俺の騎士道
------墓場 北エリア(奥)
「うんやっぱり一番綺麗だな≪藍茨・アリス≫。全然棘は付いてないけどな」
剣を手にしながらそう一人呟く。
剣先を地面に当てガリガリと土を削り長めの縦線を描きその線の上側に短めの横線を引く。
さて、十字はこんなんでいいか。十字架を一つでも書いとけば墓場の闇の魔力が少しぐらい落ちるだろう。
そろそろこっちに来るかな。これ終わったら久しぶりに学校行くか。デュラハンについて大して知識ないし。
「貴様何者だ!」
剣を突き出し突進してくるデュラハン。
「おいおい、急だね」
それに対し剣の向きを変えアリスの腹でデュラハンの白銀に煌めく剣先を受け止める。
キィィィィン!
と、鋭い音がして二つの剣が衝突する。そのまま右手で握っている柄の部分を押し、左手で刃の方を引きぐるりとデュラハンの右側に回り込み攻撃を受け流す。
すぐさま剣を持ち直しフェイシングのように構え、こちらを振り返るデュラハンの胸部装甲向けて駆け出し三回剣で突く。
ガッ!ガッ!ガッ!
三回ともすべて命中し後ずさりバランスを崩すデュラハン。
装甲は割れなかったが先ほど剣を突き出したのと全く同じ軌道に鋭い水の槍が現れデュラハンの鎧に突きささる。バランスを崩しているので先ほど剣で突いたのとは違う右の肩口、右胸、胸の中心に槍が突き刺さり鎧を貫く……だけにとどまり、消える。
これが水特有の手数の多さ、水の魔力がサポートしてくれる。誘導性や威力、貫通性能は憑依させる精霊の強さにより変わる。
「くっ!こちらの質問にも応じず攻撃か!!」
「先に手を出してきたのはそっちだろう」
ん?こいつさっきは気にする暇もなかったけど頭が付いてる?
ラッキー!!レアタイプじゃん!頭取れなかろうが脱着式だろうが嬉しいなぁ!!
「ああ言えばこういう!そっちこそ先に光を……人の顔を見て何をにやけているんだ!!」
「にやけてねーよ。口角がつりあがってるだけだ」
「くぅぅぅぅ!!!そんな屁理屈をぉ!!騎士の名に掛けて使いたくはなかったんだがな!!お前は人をイラつかせる天才のようだからな!!出し惜しみはしない!!!」
「何をするつもりだよ?」
「ギルガ・メイ・グライア・ガージ……」
剣を俺に向け空いている片手を胸に当て詠唱を始める。
「ギルガ・メイ」、中位闇魔法の詠唱か?でも闇に一対一を邪魔するような魔法あったか?
「レア・ミレイル・ルア・シルラーナ!!」
二重詠唱!?おいおいマジか……オリジナルかよ!
詠唱の感じから察するに光?……ヤバいな邪魔しにかからないと!
そう思い駆けだすとキラキラと光る闇の波動が俺を吹き飛ばす。
「世の理に反する力よ!!地水火風に!天地雷鳴に属さぬ力よ!!その力を我が為に行使せよ!!」
「ぐっ!」
やべぇ、魔力がだいぶ高い、俺よりは低いか?何にしてもここまでのランクのオリジナル魔法…さすがは上位の魔物代表格だな。
「複合魔法!≪ドライヴ・レイヴラック・オート≫!!」
奴の周りに色々な形の黒い塊が六つほど現れる。すべてがそこそこの魔力の塊だ。
名前からして自動で相手を追いかけたりする援護射撃ユニットってとこか。
見た目に光の要素が無いってことは攻撃が光か。
「解けろ」
そうデュラハンが言うと黒い塊がふっと消える。
目視出来ないタイプかこれ?さっきの剣での攻撃で奴の体力は……二割も減ってないか。
「撃ち抜け」
無感情に奴が告げると急に前、左右、後ろなどから一斉射撃を受ける。
俺という一点に向かい集束し光をあげる。
次いで爆発音ととてつもない衝撃が辺りを揺らす。
「おいおい、あぶねーじゃねーか。あとちょっと出てくんのが遅かったら黒焦げだぜ?レンよぉ」
レンを襲ったかのように見えた炎や衝撃はすべてレンを包み込むように現れたオレンジ色の髪の女に吸収されたらしい。
それを表すかのように彼女の身につけているマントの端の方がチリチリと焦げている。
「ごめんごめん。でもこういうときでも駆けつけてくれるから安心してるんだぜ?俺」
上を見上げスッと手を伸ばし女の頬に触れ、スライドさせ首に手を回しお互いの顔を近づける。
女はニヘラっとだらしなく顔を緩ませるとぶすっとむくれながら文句を垂れる。
色々と表情の移り変わりが忙しい奴だ。
「頼りにしてくれるのはいいけどさ、たまにはアタシも日常で呼びだしてくれよな。いっつもいっつもアタシだけこういう危険な時で日常は他の奴らしか呼ばねーだろ。アタシだって寂しいんだからなぁ」
「じゃああいつ倒してくれたら明日の朝からデートしてやるよ」
「マジっ!?それはもちろん手つないだり腕組んだり抱きついたりチューしたりしていいのか!?」
「勿論だろ。それに今日はずっと出てていいぞ」
「一緒に寝ていいか!?」
「全然オッケー」
「よっし!やる気出たぁ!!つーわけでデュラハンよぉ!このアタシ、ルル・イグナがいっちょ焼いてやるよ!!!」
「あっ、あくまで動かなくなるぐらいで抑えろよ?『契約』したいから」
「りょ-かいりょーかい!!痺れさせばいいんだろ?三十秒で片ぁつけてやんよ(よっし!ちゃっちゃと片づけてレンとイチャイチャしてやる!!)」
「くっ!舐めるなぁぁぁぁ!!!トライ・バーストォォォォ!!」
剣をルルに向け突進する。左右から黒い塊が再度現れ光の矢を出現させルルに迫る。
このデュラハンはこの時点で致命的なミスを二つ犯した。
まず一つは一度やって効果の無かった魔法を使用した事。
二つ目は相手の力量を把握しきれずに突進技なんて無謀な攻撃に出たという事。
案の定光は綺麗に消され剣は止められる。
「ごあいにくさまファーブニルやイフリートの二つ名は伊達じゃないんでね」
「離せ!!!馬鹿にしてぇぇぇぇ!!!」
「おっ?なかなかやるなぁお前。アタシの拘束解くなんてさ」
「ふん!!うるさい!こうなったら奥の手だ!!」
デュラハンはそう言いバックステップで距離を取る。
……が、ルルがそんな隙を与えないかのようにダッシュし距離を詰める。
「さっさと痺れとけ!!≪パル・パリア・パラライズ≫!!」
ガッ!とすごい勢いでデュラハンの頭を掴むと呪文を唱る。
するとルルの手が黄色く光り、光がデュラハンの頭に流れ込みどさっとうつ伏せになり倒れる。
おぉ~さっすがルル。上位麻痺魔法を詠唱なしで使うとか。
「さって、これでいいよね、レ…ぐっ」
くるりと振り向いたルルの腹を貫通して白銀に剣が煌めく。
グッとルルの体力を表すゲージが半分以下に減る。
刀身からは血を滴らせ地面に落ちる。
「くぅ……やるねぇアンタぁ……ここまで傷を負ったのは久々だよ」
「ふん。騎士を前に油断をするからこうなるのだ。敵を自分より弱いと思い込んだな。驕るのは死につながるぞ」
「ちっ!説教垂れてねぇでルルを離せよ!!(デュラハンには麻痺は効かないのか?)」
アリスを逆手に持ち刀身から水流を放出する。
曲線を描きデュラハンの上あたりに来ると下に向かって水流を放つ。
「言われなくとも離すさ。その程度の水で効くとでも思っているのか!!!」
「効くなんてこれっぽっちも思っちゃいねェよ!!」
目的は違う。水をあいつに当てるのが目的では無く地面に当てるのが目的だ。
さらにいえば地面のある特定の場所にそれを集める事が目的。
「ほう、なかなかの滞空時間だなぁ!!!人間にしては出来るようだな!!!」
「お褒めにあずかり光栄ですっと」
地面に着地するのと同時に兜割を繰り出す。落下と相まって尋常ではないほどのスピード、それに伴うかなり会心の一撃だったが軽く止められる。
「なかなかだが!!私には及ばない!!」
「ぐぅ!!!」
受け止められた剣をそのまま押し返されかなりの圧力を受ける。
内臓が飛び出るかと思った。痛いなぁクソが。帰ったらルルとかノイとかアクアに慰めて貰おう。
しゃーねぇルルがいるしアクアもいるし少しぐれー動かなくなったっていいか。
「はぁ……本気で行こうか……」
「まだ余力を残していたか。来い!!受け止めてやろう」
「後悔すんなよ」
マントを外し、ガントレットも外し右腕の袖を引きちぎる。
右腕に描かれた複雑な文様が淡く光る。
「体内リミッター解除……痛覚遮断…全魔法陣展開………」
周りに大小さまざまな大きさで赤や青、黄色や緑、紫や白など色とりどりな魔法陣が現れる。
右腕の輝きが強くなり点滅し出す。
「身体能力限界上限底上げ……限界まで強化…限界突破……強化…限界…突破………強化……限界……突破…強化………限界……潜在能力覚醒……!!!」
俺を中心としてさっきデュラハンが出したような波動を放出する。
髪がツンツンと上を向き逆立つ。
右腕の文様が消える。
「はぁ、これやると体が動かなくなるから嫌なんだよな」
目を見開きデュラハンを見据える。射るように鋭く睨む瞳は普段の黒ではなく水色とオレンジのオッドアイになっている。
「おぉ、いいプレッシャーだな。だがその程度じゃ!!」
「どこ見てんだよ。こっちだぜ?」
アリスの背の部分で思い切りデュラハンの背中を叩きぶっ飛ばす。
ミシッと音がした後派手に鎧が砕け散る。
鎧の破片を飛ばしながら地面を転がるデュラハン。
「がぁぁ!!ちっ!!」
こちらに駆けだしてくるデュラハン。
そうそう、それを待ってたよ。お前と俺の間にある物……それがトラップになる。
俺が最初に細工したもの………地面の十字架。そこにはさっき放出した水が集まっている……はずだ。
「今だ!!≪ウォータ・クロス≫!」
ちょうどデュラハンがその上を通過しようとしたときにそれを発動させる。
普段なら大した威力はないが今の俺、差し詰め『覚醒中』ならあれは十分な威力を伴う。
地面の裂け目から放出された水流がデュラハンの鎧を引き裂きその下に着ているアンダーシャツっぽいやつも切り裂く。
「くぅ!!こんな格好!!(はずかしい!!あと少し水流がずれていたら恥部が出ているじゃないか!)」
「油断すんなよ」
急に距離を詰めていた俺に驚き目を見開くデュラハンの腹めがけてアリスの柄を突きだす。
ドゴッと鈍い音がしてデュラハンの顔が苦痛にゆがむ。
その勢いのままデュラハンの事を押し倒し腕を拘束する。
「さて、この状況でもまだ抵抗するか?」
首には下手をすると効果が無いのでアリスを心臓の辺りに突きつけて脅しを掛ける。
キッと睨みつけてくるが額には冷や汗が滲んで口もヒクヒクとヒクついている。
まぁ残り体力が一割切ってればそうなるか。
「ここで俺に従うってんなら殺さねぇし待遇も考えよう。そうじゃないならここでお前が従うっていうまで痛めつけてそのあとも奴隷のように扱う。さあどうする」
「………う」
「あん?」
何かを小声でぼそっと言う。
聞き返したが実際は聞こえている。普段なら一切聞こえないが今はあらゆる神経が強化されてるから普通に聞き取れている。
「従う!!」
「ならよし。これを付けてやる」
ポーチの中の袋の中の小袋からイヤリングを取り出し丁寧にデュラハンの耳に付ける。
イヤリングの意味…『信頼』いつかはそういう関係になりたい。まあすぐになるが。
イヤリングが光り、赤に変わる。
「これでよし。そういやお前名前はなんだよ」
「私の名前はセリア・ルクラーナだレンとやら」
「そうか。セリアもし気に入らなかったら俺に挑んで勝てたら解放してやるよ。勝てたらな」
ゼッテー勝てねぇけどな。強制で『契約』してる限り俺より弱くなるし。
まぁこういっとけばこいつは必ず勝負を仕掛けてくる。勝てば『調教』する口実になるからな。
あっ……やばいもう時間切れか。
「ルル、俺を運んでくれ。アクア戻れ」
剣が杖に戻り、ルルが立ちあがる。
同時に体が異様なまでに重たく感じうつ伏せに倒れデュラハンの体の上に寝転がる。
「まったくしょうがねぇなぁ。で?いま住んでんのはどこ?」
「ここか……ら山の入り口の向かってくと…ある洋…館。たのん…だぜ」
もう、視界がちかちかする。何回かブラックアウトしてるし。
このあと帰ったらルルの相手して、ノイとユナの機嫌よくして、
あぁやる事が山積みだな。
精霊出した割に空気だった。
戦闘グダグダだった。
反省しないと。