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40.失踪の理由

「とにかく、これまでのことを洗いざらい教えていただけますか?]

「いいよ、何でも答える。どこから聞きたい?」

「どこからって……全部です! リカルド様はなぜロンベルクから失踪なさったんですか? お仕事が嫌だったんですか? それとも、結婚するのが嫌だったんですか?」


 リカルド様は私の質問を聞いてお腹を抱えて笑っている。


「……いやいや、僕が逃げる理由なんていくらでもあるでしょ! そもそも僕は、第二王子を守ったわけじゃない。たまたまその場にいて盾になっちゃっただけ。それなのに、勝手に辺境伯に任命するとか、ひどいよ陛下。あの戦いをまとめたのは、全部ユーリだから」


 リカルド様が言うには、当時魔獣征伐を命じられたロンベルク騎士団は、第二王子を司令塔として森に入ったそうだ。騎士学校の同期だったリカルド様、カレン様、そしてユーリ様も共に。

 魔獣との戦いは一進一退を繰り返し、最後に数匹残った魔獣との戦いは熾烈を極め、ユーリ様の隊が最も前線で戦っていた。

 

 第二王子の隊は前線から離れていたが、前線から逃れた魔獣が一匹追われてやって来た。すっかり油断していた隊は応戦準備をする間もなく攻撃を受けてしまい、たまたま第二王子の近くにいたリカルド様がケガをした。


 リカルド様が魔獣に襲われて傷を負った直後、仲間が背後から魔獣を斬って倒したらしい。


 ユーリ様やカレン様が所属する前線の隊は、最後に残った魔獣を湖の水で浄化して封印した。戦いは無事に終結したが、魔獣を一匹取り逃がしたことで第二王子に危険が及んだことは重く受け止められた。命を張って戦った前線のユーリ様たちの評価は変わらないのに、たまたま第二王子の隣にいただけの自分の評価だけが高まった。リカルド様は、辺境伯を任されることになってしまったのだ。


「いやあ、どう考えても無理でしょ。ケガして怖くなっちゃったから、もう魔獣なんかと戦いたくないし。せっかく命をかけて頑張ったユーリが何も評価されないのも、おかしいと思わない?」

「え……ええ、それは確かに……。でも、話をそらさないでください! だからと言って、任務を投げ出して失踪していい理由にはなりません。ユーリ様だって、リカルド様の身代わりなんて引き受けたくなかったはずです!」


 ひょうひょうとしたリカルド様と話していると、いつの間にか煙に巻かれそうになる。

 この人のせいで、ユーリ様も私も随分振り回された。もう騙されない!


 目いっぱいリカルド様を睨みつけるが、彼は相変わらずニヤニヤと笑うだけだ。


「君、分かってないなあ。辺境伯にふさわしいのは、僕じゃなくてユーリ。仕事だって完璧だし、魔獣が出れば躊躇なく勇敢に挑みに行くでしょ? ユーリって最高だと思わない?」

「…………その部分だけは意見が合いますね」

「僕が国王陛下に泣きついたところで、ユーリの評価は簡単には変わらなかった。彼の身分のこともあるしね。でもさ、僕がロンベルクを不在にしている間に、ユーリが身代わりとしてすべて上手く取り仕切っていたと知ったら、どう思う? やっぱり重要なのは()()だよねえ!」


 彼の失踪の目的が、少しずつ見えてきた気がする。

 ユーリ様に、ご自分の身代わりを任せた理由も。


「怖い顔しないでよ、大丈夫だから! ユーリが僕の身代わりをやり遂げたら、正式にロンベルク辺境伯に任命してもらえるよう、国王陛下と約束してるんだ!」

「こ、国王陛下とお約束を!?」

「そう! 実は国王陛下って僕の伯父なんだよ。僕の母が現王妃様の妹でね。本当はユーリ自身から『辺境伯は俺がやる!』って言ってほしかったけど」

「私が聞いていた話と違います。国王陛下は、リカルド様自身が辺境伯を務めることを望まれていたのでは? そうでなければ、シャゼル家はお取り潰しになるのだと聞きました」

「だからこうして王都まで直談判に来たんじゃないか! シャゼル家がなくなったところで僕は痛くもかゆくもないけど、ユーリにとってはそうじゃない。国王陛下だって、ロンベルクがちゃんと統治されて、縁戚である僕が真っ当に生きてれば、それでいいんだよ。僕が辺境伯である必要はない」

「そんな……でも、辺境伯がコロコロと変わっては、皆も不安になります」

「その通り。だから、ユーリが僕と交代するには、対外的な()()が必要だ」


(つまり、その口実づくりのためにリカルド様は失踪し、ユーリ様に身代わりを任せて実績を作らせた……)


 酷い、酷すぎる。

 ユーリ様も私も、ウォルターもシャゼル家の使用人も、みんなリカルド様の失踪に振り回された。それなのに、皆の知らないところで勝手に国王陛下と取り引きし、悪びれもせずに王都にいるなんて。

 ユーリ様とカレン様が、騎士学校時代からずっと彼の尻拭いをしてきたのだと想像するとゾッとした。


 さすがの私も、腹の底から込み上げる怒りを抑えきれない。


「リカルド様! ユーリ様はシャゼル家の取り潰しを避けるために身代わりを買って出ました。リカルド様が裏で国王陛下と交渉し、ユーリ様を辺境伯につけようと画策なさっていると知ったら……ユーリ様のお気持ちは一体どうなるのですか!?」


 感情に任せてまくしたてる私に、リカルド様は口を尖らせてボソッと呟く。


「……ユーリの気持ちだって?」

「そうです!」

「ユーリの気持ちを考えてないと言うなら、その言葉はそっくりそのまま君にお返しするけど?」

「どういうことですか……? 私が、ユーリ様の気持ちを分かっていないと?」

「うん。だから君はここにいるんでしょ? まさか僕と離婚して、一人で王都に戻ろうって魂胆?」

「……うっ」


 私が自分の夫だと思っていた人は、リカルド様ではなく身代わりのユーリ様だった。魔獣出没のゴタゴタで最後に直接離婚のお話はできなかったけど、私はちゃんとユーリ様の気持ちは確認した。

 ユーリ様は私に、「リカルド様の妻になってほしい」と仰ったのだ。


 それに、私はあの日、ユーリ様とカレン様の話を立ち聞きしてしまった。ユーリ様はカレン様のことがお好きだったのだということを。

 私はユーリ様への気持ちを伝えたつもりだ。ユーリ様のことが好きだと、ロンベルクの街でご本人に伝えた。でも、彼は私を拒んだ。これ以上、私に何ができたというのだろう?


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