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19.旦那様の銀髪

「旦那様、その髪の毛は一体……!?」

「ん? 何かおかしいか?」


 翌朝のこと。

 ウォルターのはからいで、夕食だけでなく朝食まで夫婦二人で一緒にいただくことになった。テーブルに付いた私は、旦那様の髪の色が目に入って驚いた。


 美しい亜麻色だったはずの旦那様の髪に、大量の()()ができていたからだ。


 髪の三分の一くらいが、まばらに白く変わっている。極度のストレスが原因で一晩で白髪になってしまう人がいると聞いたことがあるけれど、もしかして旦那様も何か多大なストレスを感じているのだろうかと心配になった。


「大変です、旦那様! 見せてください!」


 席を立って旦那様の方に駆け寄る。

 旦那様の後頭部の髪の毛を少し持ち上げて、中のほうも見てみるが、やっぱりどこも白髪だらけだ。いや、白髪というよりも……


「……銀色? 銀色の髪だわ!」

「リゼット……ちょっと近い……」

「はっ! も、申し訳ありません!」


 旦那様の髪の毛から、慌てて手を放す。あまりの驚きに、つい旦那様に近付き過ぎてしまった。私は自分の椅子にすごすごと戻った。


「白髪ではなく、銀髪ですね。旦那様の髪は元々亜麻色でしたが、ご家族が銀髪でいらっしゃるのですか?」

「いや、そんなことはない。うちの家系に銀髪の者は誰もいない」

「それでは、髪の色が変わった原因はストレスでしょうか……。旦那様、私は旦那様にお食事を一緒にいただくことを無理にお願いするつもりはありません。もしも旦那様が私に、王都に戻れと仰るのなら、もちろん受け入れま……」

「いやいやいや、それは困る! 君にはここに居て欲しいんだ……その、色んな意味で!」


()()()()()で……って、何?)


 旦那様のストレスの原因にはなりたくない。

 しかし本心を言えば、私はずっとここにいたいと思っている。


 私が旦那様と離婚して王都に戻ったところでお父様に叱られるだけだし、私への腹いせでお母様にひどいことをするかもしれない。

 こうして旦那様やウォルターとも少しずつ打ち解けてきたことで、「このままロンベルクでずっと過ごせたらいいな」と思い始めたところだった。


(でも、私の存在が旦那様のストレスになっているのだとしたら……?)


 ウォルターが持ってきた鏡を持って、自分の頭を覗き込む旦那様の前には、朝食が既に並んでいる。そのお皿の横には、昨日摘んできたアルヴィラが飾られていた。


 朝日を浴びて銀色に輝くアルヴィラの花に目をやる。


(アルヴィラ、アルヴィラ…………染物の材料……もしかして!)


「旦那様! 髪の色が変わったのは、昨日食べたアルヴィラが原因ということはないでしょうか」

「アルヴィラが原因?」

「はい。アルヴィラは染物の材料になる花です。布を染めるのに使うくらいですから、髪の毛を染めることも……って、いえ、そんなわけがないですよね」


 花をすりつぶして外側から髪を染めるならいざ知らず、花を食べて髪の毛を銀に染めるなんて――随分と突拍子もない考えをしてしまった。そんなことがあるわけがない。

 黙り込んだ私を見て、旦那様が口を開いた。


「……カレンだ。カレンに聞いてみよう」

「カレン様は何かご存じなのですか?」

「騎士は騎士でも、カレンは薬草などを扱う専門要員なんだ。だから昨日のロンベルクの森の視察にも同行してもらった。湖の水質調査をするのに、知識がある者が必要だったから」

「なるほど。カレン様なら、アルヴィラの成分や効用を調べて頂けるかもしれませんね」


 旦那様がウォルターに、アルヴィラの花を包むように指示をする。


 もし本当にアルヴィラで髪の毛が銀色に染まるのなら、私のスミレ色の髪を銀色に変えることもできるのだろうか。生まれた頃からそれを知っていれば、お母様もお父様から不貞を疑われてひどい扱いを受けずに済んだかもしれない。


 旦那様との朝食は嬉しい出来事だったはずなのに、不遇な目に遭っているお母様のことを思い出して気持ちが塞いだ。


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