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35.王都へ

 私がロンベルクを出発してから数日が経った。


 お母様が目を覚ましたという話をソフィから聞き、急いで王都へ戻る準備をした。屋敷を出る前に救護所を覗いたが、ユーリ様もカレン様もまだ戻っていない。私が王都へ戻ることを、ウォルターに伝言することにした。


 王都で少し落ち着いたら、リカルド・シャゼル様との離婚を申し出よう。ウォルターにはもう、その意向も伝えている。最後にユーリ様にご挨拶できなかったことを詫びると、ウォルターはとても残念そうな顔をした。


(さすがにもう、ユーリ様はシャゼルの屋敷に戻ってきたかしら)


 本当はユーリ様がロンベルクの森から戻るのを待ちたかった。

 私は辺境伯夫人としては力不足だったかもしれない。でも、使用人たちが全員で協力してくれたことで、魔獣の襲来を乗り切った。ロンベルクの街も守ることができた。それを直接報告したかったし、何よりユーリ様の無事をこの目で確認したかった。


 ソフィの訪問やお母様の容態の変化がなければ、もう少し屋敷で待っていられたのに。ユーリ様にこれまでの御礼とお別れをお伝えできなかったことが悔やまれる。

 何年も眠ったままだったお母様が目を覚ましたと聞いて、一刻も早く王都のヴァレリー家に駆けつけなければならなかったのだ。


 馬車に揺られながら、私は何度も読み返したグレースからの手紙を再び開く。


  ◇


リゼットお嬢様


奥様が目を覚ましました。意識が朦朧としていてお話はできませんが、私の声に反応して目を動かしたり、指先を動かしたりしています。


しかし、長年ヴァレリー家に往診に通っていた主治医が、急に姿を消しました。

今は王家の侍医の先生を臨時で派遣して頂いており、奥様を診てもらっていますが不安です。


それに、ソフィお嬢様もシビルも行方が分かりません。ご主人様はかなり憔悴されており、必死でお二人を探しています。


  ◇


 ヴァレリー家で、何かが起こっている。

 お父様が必死で探しているというソフィは今、黒髪になってロンベルクにいる。


 お母様は無事なの?

 ソフィがロンベルクにいることを、お父様には隠し続ける?

 主治医が消えたのはなぜ?

 なぜシビルも一緒に消えたの?


 考えれば考えるほど、疑問ばかりが浮かんでくる。

 ロンベルクから王都への数日間の馬車の旅では、ほとんど眠ることができなかった。


 ウォルターにも協力してもらい、私はソフィを一度王都に連れ戻そうとした。しかし、「絶対に王都には戻らない!」と言って暴れるソフィは手が付けられず、結局こうして私一人だけで王都に向かうことになったのだ。ユーリ様が森から戻るのを待つこともできなかった。


 カレン様が言った通り、私はこのままロンベルクへ戻らないほうがいいのだろう。

 本当の夫であるリカルド様には、一度お会いしたことがない。今のこんな気持ちのままリカルド様の妻として何事もなかったかのように暮らすなんて、私にはできない。


 でも、ユーリ様とカレン様の邪魔もしたくない。

 私の存在がユーリ様の苦しみにつながるのなら尚更だ。


 これまでだって、一人で生きてきた。

 お母様が倒れ、お父様やソフィに嫌がらせをされても、苦しい時こそ前向きに頑張ってきた。だから、これからも絶対に大丈夫。

 自分にそう言い聞かせながら、私は馬車の窓から外の景色に目を向けた。

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