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52.最終話

 王都で秋が深まる時期に、私は再びロンベルクに向かった。


 ロンベルクにはもう雪が積もり始めていて、教会のステンドグラスにはひらひらと雪の影が透けて見えた。


 一度目の結婚式は、リカルド・シャゼル様と。

 招待客も少なく、新郎は失踪し、神父様は倒れ、そんなバタバタの中で慌ただしく終わった。


 二度目の結婚式は、教会の中に入り切らないほどの多くの人がお祝いに駆けつけてくれた。

 ロンベルク騎士団のみんな、シャゼル家の使用人たち、執事のウォルター。そして私の大切な家族、お父様とお母様も参列してくれている。ユーリ様のご家族の後ろには、リカルド・シャゼル様のお姿も。


 ウェディングドレスを身に纏い、ドルンで染めた繊細な銀色のロングヴェールをふんわりとかぶった。


「リゼット」


 私の名前を呼んだユーリ様が差し出す手に、私の手を添える。

 見覚えのある神父様の前で、私たちは永遠の愛を誓う。


 結婚証明書が正しく書かれているか、念入りに確認する私とユーリ様の姿を見て、リカルド様はうしろで大笑いしていた。


 そして初夜――二人で満月の見える窓辺に立ち、お互いの顔をしっかりと確認する。


「……ユーリ様の()()()()の方じゃないですよね?」

「リゼット、ちゃんと俺の顔を見て確認して」


 リカルド様のせいで、私たちは色々と大変な新婚生活を送っている。

 アルヴィラにドルンスミレの毒を浄化する働きがあるのではないかというユーリ様の推測もあり、お母様は私と共に王都からロンベルクに移ってきた。最近では自分の足で歩く練習も始めているし、以前のように元気に過ごせるようになる未来も近い。


 お母様とお父様は、離婚はしていない。


 お母様は王都に住むお父様に、『季節ごとに一回のお見舞い権利』をあげたのだそうだ。お父様はお母様に会うために季節が変わるとロンベルクを訪れ、そのたびに星型で複雑なシャゼル屋敷の中で、お母様の部屋を探してウロウロするお父様の姿が見られるようになった。


 お父様を丁寧にご案内してくれる使用人なんて一人もいないから、自力でお母様の部屋にたどり着くしかないらしい。


 そうそう。結婚式を挙げてから一年ほど経って、屋敷に突然見知らぬ女性が訪ねてきた。


 ボサボサになった赤茶色の髪の毛、目が豆粒のようにしか見えないほどのビン底眼鏡のその女性は、応対した私の大きなお腹を見て、悲鳴を上げて去っていった。

 後から聞いた話によると、その女性は、ドルン医薬研究所でリカルド様に昼夜問わず馬車馬のように働かされているカレン・ゲイラー様だったらしい。


 それ以降、彼女は二度とロンベルクに現れなかったけれど。


「リゼット、今日もスミレを摘んできたよ」


 雪の下から少しずつ顔を出した春の花を、今年もユーリ様が毎朝プレゼントしてくれる。以前よりも花の数が多いのは、おそらく二人分のプレゼントだからだ。


「ありがとうございます。今日も頑張ってきてくださいね」


 ユーリ様は私の額にキスをして、ロンベルクの森の巡回へ向かった。さあ、ここからは私の自由時間だ。


「さあ、ネリー! 今日もお掃除を始めるわよ!」

「奥様! 無理をなさると、旦那様のお留守の間に生まれてしまいます!」

「あら、少しは運動した方がいいのよ」


 私は雑巾で屋敷の窓を拭きながら、ロンベルクの森へ向かう旦那様に手を振った。



(おわり)

こちらで完結となります。最後までお読みいただきありがとうございました。


最後に★の評価を入れていただけると嬉しいです!

コミカライズも連載中です。各電子書店様のほうで探してみてくださいませ。

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― 新着の感想 ―
完結お疲れ様でした!楽しく読ませて頂きました!完結まで読めて幸せなのとずっと更新を楽しみ追いかけてた作品が終わる切なさ。何回でも慣れません! パパ、館で迷子が面白かったです! カレン様・・・あっち…
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