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日が暮れて一日の終わり。
俺はランプの灯りが揺れる薄闇の中、ベッドに寝転んで、ネズミを手にじゃれつかせていた。
「暗殺かー、ファー姉は見る目があるなあ」
部屋に時計は無い。
2階のダイニングに掛けられた柱時計が、ボワワン、ボワワンと鳴った。
俺には聞こえないけれど、じゃれつかせていたネズミが、耳をぴくぴくさせ後ろ足で立ち上がる。
「そろそろいいかな?」
真夜中、皆が寝静まった頃に、俺は動き出す。
窓を開き、外壁のくぼみに指を引っ掛けて張りつく。
「それじゃ、窓のカギ閉めといてね」
「チュウ」
俺はネズミに手を振り、外壁をするすると登っていく。
屋根伝いに歩き、屋敷の東端までやってくる。
その先には高い城壁があり、その向こうには畑が広がっていて、さらにもっともっと向こう。
大きな河が行く手を遮るように流れていて、その向こう岸。
そこはもう魔物が住む、闇の森だった。
俺はネズミと協力して、コードウェル家の宝物庫からくすねてきた、黒曜石のナイフを腰のベルトから引き抜く。
それは空間を切り裂き、ある場所へと転移するためのマジックアイテムだった。
起動させるには、魔力が必要だけれど大丈夫。
俺には魔力はなくても、ガルド13の能力があった。
右手と黒曜石ナイフを「融合」させ、ナイフに籠っている魔力でナイフを起動させる。
この7年間、ただ朝稽古で指を飛ばされてただけじゃない。
俺はじっくり年月をかけて、ガルド13の能力を自在に発動させるコツを掴んでいた。
なぜゲームキャラの能力が使えるのか?
その理屈は未だに良く分からん。
ただ分からなくても、実際に使う、使わないって言うのは別の話だった。
能力が使える。
今の俺にはそれで充分。
黒曜石のナイフが、グラスハープのような音色を響かせた。
すると一瞬で、屋敷から川沿いに廃棄された砦へと転移する。
朽ちた城壁から見る、黒々とした森。
そこはもう、魔物の生息する闇の森だった。
*
「さあ、どんな感じになっているか。楽しみでしょうがない」
数日前のこと。
俺はいつものように屋敷を夜抜け出し、国境の街「バベル」でフラフラしてたら、ちょっとした話を小耳に挟んだ。
それは冒険者組合が、闇の森に新しく出来た「陸棲型のイカ」の巣を討伐すると言う話。
この巣のせいで、デス・テンタクルに追い立てられたゴブリンが、町近くに出没してトラブル続きらしい。
だから元凶の巣を叩く。
どうやら大掛かりらしくて、50人以上の部隊を編成して討伐なんだってさ。
それを聞いて、俺はわくわくが止まらなかった。
だってそれ、完璧にレイドボス狩りじゃないかっ。
と言うことで、俺はその狩りを見物したいのだった。
本当は参加したいけれど、7歳じゃお話にならない。
「このクソガキがっ、生意気言ってんじゃねえ」とか言われて、蹴飛ばされるだけだ。
だから今回は、見物でガマンしといてやる。
「広大でシームレスな森林フィールドに、新しく実装されたレイドボスを、皆で狩りに行く。
みたいな感じ? あーくっそ、いいなーっ」
この世界に生まれて、俺はもう7年経った。
随分とこっちの水に慣れたもんだ。
けれど俺の心は未だに、「VRMMO・ディガウーサ・ビートゥルス」を求めていた。
もうプレイできないと諦めて忘れたつもりでも、こういうイベントがあると、熱い思いが沸々と湧き上がる。ああ、たまらねえ。
「くっそー」
狩りの場所はよく分かんないけど、まあ、何とかなるでしょ。
俺は森の奥深くに分け入る。
GARARARARARARA!
「うひゃあっ」
あんまり、何とかなってなかった。
森に住む魔物「俊足の擬態者」が、俺をエサと勘違いして追いかけてくる。
いや、食おうとしてんだから、俺はしっかりエサなんだろうな。
アクセル・カメオは簡単に説明すると、めっちゃ足の速いカメレオンみたいな魔物。
体長は3メイル。
見た目が気色悪いのもあるけれど、なんだか足の速いゾンビに通じる、ゾッとしたものを感じる。
お前が速く走るの、ズルいって突っ込みたくなる。
こいつは俊足で、さらに射程の長い、伸び縮みする舌が厄介だった。
狙いが定まらないように、森をジグザグに走って逃げた。
俺はそんな状況が、楽しくてたまらない。
「はっはー! この俺の動きに付いて来れるか、カメ野郎!
俺がギャラクティック・リーパーのMVPを、何回とってると思っ――」
ぺちょ。
背中に何か、温かいモノが張りついた。
見なくても俺なら分かるね。
それは、カメ野郎の舌だった。
「あ」
しまったー! 気持ちは現役でも、体は7歳児だった。
こういう縛りプレイは嫌いじゃないが、残機1しかないのが洒落にならない。
俺は、舌の引き戻しの早さに圧倒される。
柔らかいくせに身が引き締まって、イカの足みてーな舌だ。




