいるのは伝説の五人。

足りない一人は、どこから来たのか。


アークセージ、すなわち大賢者。


アクロバッテス、すなわち軽業師。


コンダクター、すなわち支配者。


アイスクイーン、はそのまま氷雪の女王。


語られざる者。

それは。


カイン達が去った後、大戦士アレスは手頃な瓦礫に腰掛け昇る太陽を見ていた。

ここ数十年見ている。

そして、遥か昔見ていたのと同じ太陽だ。

その前に、青いスカーフを巻いた禿頭の男が立っていた。


「ニーラカンタか。そういえばここに居たのだったな」


「お主が伝説の五人、と聞いた時には耳を疑ったぞ。同志ハラよ」


「似合わない世辞はよせ。それよりも、ガンガーダラはお前の弟子だろう?あんなに無茶苦茶やりやがって、手綱をつけておけ」


「吾が輩がけしかけたわけではないぞ。あれは、もともとああいう奴だ」


「まあ、いい。それより、他のやつらはどうなんだ。もう、近いのだろう?」


「うむ。おそらく、半年を切った。それで、吾が輩も己の研究を中断して馳せ参じたのだよ。まあ、それはいいか。他の連中であったな?ムンダマーラは炎の王にこっぴどくやられた傷がようやく完治したというのを聞いた、おそらく城へ行ったのだろう」


ニーラカンタは話を続ける。


「マハタパスは、かなり前に目覚めていたらしいが、ずっとお側についていたと聞いた。パスパテはルイラムの職場を追い出されたらしく、城で休んでいるようだ。シャンカラは、ほれラーナイルの廃王子セトの軍師だそうだ。パイラヴァは城におるし、プーテスバラは大賢者の目を盗んでくるそうだ。あとはマハデヴァか、吾が輩はあやつを好かんがまあ好き勝手やってるだろう。なにせ、奴が一番のお気に入りだからな」


「同じ顔をしている、というだけだ」


「辛辣だな、ハラよ。まあそういうわけで、ガンガーダラが目覚めたことで十人揃ったわけだ。なるべく早く城へ向かった方がいいと思うぞ」


「わかっている。目覚めに間に合わぬわけにはいかないからな」


「ああ、そうだな。全ては我らが主、魔王レイドック様のために」


「そう、全ては我らが主、魔王レイドック様のために」


大戦士アレス、いや魔王レイドックのミニオンの一人ハラは立ち上がった。

ニーラカンタの姿はすでにない。

築き上げたものすべてを、今ハラは捨てようとしている。

そもそもが、仮初めのもの。

主君の目覚めの時までの暇潰しに過ぎないもの。

折れた剣の柄を握り、魔力を込める。

無くなった刃の部分に、黒く輝く刀身が出現する。


「“混沌”の剣ケイオスニードルよ。我が命に答え、我が名のごとき力を発せよ。全てを破り、全てを壊せ“ハラ”」


ハラは思い切り剣を振った。

混沌の剣の刀身が、巨大な刃と化して飛んでいく。

向かう先は、コレセント。

遮るものの無い虚空を飛翔し、混沌の刃はコレセントを真っ二つに切り裂いた。


結果を確認せずにハラは剣を納め、歩き出した。

大戦士アレスの失踪、そしてコレセントの崩壊。

前日のモーレリアント大災に続いて起きたこの事件は、否応なく世の終わりが近いことを大陸に住む人々に予感させた。


ハラは、破壊者という意味を持つ名の男は歩み去る。


そして、ニーラカンタは青い喉を持つ者。


ガンガーダラは大河を支える者。


ムンダマーラはドクロを掛ける者。


マハタパスは苦行者。


パスパテは獣の王。


シャンカラは恩恵を与える者。


パイラヴァは殺戮者。


プーテスバラは悪魔。


マハデヴァは大いなる光。


それは、魔王により与えられたミニオンとしての名前だ。

古き人間としての生を捨て去り、魔王の眷族として生きることを誓った日に与えられた名だ。

それぞれが凄まじく強力な魔法の力を持つ真言でもある。

その全てが、目覚めた今。


魔王の目覚めは近い。

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