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42.暴れるソフィ ※ユーリside

 王都へ向かう馬車には、俺を含めて四人が乗り込んだ。

 本心を言うと、すぐにでも一人で出発したかったのだが、俺の背中のケガを心配したウォルターにしつこく止められた。結局俺は、ウォルターと侍女のネリー、そしてあの悪女ソフィ・ヴァレリーと馬車に同乗することになった。


 しかし俺は今、背中のケガを押してでも、一人で王都に向かえば良かったと激しく後悔している。


「なんで私を王都へ連れ戻すのよ! わざわざこんな辺鄙なところまで一人で来たんだから、絶対に戻りたくないわよぉぉっ!!」

「ソフィ嬢。そろそろいい加減に静かになさいませ。騒音で馬車が壊れてしまいます」

「私の声が騒音ですって!? なんて失礼な執事!!」

「失礼で結構」


 いつも冷静で落ち着いているウォルターですら、既にソフィ・ヴァレリーへの対応に嫌気が差している。ソフィがロンベルクに到着した直後は、リゼットが親切に身なりを整えてやり、丁重に扱っていたらしい。だが、リゼットが王都へ出発した途端、ソフィは地下シェルターに移された。


 ずっと閉じ込められていたから、体力が有り余っているのだろうか。こんな狭い馬車の中で、騒ぎすぎだ。


(自分の置かれた状況を分かっているくせに、呑気なものだ……)


 ソフィにはヴァレリー伯爵夫人へ毒を盛った疑いがかけられている。ウォルターからソフィに対し、それもすべて説明済みだ。自分がこれから罪を裁かれるのだと知れば、普通は少し大人しくなりそうなものだが……彼女は金切り声を上げながら延々と暴れている。


 王都までたった数日間の旅なのに、これではノイローゼになりそうだ。


「……ソフィ嬢。ハッキリ言おう。少し静かにしてくれ、うるさいんだ!!」

「ちょっとアンタ! レディに向かって()()()()とは何事!? 私はリカルド・シャゼル様の妻になるためにロンベルクに来たの。アンタみたいな貧乏くさい男、大っ嫌い! 私に話しかけないでちょうだい!」

「びっ……貧乏くさ……い!?」

「ユーリぼっちゃま、落ち着いてください。大丈夫です、決して貧乏くさくはございませんよ」


 狭い馬車の中で、ソフィが髪を振り乱して俺に飛び掛かってくる。背中のケガのせいで多少動きづらいが、それでも貴族のご令嬢が騎士に勝てるわけがない。俺はソフィをロープで縛って動けないようにして座らせた。決して「貧乏くさい」と言われたことを怒っているわけじゃない。馬車の安全のためだ。


 ソフィは頭をブンブンと大きく振って、黒髪で俺を攻撃してくる。こんな攻撃、痛くもかゆくもないが、子供じみた抵抗にあきれて精神的な疲れが押し寄せた。


「ソフィ嬢、君たちがヴァレリー伯爵夫人に毒を盛ったことは調べがついている。大人しく黙って反省したらどうなんだ?」

「私は毒なんて知らない! 私が犯した罪といえば、お父様に黒髪であることを黙っていたことだけよ。それ以外には悪いことしてない!」

「君は、髪を銀髪に染めていたのか?」

「そうよ、ドルンからアルヴィラという花を粉末に加工したお茶が毎週送られてくるの。私はお母様に言われた通りにそれを飲んで、髪色を変えていただけ!」

「お茶で髪色を変える?」

「そうよ、私がやったのはそれだけ! しかもそのアルヴィラのお茶も、魔獣が現れて森に入れなくなったからもう作れないわ。今の時点で私の罪はゼロ。毒なんて知らない。黒髪のままではお父様に会えないから、王都へは連れて行かないで!」


 俺の髪を銀髪に変えた、あのアルヴィラをお茶にしたということか。ソフィはアルヴィラを使って、わざわざ自分の髪を銀髪に染めていたということになる。


 ヴァレリー伯爵家の主治医を名乗っていたドルンの染物屋の男が怪しい。ドルンの染物屋なら、染物の原料としてアルヴィラを取り扱っているはずだ。その男の家から、アルヴィラとドルンスミレを取り寄せていたのだろう。

 ドルンでは魔獣の影響で森に入ることが禁止された。それでアルヴィラが手に入らなくなり、ソフィは髪を染めることができなくなったのだ。


「私は悪くない! リカルド・シャゼル様の正式な妻なんだから、ロンベルクに戻してよ! リカルド様を出しなさいよ、この貧乏男!!」


 リゼットが王都にいる頃は、毎日この騒々しい妹の相手をしていたのかと思うとゾッとする。この汚い口で、どれだけリゼットに罵声を浴びせたんだろう。その辺に落ちている石を拾って、ソフィの口に突っ込んでおきたい気分だ。


 数日後、王都についた頃には、俺の両耳は限界を迎えていた。


 国王陛下からソフィ・ヴァレリーを連れてくるようにと指示を受けている。ウォルターを通じてリカルドと連絡を取り、陛下との謁見の場にリカルドも出席する手筈になっている。


 王城内に入って急に静かになったソフィを連れ、俺たちは国王陛下への謁見の間に向かって長い廊下を進んだ。


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