学科変更後初めての登校
------廊下
「ユ~ナちゃん!」
「ちょっと!痛いって!急に抱きつかないでっ」
「変な歩き方して~、ひょこひょこ歩いて辛くないの?」
「アンタのせいでしょうに……」
「そうだっけ?なんか手伝える?抱っこしてやろうか?」
「ん~……お願い」
「よし来た!」
膝の裏に手を入れ、背中に手を通し肩を掴む。
所謂お姫様だっこ……をやりたかったんだが寝起きでそれはキツイから普通に抱え上げる。
意外と楽で良い。
「ほら、俺の首に手をまわして、バランスとれよ?」
「言われなくてもやってるわよ」
首に手をまわしてくる。
自分の顔の横に好きな奴の顔があるって幸せだよなぁ。
ま、その『好きな奴』が複数いる俺はそんな事に幸せを感じるほど純粋じゃねーけどな。
「いい匂いだな」
「ふぁ…ちょっと、首噛まないでよ」
「イチャつくなぁーっ!!!」
背中にタックルを喰らう。地味にいてぇなおい。
バランスは意地でも崩さないけど、代わりに背骨が多大な被害を負った。
「何すんだよシエル」
「私にも構え!このヤロー!!」
「はいはい」
頭を掴みわしゃわしゃと乱雑に撫でる。
こういうのユナは嫌がるから出来ないんだよなぁ。いやまぁしてもいいんだがな。
シエルは喜ぶしどんどんしてやろう。
「私……にも………かまえー」
「床を這いずるな」
「ぅ……歩くの…だるい」
「よじ登るな。重い重い」
ノイに右腕をがっちりとホールドされる。
普通に抱え上げる分には軽いがこうなってくると普通にきつい。
「大人気だな」
「だなー♪」
ミアを抱えたセリアに出会う。
出会うっつーか朝だし向かう所は一緒なんだけどな。
「皮肉なら間に合ってるぞ」
「皮肉ではないがな」
「ひにくー?にくー♪ウマー♪」
「大人気だねぇ。レン君」
背後から急に声をかけられビクッと肩が震える。
「誰だ!」
「そんな姿で凄まれても怖くないんだけどなぁ。今日は学校にきてねなるべく日がてっぺんに来る前までには」
「ホントに誰だ?」
「あれぇ、自己紹介がまだだったぁ?アクラ・リクアラート、君の新しい担任と言えば分かるかな?」
あの日机に伏せってた教師か!
正直背後取られるのとかかなり久しぶりだわ。マジこえぇ。
「そういう事だから。サボっちゃだめだよぉ?じゃあ学校で待ってるからね~」
終始、気だるそうなゆったりとした口調で話し、白く発光すると突然目の前からいなくなる。
「ぅぉ……?消え…た?」
「インビジブルの類の魔法か?」
「ん~、アレは転移系統じゃないかな」
「でも転移だったら発光は緑じゃない?」
「全部ちげーよ。『イリュージョン』もしくは『ドール』の類だ。たぶん『ドール』だろうけどな。床見ろ、髪の毛落ちてるだろ。つーか俺にひっついてまじめな顔すんのやめろ」
床に落ちている黒の髪を指差す。
にしてもドールか……。かなりの高位呪文だな。
あんなフワフワしてるような奴が使えるとはなぁ。でも教師だし、いやいやこの理屈はおかしいか?
いや、おかしくはない。
つーか、こんな一人問答なんてしてる場合じゃねぇ。
「太陽が完全に昇りきるまで大して時間なんてねぇだろ。あの教師わざわざこんな時間に連絡してきやがったな」
ギリッ!と音を鳴らし歯ぎしりをする。
準備も何も出来やしねぇだろ。
とりあえず、マントと杖、ガントレット、胸当てはすぐに出せるから心配ない。
ポーチもオッケー。戦闘陣は予備がある。アクセサリは確か三つ残ってる。
課題も終わらせた。後は誰を連れて行くか、だ。
ユナは日中はなるべく出したくない。ノイも同様。シエルは…………めんどいから却下。
セリアとミアで十分か。
「ユナ、ノイ、シエル。留守番頼んだ」
「急ね……ま、アンタの頼みを聞かないとどうなるか分かったもんじゃないからね」
「ぅ……りょーかい?」
「えー!?また留守番ー?」
三者三様の態度なのか?
まぁ、おおむね了解を取ったし。
「セリア、ミアと準備済ませろ。すぐ出るぞ」
「ミアの服は?」
「ちょっと前に買ったドレスとローブがあるからそれ着せろ」
「少々不服だが分かった。十分後玄関前集合でいいか?」
「問題ねぇ。頼んだぞ?」
言葉を返さずそのまま部屋へ向かうセリア。まるで母親、まぁ事実母親だが。
さて、一応何があるか分からないからな。どうせ余計なもんは持ってけないんだしポーチ五つ全部持ってくか。
------十三分後 玄関前
「遅いな。時間がかかってんのか?」
「すまない待たせたな。鎧に少々手間取ってな」
「待たせたー♪パン、ウマー♪」
軽くイライラしながら腕組をして待っているとそんな事を言いながら二人は来た。
俺に砕かれた部分を切り離してずいぶんと軽くなった鎧を身に付け髪をポニーテールにしたセリアと、抱えられたミア。ミアの服は以前買ったローブ。裾の方切ってよだれかけみたいにしたな、可愛いからなんでもいいが。
「行くぞ」
「急ぎすぎじゃないか?」
「ないかー?」
「そんなこたぁねーよ。ほれ、ただでさえ遅れ気味なんだ、ちっとばっかし飛ばすぞ」
自分に加速魔法を二重で掛け、さらに強化をする。
セリアに足払いを放ち、倒れそうになった所をキャッチする。
ミアをしっかりホールドしているのを確認して駆ける。
「お姫様だっこいいなぁ」
「ユナは普通に抱っこしてもらえたんだから良いじゃない。私は最近構って貰えない……」
「ぅう……私にも…かまってくれない」
「わたくしは会ってすらいませんし」
「「誰!?」」
「ぅ…?……どちらさま?」
「わたくしは…………」
------学校 教室
「そろそろ、チャイムが鳴る頃だねぇ、君達」
アクラが前に座る三人に話しかける。
一人は机に頬杖をつき眠り、
一人は操り人形で遊び、
一人はどこか遠くを見てブツブツと何かを呟いている。
統率感など微塵も無い。
「無視はひどいよぉ?先生傷ついちゃったな。それにしても後一人、レン君遅いね。一体どこで道草を食っているんだろうねぇ」
------通学路 から外れた裏路地
「ったく、俺の目の前で女に暴力振るってんじゃねぇよ。屑」
地面に横たわる小奇麗だが不良的なかっこをした素敵な『カモ』の肩を思い切り踏みつぶす。
ゴグッと大きくも小さくも無くだが耳につく嫌な音が響く。
イライラの解消はやっぱり八当たりに限るな。ぜってー学校には間にあわねぇからせめてもの人助けだな。
「それならまだしも止めに入ったらあろうことかセリアとミアにまで暴力振るったもんなぁ。まさかこの程度で許してもらえるとは思ってないよなぁ」
「あ゛あぁぁぁぁ゛あ!!!お、お前、僕を誰だと思ってっ!?う゛あ゛!?」
「差し詰め兄や両親からの威圧に耐えきれなくなった貴族の次男坊もしくは三男坊ってとこだろ。つーか今は俺が喋ってんの、分かる?理解出来てる?」
「お゛、おばえなんがぢぢうえのちがらがあれば」
「黙れってんだろ三流貴族。その襟についてる家紋、セルセシャリア家だろ?あいにく俺の家もそこそこの権力もちなんでね」
加速魔法が掛かっている状態での蹴りを三発溝に入れる。
目を見開いてヒューヒュー言ってる姿が痛々しいなぁ。ざまぁみやがれ、ウチのセリアにちょっかい出すからこうなんだよ。
「有名だって親父から聞いたぜ?セルセシャリア家、フィルンラート家、ヴェスナ家ここ最近で急に没落し始めた貴族だって。そろそろ危ないらしいじゃんか」
「……!!…!!!」
「聞こえねぇよ。ちゃんと喋れよ。ま、お前の話なんざ興味ねぇが……なっ!!」
かかと落としを右ひざに振り下ろしくるりと向きを変える。
もう用ねーし、興味ねーし、キモいし学校行くか。
「レン、やり過ぎじゃないか?」
「そうでもねーよ。馴れ馴れしくお前に触ったんだから当然だ」
「そ、そうか。しかしなにもあそこまで」
「あれでそんなんになってたら学校でも持たねーぞ?知っての通り俺はこんな性格だしたち振る舞いだからさ、まぁ、敵が多いわけよ。だから、さっきのよりひどいのが何回も待ってるぞ」
脚やらなんやらに付着した血を拭きとりながら、セリアに警告する。
まぁ、ちょっと話を盛ったが、酷いのは実際一回ぐらいだろう。
「んじゃ、急ぐぞ」
「こんな事をしていた時点で急ぐのも手遅れだろう。馬鹿か」
「うるせぇ」
------教室
「さて、じゃ、最後の子も着いた事だし自己紹介から始めようか」
おぉ、さすが意味不明な学科な事だけあるな。
ちょっと拭きとりきれなかった返り血とか見てもびくともしねェ。
「じゃ、君から」
アクラに指名されて一番右端に座ってた男が立ち上がる。
「あ~、はい。えっと?名前からでいいよな。俺の名前はクレイ・クリンアイム。ここの前の学科は学習科、なによりも睡眠を優先したいを信条としてる。あ~、よろしく」
クレイね。なによりも睡眠優先か。
何かしら優先するものがあるのはいいことなのか?
「どんどん右に行こうか。あ、私から見て右ね」
「すぅ~、はぁ~。ボ、ボクの名前は、グレーテル・ベルケです!あの、その、あ、えっと、ま、前の学科は、魔術科でした。あっと……あっ!この人形は気にしないでくださいっ!よろしくお願いしますっ!」
おぉ、グレーテル。一人称がボクの女か…………いいな!
たかだか五人に挨拶するだけでも顔真っ赤にするんだから恥ずかしがりやか。
うん。いい!
「…………」
「……………」
「………………次は君だよ?」
「……そう。シィナ・ルビィ。前学科は呪術科。なるべく話しかけないでくれると嬉しい。静かに、ゆっくりと生きて居たい。独り言は聞かないで。成績はきっとこの中でも一番悪いだろうけど馬鹿にしないで接してください。あと……」
まだ喋る気か。
なんだかんだ言って話好きなのか。ノイと同じ雰囲気かと思ったのに。
前髪で顔が全然見えないけど、なんとなく可愛いな。
……シィナ・ルビィ?
聞き覚えがあるような、無いような……。
「ほら、最後だよ」
「あ、あぁ。えっと、まず遅れてきてすまねぇ。で、俺の名前はレン・セルヴェント。前の学科は魔物科どっちかってーと実技寄りだ。で、もっと特定すると『魔物使い』だ。一応信用してくんないかもって事でこいつを連れてきた。あ、まぁ、よろしく」
「はい。じゃ、最後にこの学科の説明するよ?えっと、この学科はまぁ、君たちは何となくわかってるかもだけど魔王討伐のための学科です。この世に魔王が何人かいることは知ってるだろうけど、その中の『黒夜の魔王』がちょっと最近危険っぽいから周辺諸国から申請が来たんだよね。この国は勇者がいるんだから討伐に向かわせろって、でも、知っての通りウチの国って兵力ないから勇者いなくなると魔物が襲ってきたとき厳しいんだよねだから、君たち精鋭を集めてどうにかしようってわけ」
???
よくわかんねぇけど。なんとなーく把握した。
用は俺らで魔王を倒せという事だな。
あれ?もしかしてこれ俺がんばんなくてもどうにかなんじゃね?
「はい。じゃ、まずはレン君には課題をやってもらおうかな」
「へ?」
「遅れてきたんだもん。やっぱり罰は与えとかないとねー」
「ほら、他の皆は帰っていいよー」
アクラの言葉を聞くと即座に帰宅準備をする三人。
俺も帰りてーよー。
なんて言ったらどうなるか分かったもんじゃねぇな。
あ、
「セリア、ミア連れて先に帰っててくれ」
こくりと頷くと歩きだす。
誰も喋っちゃいけないなんて言ってないのに礼儀正しいなあいつ。
------三十分後
「運ぶの疲れたよー、まったく」
「で?その袋の中身はなんですかぁーせんせぇー」
「魔王の使者、だって」
「は?」
「どの魔王かは知らないけどねー」
「で?その魔王の使者とやらをどうするんですか?」
「何しても良いから、三日後までに魔王の居場所を吐かせること。魔王の居場所とまではいかなくても伝書を誰から受け取ったのか、どこで受け取ったのかを言わせるんだよ?」
「何しても良いって……」
「殺す以外なら何してもオッケイだよ?」
へぇ、そりゃいいや。
最近色々溜まってるからな。
ちょうどいい捌け口だろ。
「了解しました先生」
「じゃソレ家に持ち帰っていいから」
「了解」
アクラが床に放った人が入ってそうな黒い袋を担ぎあげる。
さて、久々にやろうかな。




