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44.国王陛下への説明

 国王陛下への謁見の間に入ると、しばらくしてその場にお父様が連れてこられた。

 やつれた様子のお父様は、王都にいるはずのない私の姿を見て青ざめた。


「リゼット、お前なぜここに!? ロンベルクへ嫁いだはずでは……もっ、もしやお前がソフィをどこかに連れ去ったのか!!」


 今にも飛び掛からんとばかりに私に向かってきたお父様を、周りにいた騎士たちが制止する。しばらく抵抗していたお父様も、国王陛下が謁見の間に現れたことで大人しく引き下がった。


 陛下が椅子に腰かけると、全員がその場で礼をする。


「リカルド。今回の一件、報告書に目を通した。ご苦労だったな」


 厳かな雰囲気の中、国王陛下がゆっくりとした口調でリカルド様に話しかけた。


「国王陛下、ありがとうございます。この件を明らかにすることが、私を辺境伯から外してドルン医薬研究所の所長に任命して頂くための交換条件だということを、お忘れではないですね?」


(……ドルン医薬研究所の所長?)


 初めて聞く話だ。

 私はリカルド様の袖をちょんちょんと引っ張って小声で尋ねた。


「ドルンの研究所の所長になるために、母の毒の件を調べていたんですか?」

「そうだよ。辺境伯をやめて研究所所長に据えてもらうために、僕は僕で()()を作らないとね」


 私に向かってウィンクし、リカルド様は国王陛下の前に出た。


 なるほど、リカルド様と国王陛下はそういう約束をしていたのだ。

 身内であるリカルド様に名誉ある地位を与えたい国王陛下と、ご自分の好きな道に進みたいリカルド様。

 一度任命してしまった辺境伯を早々にやめさせれば、国王陛下の任命責任が問われかねない。だからリカルド様はユーリ様が辺境伯にふさわしいという実績を作り、並行して自分がドルンの研究所所長にふさわしいという実績を作った。国内で発生した原因不明の毒殺未遂事件を解明したとあっては、誰もリカルド様の手腕を否定することはできない。


 ユーリ様がロンベルク辺境伯に、リカルド様が研究所所長になっても、誰も異論を唱えさえないための計画的な失踪だったのだ。


 国王陛下も、辺境伯に任命した自分の縁戚のリカルド様の悪評は避けたい。それで交換条件を飲んだのだろう。彼の実績作りのために、お母様に盛られたスミレの毒の事件が利用されたのだ。


 私はユーリ様に騙されたと思っていたけれど、全ての元凶はリカルド様(この人)だったのかもしれない。一体どれだけの人を巻き込んで振り回せば満足するのだろう。


 どちらにしても、リカルド様がお母様に毒が盛られた理由を明らかにしてくれたことには感謝したい。リカルド様のおかげで偽主治医とシビルは捕えられて罪が暴かれ、お母様も回復したのだから。

 私は気持ちを切り替えて、国王陛下の近くに進んだリカルド様の背中を見つめた。


「どうでしょうか、陛下」

「うむ、その約束を忘れてはおらんが……」

「良かった! それでは、詳細をご報告いたします。まずは逃走したソフィ・ヴァレリーをお連れしましたので、この場に連れて来てもよろしいでしょうか」

「許可する」


 リカルド様は謁見の間の入口扉の方に目をやった。近くにいた騎士と目配せをして、その騎士が扉から外に出て行く。きっとロンベルクからウォルターが連れてきたソフィを、謁見の場に通すのだろう。

 同じように罪を犯したとはいえ、ソフィは貴族。シビルは平民だ。平民である上に犯罪者であるシビルが国王陛下に直接謁見することなどできるはずがない。申し開きのチャンスを与えられるのは、ソフィだけだ。


 何が何だか分からないと言った様子で狼狽するお父様は、陛下の顔と入口扉の方向をキョロキョロと見回していた。そんなお父様に、リカルド様が書類を手渡す。


「こっ、これは……!?」

「ヴァレリー伯爵。真相をお分かりいただけましたか?」


 リカルド様はお父様に、ソフィの罪状を手渡したようだ。お父様はワナワナと震える手でそれをつかみ、必死で読み進めている。


「……こんなの嘘だ……! 国王陛下、何かの誤解です!」

「ヴァレリー伯爵、どうされましたか?」


 お父様が国王陛下に直接訴えようとした言葉を、リカルド様の冷たい声が遮った。

 お父様はリカルド様の体を突き飛ばし、国王陛下の前に出て跪く。


「陛下、ソフィは私の娘です! お恥ずかしながら、確かに私はシビルを愛妾としておりました。そのシビルが生んだ子がソフィです。ソフィは私と同じ銀髪ですし、年齢的にも私の子に間違いありません。ここに書かれている染物屋の男は無関係です!」


 国王陛下はひじ掛けにもたれ掛かり、リカルド様に目配せをした。リカルド様はもう一度、お父様の前に立った。


「ヴァレリー伯爵。どうやら私の調査結果を信じて頂けないようですね。大丈夫ですよ、証拠をお見せしましょう」


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