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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
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大武術会編03

リルレリア女王の開会宣言によって、モーレリア大武術会が開会した。

モーレリア市民の八割が見に来るという大武術会は、今年も観客席が埋まり、立ち見がその倍ほどもいる。

ぎゅうぎゅうの客席を横目に、王族や貴族の特別席はゆったりとスペースをとってありレリア女王補佐もくつろいでいる。

もともと、コレセントの闘技場に通っていたのもあって年に一度の大武術会もそれは楽しみにしていた。

彼女の席の後ろに立っているのはレルランだったが、こめかみを押さえている。


「どうしたの、レルラン?」


「いえ、頭痛ですがたいしたことはありません」


「体に気を付けてね。あなたがいないと大変よ、私」


「充分に存じております」


それはどういう意味かは聞かなかった。

あのような軽口を叩けるのであれば、心配はいらないだろう。

それよりも、今はモーレリアの三姉妹が全員揃っていた。

裏組織の件は、レリアが旨みを独り占めした形になったため姉妹の間にも薄ら寒いものが漂っている。

隙を見せれば、そこをつかれるだろう。

いくら、血の繋がった姉妹であっても。


開会宣言のあとは、アレスをはじめとした審判が着席しすぐに第一試合が行われる予定だ。

そして、予定通りに始まる。


「モーレリア代表、サラマンド・ワイバーン」


司会の呼び掛けで、モーレリア側からサラマンドが現れる。

1.9メルトの体に、筋肉が乗っていながらも粗野な蛮族的な雰囲気のまるでない風貌。

武器をもっておらず、籠手をはめただけの軽装格闘スタイル。


「コレセント代表、“潰し屋”モンス・モット」


続いてモンスが闘技場へ現れる。

サラマンドよりは小柄なものの、筋肉の付き具合は負けていない。

そして、カインは思わず声をもらした。


「あれ?」


モンスが武器をもっていなかったからだ。


「それがしも、秘密にされておりましたが。モンス殿は無手格闘を大戦士殿より伝授されておったようでござる」


風を吹き出す鉄槌は影も形もなく、その装飾によく似た籠手をはめている。


カイン達の困惑をよそに、サラマンドとモンス、二人の試合が始まった。


仕掛けたのはモンスからだ。

素早い接近、力強い踏み込み、鋭い突き。

おおよそ、人に殴りかかるには最適の動作でモンスは攻撃する。

一朝一夕で身に付くようなものではないだろう。

大戦士アレスの濃厚な修行の成果。

その打撃を、サラマンドは両腕をクロスさせて防御。

防いだものの、サラマンドは10センチほど押されていた。


「直撃の瞬間、モンスの野郎、瞬間強化魔法を放ってやがった」


「戦闘スタイルを変え、魔法的素養を伸ばしたうえでモンス殿に最適化する。さすがは大戦士でござる」


カインが教えられたのより、さらに濃厚な修行だったらしい。

カインも瞬間強化魔法の発動タイミングを掴むのに苦労した。

モンスもそれを乗り越えてきたのだろう。

放った拳がそれを証明していた。


だが、サラマンドもただの男ではない。

クロスした腕の中から、ニヤリと笑う顔が見える。


「次は俺の番だな」


セリフと同時に飛んできた拳に、瞬間加速でなんとか防御したモンスだったが今度はこっちが10センチ下がっている。


魔法を使った様子はなかった。

つまり、正真正銘自分の力量のみの打撃。


「とんでもない威力でやんすね」


「間に合わないように殴ったんだがなあ?」


お互いがお互いを見て笑う。

爽やかさの欠片もない、肉食獣が好敵手を見つけたような血まみれの笑いだった。


そこからは、地が揺れると錯覚するほどの打撃戦になった。

モンスが殴る。

サラマンドが殴る。

モンスが殴る。

サラマンドが殴る。

モンスがサラマンドが殴る殴る殴る。

モンスの瞬間的な筋力強化と加速の拳が、サラマンドの脇腹を抉る。

かと思えば、サラマンドのまっすぐに放たれた正拳がモンスの鳩尾を突く。

両者ともに、動きが止まる急所への攻撃だったがどちらも止まらなかった。

モンスは常時微弱回復魔法が、ダメージを削った

ため。

サラマンドは意思の強さで。


それでも、両者は間合いを取り息を吐く。


「やっぱり世界は広いでやんすね。とんでもない化け物がいるんですから」


「いやいや、俺の方こそ驚いた。闘技場なんぞお遊びだと思っていたからな。意外とやるもんだと感心したよ」


「ところで、あっし。まだ隠し技があるんですがねえ」


「奇遇だな。俺もだ」


決着をつけるべく、二人とも抑えていた力を解き放つ。


「ウェポンエンチャント解放」


始めに動くのはモンス。

張り上げた声に反応して、彼の籠手に取り付けられた宝珠がギラリと輝く。

その輝きにカインは見覚えがあった。


「あれは、奴の鉄槌に付けられていた衝撃波を起こす宝珠か?」


あのモンスとの試合で苦しめられた衝撃波。

その宝珠が、モンスの籠手についていて鉄槌はない。

それはつまり。


「鉄槌を籠手に作り直した?」


「そうですな。それは考えられるでござる。あいにく、それがしは方法はわかりませぬが、そのようなエンチャント技術があると聞いたことがあるでござる」


「武器のエンチャントを違う武器に継承する、か。アレスの引き出しもまだまだ多いな」


力を引き出されたモンスの籠手は、宝珠につられるように鈍く輝く。


「じゃあ、行くぜ」


サラマンドも、抑えていた闘気を解放する。

黄金に輝く錯覚すら感じるほど、凄まじい威圧感だ。

その巨体が、何倍にも増したような気さえする。


本気を出した二人は同時に駆け出した。

モンスの拳が最前に倍する速さで駆動する。


パンッ、と乾いた音がした。


サラマンドが吹き飛ぶ。

空中で態勢を整え、無様にならず着地する。

その顔が、本格的に驚いている。


「アレス流格闘術“音速拳”」


静かに技の名を呟く。

宝珠による衝撃波を全て推進力に変えて、音速の拳を繰り出すモンスの必殺技。

まともに防御はできなかったはずだが、サラマンドは起き上がってくる。


「アプローチこそ違うが、同じ発想になるやつがいるとはな」


満足そうに、立ち上がったサラマンドは構える。

だらりと垂れた左腕は、モンスの音速拳を食らったせいで折れたか、外れたか。


「音速の打撃を放てるってことでいいんですかね」


「ああ。打撃に関わる各関節を目一杯駆動させ、かつ踏み込み、打撃、視線を正確に行う。あとは天性の才能と死ぬほどの努力。必要なのはそれくらいだ」


「後半二つが難しいッスね」


「そうなんだよ」


と、答えながらサラマンドは動いた。

爪先から、膝、股関節、腹筋、背筋、肩、腕、肘、拳へ力を伝えていく。

打撃に合わせて、右足を前に踏み込む。

闘技場の床が割れるほどの圧力。

拳は目標へ向かって真っ直ぐ進む。

その視線は、モンスを捉えている。


始まった瞬間には、もう逃げられないことはモンスにはわかった。

モンスの時と同じ、乾いた音が響いた。

魔法によってではなく、自分の力量のみで放たれた音速拳はモンスの腹部に叩き込まれ、彼を場外まで吹き飛ばした。


「勝者、サラマンド・ワイバーン」


勝者を告げる声が響いた。

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