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最終章  それからのこととこれからのこと。

 一週間が経過した。



 シエルたちは今荷造りに追われている。

 師匠であるビルケについて、『アカデメイア』に行くことになったのだ。

 


 長期間の出張になるらしく、次に『リュケイオン』に戻れる時期は不明だった。

 妹のカトリーヌはもちろん、アンジェ、ミューズ、ロウの3体も今回は一緒だ。



「なんだか…少しの間でしたけど、ここを離れるのが寂しいですね」

 荷造りに忙しいシエルに、アンジェがそんなことを言った。

 その笑顔には――少し寂しさが含まれているようにシエルには感じた。



「そうだね。アンジェには1ヶ月ぐらいだったけど…本当によく協力してもらったし、頑張ってもらったからね」

「それはシエルさんがいたからですよ。

 シエルさんがいなかったら、私は目覚めていませんし、シエルさんがいたから、私は頑張れたんです。もちろんカトリーヌさんやミューズたちのおかげでもありますけど」

 アンジェは思ったことを素直に口にする。

 シエルにとって、それがどんなに嬉しいことか――アンジェにはわかっていないのだろう。それをわからせてあげたくて――シエルはアンジェを抱きしめた。



「シ…シエルさんっ!!?どうしちゃんったんですか??」

 驚いて――慌てるアンジェに、シエルは耳元で囁いた。

「アンジェ…人は嬉しいとき、お礼をしたいとき、こうして抱きしめることをするんだよ。

 それはとても親しくて大切な人たちの関係に限られるけど…僕にはアンジェはそういう存在なんだ。だからこうしたんだ……」

「私が…シエルさんにとって大切な存在ですか?」

「ああ、とても大切だよ。そしてこれからも大切な存在だ……」

「それは…私も同じなんです。シエルさん」

 アンジェの手が、自然とシエルの背中に回る。

 シエルのアンジェを抱きしめる手に――力が込められた。

「…私…シエルさんが大好きです」

「ありがとう…僕もだよ」

「いつまでも傍にいていいですか?」

「もちろんっ。そうしてくれ…」

「はい…そうします。だから私を離さないでくださいね」

 なんか段々――愛の告白になってきたような。

 恥ずかしいが、シエルはアンジェの気持ちを受け入れる覚悟は出来ていた。

 それに――離すつもりもない。

「あぁ。もちろんだよ、アンジェ」

「はい」

 しばらく1人と1体と――否。2人は体を寄せ合い、抱きしめ合っていた。



 が、その後。部屋に入って事態を目撃したカトリーヌに激しく咎められる結果になろうとは――シエルは思ってもいなかったのだが。



◆◆◆



「『リュケイオン』が閉鎖される?」

 シエルたちが『アカデメイア』に着き、1ヶ月が過ぎた頃。

 そんな連絡がシエルたちの元に届いた。

 落下の危険性が増した『リュケイオン』への立ち入りが禁止されたのだと、ジーウから聞いたのだ。

 


 ジーウはこのときも自分の正体を、シエルたちには話してはいない。

 彼は今の関係が――とても気に入っているようで、兄弟子であるジーウとしてまだ通していた。そして、シエルはそれを信じて疑っていない。



 『リュケイオン』の事実上の閉鎖。

 それはシエルに少なからず衝撃を齎したが、ここ『アカデメイア』に来てから、自分がどのような存在なのかと知ることになった。



◆◆◆


 

 直後、シエルの元にロバロ公国にあるもうひとつの魔導師養成学宮の『キュノサルゲス』

から、重要な『アトスポロス』たちがやってくるという情報が齎される。



 それがシエルの置かれた立場を更に明確に――厳しいものだということを知らせる転機となるのだが――彼がそれを知るのは、もう少しあとになる。



◆◆◆

 


「お兄ちゃん…何考えてるの?」

「うん…なんだか……僕の知らないところで、いろんなことがあったんだな…と」

 ピサ島の祭りも終わり、今日は『アカデメイア』で知り合ったアーラという少年とその仲間たちが、

『キュノサルゲス』から来た例のお客を迎えに行くということで、イオの街に行っている。



 アーラたちは15~17歳の若い連中だ。

 19歳となったシエルはますます自分の年齢にコンプレックスを感じざるを得なかった。

 


 このとき、シエルは『アカデメイア』の寮の部屋にいた。

 部屋というより、ひとつの家の広さがある。

 リビングのソファに座り、シエルがぼうっと天井を眺めていたとき、妹のカトリーヌに声をかけられたのだ。

 もちろんここは1階。相変わらずシエルの「高所恐怖症」は治っていない。

 それでも妹カトリーヌのこの1ヶ月の兄シエルの評価は――格段に上がっていることは、シエルは知らないのだが。



「おはようございまーす!!」

 元気よくアンジェが部屋に入ってきた。

「おはよう…」

 元気だなぁとシエルはアンジェに感心してしまう。

「おはようございます」

 とロウは変わらずマイペース。

「シエルさん、カトリーヌさん。朝食が出来ました」

 キッチンにいたミューズが2人を呼びに、リビングにやって来た。



「ありがとう。今行くよ」

 ミューズに声をかけ、「行こうか」とアンジェとロウに笑顔で促す。

 そんな時間が――シエルには嬉しい。

 


 いつまでこの日々が続くかわからない。

 それでもシエルはこの日常を大切にしたいと感じていた。



 ついそこまで訪れている「戦いの現実」を肌で感じながら、シエルは彼女たちを護りたいと強く願う自分に気がついていた。



 これより更に数ヶ月――『リュケイオン』は陥落することになり、3000年続いた歴史に幕を閉じることになる。

 


 




 それはシエルとピュグマリオンたちの戦いの幕開けを意味していた――。




これにて『僕と天使のコイバナ。』は終了となります。

ここまでお読みくださり、本当にありがとうございました。



この世界は「この兄をどうにかしてください!!」や「今から英雄!!」という別の作品と共有しております。



 この話の本当の結末はそのどちからかの作品で書く事になるかと思いますが、ひとまずこの話の最後はこのような形で締めくくらせていただきました。

この「コイバナ」や「この兄」を通しての完結話である『奈落浄化』という話は「今から英雄!!」という話で12.10.22に無事完結いたしました。本当にありがとうございました!!



 お気に入り登録、この作品への評価等本当にありがとうございました。

 遅くなりましたが、この場にて厚く御礼申し上げます。

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