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カインサーガ  作者: サトウロン
炎の王の章
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砂の王国01

俺が左に一歩跳ねるとそこを黒いモノが駆け抜けていった。


一瞬、判断が遅れていたらあの突進をまともにくらうところだった。

サバクオオカミの亜種であろう黒い獣はその巨躯をそのまま武器として突撃する。

食らうダメージは半端ないだろうな、と俺のなかの冷静な部分が分析する。


砂漠の上で俺はオオカミと戦いを繰り広げる。


足元はすぐにさらさらと崩れる砂。


頭上には燃え盛る太陽。


こぼれた汗すら、染み込む間もなく乾く砂漠の上だ。

地の理は圧倒的に向こうにある。


だが、俺は勝つ。


勝たねばならない。


奴の背後には破壊された柵、その破片。

そして、無惨にもオオカミの餌にされた家畜の亡骸。

この砂漠の限られた資源では、生存競争もまた激しくなる。

巨大化したサバクオオカミはついに人の領域に足を踏み入れてしまった。

このまま放置すれば、人に害をなすだろうと判断した冒険者ギルドが討伐依頼をだしたのだ。


こいつはただ生きようとしているだけと、俺だってわかっている。


だが、そのために他者に被害をだすなら自分も傷つけられる覚悟が必要だ。


俺だってそうだ。


今日の飯のために、こいつを倒す。

そのために命を落とすかもしれない。

そんなことはわかっている。

その覚悟の上で、俺はこいつを倒す。

だが、こんなところで死んでいられない。


「炎の王」を倒すまで。


サバクオオカミの突撃を再度、横にステップしてかわす。

さらに、手にしたロングソードを駆けるオオカミの背に振るう。

わずかにタイミングがズレて肉まで到達せずに、皮を薄く切るだけにとどまる。


オオカミも目の前の人間が今までのエサとは違うことに気付いたらしい。


威嚇するように低く吠える。


そして三度、突撃。

これまでより早く、サバクオオカミは駆け抜ける。


今度は、こちらも駆ける。

オオカミの突撃に力が乗る前に、勝負をつける。


一瞬の交錯のあと、俺の頬から血が流れる。

その熱い液体を感じながら止めていた息を吐く。

俺の剣で下顎から腹部まで、切り裂かれたオオカミは痙攣をしていた。


あの一瞬、俺は身を沈めオオカミの勢いをそのまま奴への攻撃に変えた。

数度の突撃と、俺の回避を見てパターンを覚えてしまったオオカミは俺に誘い込まれてしまった。


と言ってしまえば格好いいのだが、奴がタイミングよく来てくれない可能性だってあったのだ。


今回は運がよかった、というところだろう。



しばらくたって。


動かなくなったサバクオオカミの亡骸を牧場主に見せる。

実直そうな壮年の牧場主は、その日に焼けた顔をくしゃくしゃにして感謝した。


牧場をあとにして、俺は街に向けて歩きだした。

この砂漠最大のオアシスに建設された、この国の首都。


この国、ラーナイル王国の王都である。


またの名を砂の王国という。


狼の頭部に例えられるウルファ大陸、その南部に位置する大砂漠。


ちょうど狼の下顎にあたる部分に砂の王国ラーナイルはある。


国王はオシリス・テリエンラッド。


地勢としては砂漠の中にありながら、豊富な地下水とそこに育つ植物のおかげで住むには悪くない。

主食であるライサル麦こそ中原からの輸入に頼ってはいるものの、オアシスで育つ羊やカワキブタなとの肉類、また西にある淡水の内海で魚類、そしてその川岸の耕作地で野菜が栽培されている。


食料事情は悪くない、どころか良好だ。


食べるものがあるなら人間は活動的になる。

というわけで、この国は発展を続けている最中だ。

王都の中心から広がる大オアシスは完全に市街に覆われている。

オアシスと砂漠の間は城壁で遮断されているが、城壁の外にも水をひいており、商人街が形成されているようだ。


南に目を向けると、遠くにうっすらと三角形の建造物が見える。


古代魔道帝国の皇帝バアル・ゼブルの墓所といわれる遺跡だ。


地元ではバラミッドと呼ばれている。


実は、ラーナイルの重要な観光地であり、一部を除いて内部を見学することができる。

それどころか、遺跡の目の前に観光客目当てのテント村まである始末だ。


まあ、今回の仕事じゃ行く予定はない。

いいところだけあげていったがこの国に問題がないわけじゃない。


15年前に勃発した内乱から続く国内の不安定がこの国に大きく根を張っている。

先王セトの悪政に対し、王弟オシリスが起こした反乱はラーナイル中を巻き込み多くの犠牲を出した。

詳しい内容は省くが、王国を二分した内乱は、オシリスの勝利に終わった。

セト一派は、幼い王子も含めて砂漠の奥地の砂石の谷に追放されたそうだ。


国は疲弊し、軍事力もがた落ち、国内は混乱したまま。


しかし15年たった今、内乱の傷も癒え、ラーナイルは更なる発展の時をむかえている。

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