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サムライ異世界に往く ~死に場所を求める最強の剣神、うっかり規格外の無自覚無双をしてしまう~  作者: 戯言の遊び
②ファルサ辺境都市ギルド 編

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第16話 討伐の証は首じゃない?

 三十体以上のオーガと、ミスリルの皮膚を持つ巨大なオーガ・ロード。

 それらが文字通り、ただの『物言わぬ肉塊の山』へと変わった血の池のミスリル鉱山の中で、千代女(ちよめ)は一人満足げに息を吐き、チャキリと心地よい音を立てて刀を納めた。


「さて、戦も無事に終わったことだし、首級(しるし)の回収をしようかの! 手早く首を落として回るぞ」


 千代女が鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌な足取りで、再び『無銘』の柄に手をかけ、大惨事の肉山へ意気揚々と近づこうとした、その時。

 腰を抜かして気絶寸前だった案内役のハーフエルフ、ソフィアが、最後の力を振り絞って慌てて立ち上がり、千代女の細い腰に涙目でしがみついた。


「違います!! 違います!! オーガの討伐の証は、首じゃなくてこの『角』なんです!」


 ソフィアは首がちぎれんばかりに横に振りながら、オーガの頭から生えている鋭い角を指差した。

 ギルドの受付に、血の滴るオーガの生首を三十個以上もゴロゴロと並べられたら、ファルサの街が阿鼻叫喚のパニックになってしまう。三十個の生首を蔓草(つるくさ)か何かで数珠(じゅず)繋ぎにして平然と歩く女剣士など、もはや怪談の類である。


「む? 討ち取った証というに、首を丸ごと持ち帰らんでよいのか? 作法に反せぬか?」

「はい! 角だけでいいんです! 作法とかじゃなくて、生首なんて持ち歩いたら衛兵に捕まって牢屋行きですよ!」

「ほう……それは随分と身軽で楽で良いの~。日ノ本も見習うべきじゃな」


 文化の違いに一人で感心してウンウンと頷く千代女をよそに、ソフィアは心底疲れたような深いため息をつきながら、荷物から持参していた解体用のナイフを取り出した。

 そして、手慣れた様子でオーガたちの角を切り落とし、さらに胸のあたりを裂いて、泥血の中から淡く光る拳大の石を抉り出していく。


「それはなんじゃ? ただの石ころに見えるが」

「魔石です。魔物の体内で作られる魔力の結晶で、街の魔導具を動かす燃料になるんです。これだけの数、しかもオーガの魔石となれば、これだけでも結構な金額になりますよ」


 そう言いながら、ソフィアは次に、千代女の『鉄斬り』によって真っ二つになったオーガ・ロードの巨大な死体へと近づいた。

 その金属のような鈍い光沢を放つ分厚い皮膚と、粉砕された棍棒の破片を拾い上げ、ソフィアは興奮気味に声を上ずらせる。


「それに、これ! ただのミスリルじゃない、オーガの魔力を吸い込んだ純度の高いミスリル鉱石です! これだけの量があれば、王都に小さなお屋敷が建つくらいの大金になります……!」

「ふむ? 屋敷が建つとな。だが、(それがし)の刀を打つにはひどく軽すぎるし、鉄としての粘りも足りん。実戦で二、三度打ち合えばすぐに刃こぼれするであろうな。やはり、ただの金ピカの石ころではないか」

「い、石ころって……伝説の魔法金属ですよ!?」


 一生遊んで暮らせるほどの一財産を前にしても、「己の刀の素材になるかどうか」でしか物の価値を判断しない千代女の徹底したズレっぷり。

 ソフィアは(この人、強さも金銭感覚も、何から何まで本当におかしい……)と、ついに呆れを通り越してツッコミを放棄し、黙々と解体作業を続けるしかなかった。


     ◆


 その日の、夕刻。


 辺境都市ファルサの冒険者ギルド、二階のギルド長室。

 山積みの書類仕事に追われ、目をショボつかせていたギルド長のグレンは、一息つこうと、淹れたての苦いコーヒーをマグカップでたっぷりと口に含んだ。

 その瞬間。バンッ! と遠慮の欠片もないけたたましい音を立てて、執務室の扉が蹴り開けられた。


「ギルド長よ、戻ったぞ!」


 ブフォォォォォッ!!

 豪快に入ってきた千代女の姿を見たグレンは、口に含んだコーヒーを、決裁手前の重要書類の上に盛大に噴き出した。


「ゲホッ、ゴホッ……! あ、あぁ!? う、嘘だろ!? もう帰って来たのか!?」


 グレンは慌てて袖で口元を拭い、壁に掛かった振り子時計と、まだ夕日が沈みきっていない窓の外の景色を二度見、三度見した。


「おいおいおい、お前ら、昼間に出たばかりだろ!? 東の鉱山までは片道で数時間はかかるんだぞ。オーガの群れを相手にして、その日のうちに帰ってこれるわけが……お前、さては敵の数にビビって逃げてきたな!?」


 常識的に考えれば、それしかあり得ない。いくら腕が立とうと、あの距離を往復し、さらにCランクパーティーを全滅させる群れを相手にして、数時間で無傷で帰還するなど物理的に不可能だ。

 だが、千代女の背後から、ズタボロに疲れ果て、魂が半分抜けかけたような顔をしたソフィアが、フラフラと幽霊のように歩いて入ってきた。


 そして、ドサァッ! ドゴァッ!

 血まみれの分厚い麻袋を二つ、グレンの机の前に重々しい音を立てて投げ出したのだ。

 袋の口が開き、そこから、おびただしい数の血塗れのオーガの角と、淡く光る魔石、そして――明らかに規格外のサイズをした、鈍く光るミスリルの巨大な角の欠片が、ゴロゴロとこぼれ落ちる。


「……そ、ソフィア? おい、まさか……嘘だろ……?」


 ワナワナと震えるグレンの問いかけに、ソフィアは虚ろな瞳のまま、ゆっくりと、しかし力強く首を縦に振った。


「本当です……。全部、終わりました。しかも、千代女さんがたった一人で……」


 ソフィアは、鉱山での光景を思い出すようにブルッと身震いをした。


「……剣の舞でした。怒り狂った群れが三十匹以上束になって襲い掛かっても、千代女さんにはカスりもしないんです。ボスのオーガ・ロードのミスリル化した皮膚も、まるで普通の木の枝みたいに、一刀両断に……」


 ソフィアの口から淡々と語られる、ミスリル鉱山での『理不尽極まりない一方的な蹂躙劇』。

 それを聞いたグレンは、床にこぼれ落ちたオーガ・ロードの巨大な角と、誇らしげにふんすっと胸を張る千代女の顔を交互に見つめ。


「…………」


 ぽっかりと口を開けたまま、理解の限界を超えた脳が活動を停止し、完全に石化してしまうのだった。

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