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カインサーガ  作者: サトウロン
魔王の章
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大武術会編02

カインにとって、激動のウルファ暦999年が終わった。

春先に、砂の王国ラーナイルでフェルアリードの画策した内乱に巻き込まれ。

初夏には、グラールホールドを襲撃した炎の王と戦い。

夏には、ルイラムでフェルアリードの弟子たちと争い。

秋口に、ついに宿願である炎の王への復讐を成し遂げた。

初冬、さらなる強さを求めコレセントへ至り。

今はモーレリアで大武術会を控えている。


「長かったような、短かったような」


様々な人物に出会い、様々な影響を受け、今のカインがある。

大きな目標がありながらも、流されるように生きていた。

それは今も同じだ。

魔王の復活、と言われてもピンとこない。

自分の考えで選んだわけではないから、なのかもしれない。

自由気ままに冒険をする、というのは目標ではなく願望だ。

俺自身の選択をしよう。

自分の人生に後悔したくないからな。


「アニキ、準備できましたかい?」


呼びに来たモンスに。


「ああ、完璧だ。今行く」


と答える。

部屋を出て、玄関につくとモンス、シュラが待っている。


「我が主よ。いよいよでござる」


「いよいよ、だな。シュラ、モンス、行くぞ」


俺達は、大武術会の会場であるモーレリア王宮へ出発した。


ほぼ同時刻。

先にモーレリア王宮入りしていたベスパーラ達、すなわちモーレリア代表はもめていた。

もめている原因は、モーレリア代表の中堅であるギルノース。


「なぜ、私が大将でないのです?」


口調こそ丁寧だったが、激昂したような感情が今にも噴き出しそうだ。


「顔合わせの時にも言っただろうが。ウチの大将のほうが強い。それはレルランも認めていることだ」


「レリア女王補佐の侍従ごときが、大武術会の出場者について口を出す資格はないはずですよ」


かろうじて、レリアには女王補佐とつけたが、レルランのことは侍従ごときとバッサリだ。

相手をしていたサラマンドは頭を抱えた。

商人ギルドでも、彼が前にいたワイバーン連盟でも、基本的に上の命令とは遵守するものだった。

こうも、自分勝手に意見を押し付けてこられると正直困る。

ギルノースは、まだ若いがこれでもモーレリア王国軍の千人将だ。

国軍の規模の小さいモーレリア王国では、千人将となれば将軍の次くらいには偉い。

自分の実力によほど自信があるのだろう。

口だけではない、ということだ。

それに、頭の痛い原因はまだある。

ギルノースは、リルレリア女王の派閥の人間なのだ。

商人ギルドの成立とその原因となった抗争の結果、モーレリア王国内ではレリア女王補佐の派閥の力がかなり増した。

大武術会で、仮にベスパーラが勝利するとなると、さらに手がつけられないほど大きくなる。

そのため、レリア女王補佐の息がかかってない実力者を送り込んできたのだ。

ちなみに次女リリレア女王補佐は、サラマンド推しだ。

なにより腹立たしいのは、サラマンドの上司であるベスパーラがニヤニヤと楽しそうにこのいさかいを眺めていることだ。

ただ、さすがにこれ以上仲がこじれると今後に差し障ると判断したか、助け船を出してきた。


「ギルノース千人将」


「なんです?」


「私はダノン伯爵です」


何をいまさら、という顔をしたギルノースにベスパーラは言葉を続ける。


「伯爵はモーレリアにおいて伝統的に騎士の位を持っている。騎士というのはウルファ大陸においては、準将軍位と見なされる。つまり、軍事的な上下関係は私のほうが上です」


「……」


軍隊という上意下達の組織に属している以上、ギルノースはこういう上から言われるのが弱いとベスパーラは見抜いていた。

思った通り、やや強引な理屈ながらも反論できず言葉に詰まったギルノースを今度は笑顔で懐柔する。

飴と鞭、硬軟の使い分け。

ベスパーラがここに来て覚えた技能だ。


「ところで、相手はヤクシ族だそうですよ。かなりの使い手と聞きます。あなたなら、倒せると判断しました」


かつての士族の武道試合を下地にした大武術会を催すほど、モーレリアにとってヤクシ族というのは畏敬の対象だった。

ベスパーラの台詞は、そこを突いたものだ。

こんな堕落した国で、若くして千人将になるほどの“真面目な”若者にはそういうのはよく効くだろう。


「そ、そうだな。確かにヤクシ族の猛者が相手では伯爵様には荷が重い、かもしれない」


微妙に失礼なギルノースだったが、ベスパーラは笑顔を崩さす追撃にうつる。


「コレセントの闘士の序列では、三位にあたるそうで一位が“大戦士”、二位が引退を表明している“王者”とくれば実質的には闘士最強の可能性もあります。つまり、あなたの試合こそ事実上の大将戦になるでしょう。女王様をはじめ、補佐の姫君、侍従もそれを踏まえてあなたを中堅に推したのだ、と私は思いますよ」


言葉を重ねるたびに、顔に喜色を浮かべるギルノースをサラマンドは苦笑しながら見ていた。

ベスパーラの言っていることは詭弁だ。

順番などベスパーラとサラマンドが適当に決めたものだし、コレセントの闘士事情だって今では変わりつつあると聞く。

すっかり機嫌を直したギルノースが準備のため退出すると、ベスパーラは儀礼用の笑顔をやめ身内用の笑顔を見せた。

その違いは、はっきりと指摘はできないがサラマンドにはなんとなくわかった。

あるいは、その笑顔もフェイクなのかもしれないが。


「人は自分の信じたいこと、都合のよいことを信じようとするものです」


「信じさせようとするのは、どうなんだ?」


「嘘はついてませんし、彼がその言葉でやる気を出してくれれば問題ないでしょう」


「まあ奴のことはいいさ。だが、問題はお前だ」


「なんです?」


「カイン・カウンターフレイムはとんでもない相手だぞ?」


「知ってますよ?」


「軽業師と大賢者と大戦士に師事を受け、二月あまりで闘技場の実質二位に登り詰めた男だ」


「さすが、調べが早い。その通りです」


「あんたが負けるのはマズイ。ギルノースの何倍も」


「私が負ける、と?グラールホールドの騎士団長の家柄に生まれ、騎士団長を兄に持ち、自身も神聖騎士となり、ガッジールでは副騎士団長を勤め、たった一月あまりでモーレリアの裏社会を統一したこの私が?」


「改めて聞くと凄い経歴だな、あんたも」


「でしょう?」


余裕すぎる態度にサラマンドは苦笑した。


「なんか心配して損した気分だ。あんたなら、なんとかするだろうな」


「よく分かっている。流石は私の右腕です」


「おだてても何もでねぇぞ」


「それも、よく分かっています」


ベスパーラは歩き出した。

サラマンドはそのあとを続く。


「俺は負けねぇぞ」


「私も負けるつもりはありません」


ベスパーラ達の肩に、モーレリアの、商人ギルドの儲けがかかっている。

余裕を見せているベスパーラは、内心の焦燥を隠しゆっくりと歩く。


大武術会が始まろうとしている。

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