↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十三日、その場所で~かけがえのない存在だった人気高校生アイドルが死んだから~  作者: ライト86


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/1

彼女の死




『続いて、芸能のニュースです』


 テレビで流れていたことは、俺の見間違い、のはずはなかった。


『人気アイドルグループ【STELLA(ステラ)! 】の中心メンバーとして活動していた、楠木楓(くすのきかえで)(16)が今月十一月十日に亡くなったことが、本日、所属事務所から発表されました。楠木楓さんは幼少期から芸能活動を開始し、その後、数々の楽曲やテレビ番組への出演を通して人気を集め、現在では国内を代表するアイドル__』


 突然の彼女の訃報を見た時、俺は泣かなかった。いや、正確に言うと、どんな顔をすれば良いのかわからなかったのだ。


 もちろん彼女とは同い年というだけで、友達でもなければ、知り合いでもない。


 傍から見れば、ただのファンとアイドルという関係なのだろう。


 だけど、俺にとって楠木楓という少女は、俺が生きる意味そのものだった。



「ありがとう! また来てくださいね!」


 当時、まだ名前すら知られていなかった、小さなアイドル。

 

 そこは、小さな会場だった。

 観客も少ない。

 ステージに立っている彼女のことを知っている人間も、まだほとんどいなかった。


 そして当時まだ小学生だった俺も、何となく立ち寄っただけだった。


「また、来てね!」


 そんな彼女の一言が、妙に心に残った。


 早くに両親を亡くした俺にとって、彼女の存在そのものが、不可思議でならなかった。


 時には、観客が俺一人しかいないことさえあった。それでも彼女は、たった一人の観客を前にして、変わらぬ笑顔で舞台に立ち続けていた。


 何かを頑張ることすらできなかった当時の俺には、その姿がひどく眩しく見えた。

 

「月見さん、また来てくれたんですね!」


「月見さん、いつもありがとうございます!」


「月見さん、よかったら新曲の感想を聞かせてくれませんか?」


 次の日も、その次の日も、俺は彼女を応援するようになった。

 そして、それに応えるように、立った一人の観客である俺のために彼女は歌い続けた。

 陽だまりを溶かし込んだような綺麗な長髪を、絹糸のごとく揺らしながら。


「今日は、新曲を発表します!」


 日を重ねるごとに、観客は増えていった。

 以前なら、彼女の歌声だけが響いていた小さな会場に、今では歓声が上がるようになっていた。


「楠木ちゃん、頑張って!」


「応援してるよ!」


 彼女の名前を呼ぶ声が、あちらこちらから聞こえてくる。

 いつしか、観客が会場を埋め尽くすほどになっていった。


 あの日、誰にも知られていなかった少女は、確かに少しずつ、世界に光を放ち始めていたのだ。


 そして、彼女が前へ進み続ける姿は、いつしか俺にとっても、前を向くための光になっていた。



「……なのに、どうして」


 画面越しの彼女は、いつものように笑っていた。

 彼女は、この先日本武道館でのライブも控えていたはずだ。


 まだ、これからだった。

 

 先の見えない俺の未来と違って、彼女には、まだずっと先に明るい未来があったはずだった。


 そう思っていた。

 そう、願っていた。


 だからこそ、どうして彼女が死ななければならなかったのか、俺には理解できなかった。



♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢



「噂によると、楠木楓って相当ないじめにあってたらしいよ。しかも、ゴシップとかなんやらでさぁ、なんか大変だったらしいよ」


 翌日、ブラインドの隙間から差し込む光に目を細めながら【1112】と楠木楓の誕生日をスマホに打ち込むと開口一番、ご愁傷さまですと言わんばかりに恭しくお辞儀をする何ともゆるいタッチのクマのスタンプと共に友人からメッセージが届いていた。


 そうなんだ、と返事をし、習慣的にSNSを開いた。


 その世界はいつにもまして人の呼気で溢れ返っていた。


「楠木楓が死んだってま?」

「学校でいじめにあってたらしいよ」

「じゃあ、やっぱり精神的に追い詰められちゃったのか」


 あいかわらずのネットの異常なほどの情報通達の速さに感心すると共にいじめという言葉に目が留まった。


 楠木楓が学校でいじめ、どこか信じ難かった。

 

 そもそも、彼女はそんなことで死ぬような人間ではなかったはずだ。少なくとも、幼少期俺が見続けてきた彼女は、観客が俺一人だけという最悪な状況下でも、歌声を全く揺るがせずに歌い続ける、そんな人だった。

 そんな彼女が命を絶つくらいのいじめなんて、俺が推し量れるようなものではないのだろう。


「てか直哉(なおや)、学校は来いよな」


 ネットの書き込みを掻き消すように、友人から今度は、頬を赤く膨らませたクマスタンプが送られてきた。これが、現役バスケ部エースの愛用スタンプとは俄かに信じがたい。


「涼真(りょうま)、四葉が死んだらお前は耐えきれるか? それと同じで俺にとっての最愛の人は楠木楓なんだ。学校なんて行けたもんじゃない」


 四葉という人物は、友人の三人目の恋人である。学校内では学年一の美女とも言われている人だ。


「そういうもんか? まぁ、明日は金曜日だしちゃんと来いよ」


 友人からのメッセージはそれっきりで、ぷつりと途絶えた。


「明日か……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。