第7章 これからどうしよ?
翌日。
カトリーヌも元気を取り戻し、昨日アンジェが一斉に『ブルゾス』を倒してくれたおかげで、『アンフィール』内の『ブルゾス』の発生は落ち着いていた。
カトリーヌは久しぶりに、『アンフィール』に『ブルゾス』退治には出かけないで済んでいた。
「だけど…すごいね。一気に3体かぁ」
ビルケが驚いたようにまじまじと3体の『ピュグマリオン』を見つめた。
昨日、ビルケには報告をしただけで、今朝になって、ビルケは『リュケイオン』にすっ飛んできたのだが。
「君自身も新しい能力に目覚めたんだろう?」
「はい…えっと」
ビルケの研究室内にある応接室。
ここでシエルと3体のピュグマリオン、ジーウ、カトリーヌが同席していた。
あまり広い部屋ではないので、隣の研究室から臨時に木製の椅子を持ち出して、全員がなんとか座れていた。
「覗き能力です」
代わってジーウが答えた。
「違うっ!!」
シエルが激しく抗議する。
「『視野拡張』の能力です」
正しく答えたのはロウだった。
「360度、望む景色を見渡すことが出来る能力だったね。
そしてその視野は君たちピュグマリオンとも共有出来る…か。
なるほど。使い方によっては確かに『無敵の能力』とも言えるわけか。
私も長いこと『綺晶魔導術』や『アトスポロス』について研究しているけど、こんな能力だけに覚醒する『アトスポロス』も初めて見たよ。
まるでピュグマリオンに出会うために、生まれた能力だ」
「…都合がいい能力というわけですか?」
「そうとも言える。君を推薦したのは、偶然だけど、まさか…ねぇ」
ビルケもそれ以上説明しようがない。
「ところで、3000年後の未来はどうだい?」
ビルケはピュグマリオンたちに訪ねた。
「はい。すごく様変わりしていたことに驚きました。
時代が逆行しているようですね。昨日シエルさんから色々教わりましたので、対応は出来ます」
ミューズの答えには卒がない。
「時代が逆行しているか。確かに、この『リュケイオン』の旧市街を見ていると、どれだけ3000年前は文明が発達していたかよくわかる。
君たちも、その時代に覚醒していたのかな?」
「はい。私とロウは少しの間でしたが、前のマスターであるロードさんと暮らしていた時期があります。が。アンジェはまったくの初めてになります。
3000年前の知識は、私たちの中はデータとして蓄積されていますが」
「そう…か。色々君たちには協力してもらいたいことが多いな。
大丈夫かな?」
「私たちのマスターはシエルさんです。シエルさんの了解を得られれば可能です」
本当に完璧な答え。
でもどうしてミューズの外見は、12歳ぐらいの女の子にしたんだろう?まだアンジェの方が、違和感なく見られるのに。
シエルはピュグマリオンたちの、性格の違いと外見のギャップに慣れることが大事だろうと考えていた。
「シエルさん、何かお手伝いすることありますか?」
アンジェが期待に満ちた質問をしてくる。
いくら彼女たちがすごい人形たちとは言え、まずはこの世界のことに慣れないといけない。特にアンジェは必要な気がする。
「そうだね。まず、『リュケイオン』の案内をするよ。
君たちも知っておいた方がいいだろうし」
ビルケは『リュケイオン』の学長と話があると、研究室を後にし、ジーウも資料を取りに行くと部屋を不在にしている。
「だったら私も行く。久しぶりに、『リュケイオン』を見てみたいし。で、お兄ちゃん、ひとつ訊きたいんだけど…」
「んっ!?何、カトリーヌ?」
「外に出て大丈夫?」
シエルの顔から血の気が引いた。そうだった――高いところ苦手じゃないか、僕。
「案内はカトリーヌさんにお願いした方がいいですね」
本当にミューズは皆のお姉さんのようだ――。
「でも3体が同時にカトリーヌさんと出かけてしまうと問題があります。
私はシエルさんをお守りするために残りますので、アンジェ、ロウ。あなたたちがカトリーヌさんと一緒に『リュケイオン』の中を案内してもらってきて」
「了解っ!!いいですか、カトリーヌさんっ!?」
「もちろん、構わないけど……」
カトリーヌの表情が冴えない。というより、兄シエルを何故か心配な思いで見つめている。
「カトリーヌさん、そういう意味でしたら大丈夫です。私は人形ですし。
シエルさんにそういう性癖がなければ――ということですけど」
「はっ!?お兄ちゃん、昨日は何かしたのっ!?」
「ち、違う。何もしてないよっ。ミューズ、へんなこと言わないでっ!!」
「了解です、シエルさん」
笑顔で答えるミューズに、何事か理解していない様子のアンジェ。どうでもよさそうなロウ。その3体を何故か受け入れつつも、どこかなんでか警戒しているっぽいカトリーヌ。
シエルは先が思いやられるようで、大きなため息を吐かずにはいられなかった。