表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
102/410

大武術会編04

担ぎ込まれたモンスは、なぜか笑顔だった。


「すいません、アニキ。負けちまいました」


「ああ。だが、よくやった」


それは本音だ。

鉄槌を餌にした初心者潰し、の戦闘スタイルを捨て、素手格闘スタイルに変え、それを使えるようにする。

それは、並大抵の努力ではなかったはずだ。

その上、音速拳などという隠し技も持っていやがった。

モンスの努力によくやった、とカインは言ったのだ。


「モンス殿、心配はいらぬ。それがしが、勝ってくるでござる」


シュラが、顔色を変えずモンスに言う。


「お前も変な影響を受けたようだな?」


カインの軽口に、シュラは答えなかった。

ただ。


「心配はいらぬ」


と繰り返した。


モーレリア側の方は勝利を祝っていたが、やや微妙な空気だ。


「ずいぶんとやられましたね」


ベスパーラの言葉が全てだ。

商人ギルドのNo.2のサラマンドが、勝利したものの腕を折られる等の怪我をしている。


「面目ない。が、思った以上に相手が強かった」


「音速拳を出すほど、ですか。あれ、ロデオを倒した技ですよね?」


一瞬、顔色が変わったサラマンドだったが、すぐになんのことやら、と返した。


「言いたくないなら、いいですよ」


「じゃあ、言わね」


「あなたがたは、緊張感というものはないのですか?」


苛立った様子でギルノースがベスパーラに詰め寄る。


「緊張し過ぎても、よくないと思ってね」


「ならば、好きなだけだらけていればよい。私が勝って大武術会は終わりだ」


ギルノースは、苛立ったまま闘技場へ向かった。

ベスパーラは肩をすくめ、サラマンドは苦笑した。


そして、第二試合が始まる。


「第二試合。モーレリア代表、モーレリア国軍千人将ギルノース・ブロス」


モーレリア国軍の制式歩兵軽装鎧を身に付け、ギルノースが歩みでる。

不機嫌そうな顔だが、引き締まってはいる。


「コレセント代表、“槍士”シュラ・アンティラ」


ざわざわと会場が騒きはじめる。

ヤクシ族?ヤクシ族だ、ヤクシ族が……。

そのような囁きが、観客の間に満ちていた。

ヤクシ族との最後の大きな戦いから、百年以上たっている。

それでも、モーレリア市民にヤクシ族の恐怖と畏怖は染み付いている。

当のシュラ本人は、まったく気にしていないが。


向かい合った二人は試合開始の合図と同時に動き出した。

突き会ったそれぞれの槍は空を突く。

ギルノースは不機嫌そうな顔を、さらに渋面にし。

シュラは無表情のままだ。

そのあとも何度も繰り出される槍だったが、二人ともかわしていく。

モンスとサラマンドの試合が力の勝負だとしたら、シュラとギルノースは技の勝負といえる。

高速移動と刺突を繰り返す両者の攻撃の応酬は、観客を満足させている。

じわじわと熱狂の渦が巻き起こっている。


「シュラの七割についていくとは、中堅に選ばれるだけあるな」


カインの言葉通り、シュラは全力の七割の力で相手をしていた。

それだけでも、ギルノースの実力がわかるというものだ。


「やはり、手加減していては勝てないか」


その言葉を発したのはギルノースだった。

シュラは表情を変えない。

ギルノースは、距離をあけ槍を床に突き刺した。


「“杖”の第4階位“アースウィンドウアーマー”」


魔法を発動したあとのギルノースは、見た目こそ変わらないものの雰囲気が変わっていた。


「これこそが、モーレリア国境紛争において反乱軍五百を葬り去った我が奥義。魔槍ギアランとの相乗効果によって無双の力を得る。覚悟するがいい、ヤクシ族」


その様子を見ながら、カインは今使われた魔法について考えていた。


「杖の魔法にも関わらず、支援効果の魔法か、珍しいな。それにあのギアランとかいう槍、地属性の特殊効果がついているみたいだな。五百人を葬り去るか、楽しそうな相手だ」


俺が中堅でもよかったかも。

コレセントの人間に聞かれたら、怒鳴りつけられそうなことを考えていたのは内緒だ。


ギルノースが攻めかかる。


「1.5倍だ」


速さと鋭さを増した突きを、シュラがギリギリかわす。


「アースウィンドウアーマーの魔法は、元来地に満ちる魔力を吸い上げ、攻撃魔法として放つ普通の杖魔法だ」


セリフとともに襲いかかるギルノースにシュラは回避で手一杯のようだ。


「だが、私はその原理を解明し吸い上げた魔力を己自身に作用させることによって、身体能力を爆発的に上昇させることに成功した」


ほぼ同時に見える二段突き。

シュラの体に一発入る。

ギルノースの顔にあるかなきかの、笑み。


「その強化の度合いが、1.5倍だと言ったのだ」


次の二段突きは、どちらも直撃した。

そうなれば、あとはギルノースの思うがまま。

雨のような槍の連撃が、次々にシュラに突き刺さる。

シュラの危機を見ながらも、カインは冷静だった。

シュラが七割の力で、相手をしていた敵の力量が1.5倍になる。

簡単に考えるとシュラの力を100として、ギルノースは70、ギルノースの力が1.5倍になると105。

今の状態のギルノースは、シュラの全力のわずか上。


「さあ、どうする?シュラ・アンティラ」


カインの言葉が、戦っている二人に届くわけもなく。

ギルノースは最大の力をもって、試合を終わらせることにした。


「終わりだ」


ギルノースの渾身の突き。

大地の魔力の余波が槍から溢れだす。

魔力によって強化された刺突は、シュラの奥義“震天”に匹敵する速度と威力だ。


だが。


「“震天”」


ギルノースの刺突と寸分違わぬ、速度と威力でシュラが奥義を繰り出す。

驚いていたのは、槍を穂先で合わせられたギルノースだけではない。

カインも、また予測を超えたシュラの動きに驚いていた。

二人の槍の穂先が合わさり、微動だにしない。

それは、両者の繰り出す力が全く同じだからだ。

カインはいぶかしむ。

強化されたギルノースと比べると、わずかにシュラの方が弱い。

味方に対する態度ではないかもしれないが、味方だからこそ力量は把握していた。

それが、覆された。

やがて、両者の均衡は破れた。

ほんの数秒程度だったが、二人にはもっと長く感じたかもしれない。

どちらも、後方に跳び態勢を整える。


「なにをした?」


ギルノースの問いだ。


「力量は、私の方が上だったはずだ。それを覆すだけの技量も、体力もないはず。全てにおいて我が上のはずだッ!」


「“槍”の第一階位“歩行”。効果は移動速度の微上昇。それを効果時間を削減し、効果量を増加させたのでござる」


移動速度が上がるだけ、とシュラは言ったがそれだけではないことにカインは気付いた。

槍の技で、移動速度が上がり勢いが増すということは威力も上昇するはずだ。

魔法の枠組みである“槍”の神には心当たりはないが、似たような魔法は“剣”にもある。

その経験から、カインはそう判断した。

だが、あの魔法の使い方は覚えがある。


ギルノースは魔力を吸い上げ、再度渾身の突きを繰り出した。

無尽蔵の大地の魔力が有る限り、その威力が減じることはない。

先程と変わらぬ威力と速度の刺突は、だがシュラによって弾かれた。

しかも、シュラは魔法で強化していない。


「な、何?一度ならず、二度までも」


「モーレリアの民人は覚えておくといいでござる。“ヤクシ族に一度見た技は効かない”ということを」


動揺したギルノースの見せた隙に、シュラは“震天”を叩き込んだ。

防御できずにギルノースは食らい、場外まで吹き飛び気絶した。


審判が、ギルノースの様子を見て首を横に振った。


「勝者、シュラ・アンティラ!」


司会者の声が闘技場に響き渡るが、シュラはニコリともしなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ