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11.過去の女、現る

 遠回りしつつもなんとかサロンまでたどり着いた私は、取り急ぎカレン様を中に通した。その足で急いで自室に戻り、着替えてから必死で執事のウォルターを探す。


(ああ、もうこの迷路屋敷! いちいち面倒だわ!)


「奥様、どうなさいましたか! そんな格好で……」

「あっ、ウォルター! 急ぎ旦那様を探しているのだけど、どちらにいらっしゃるのかしら」


 偶然ウォルターと出会えてホッとした。

 あまりに急いで着替えたので、髪の毛を整えるのを忘れていたようだ。ボサボサの頭を見たウォルターに驚かれてしまった。


「ご主人様ですか……? あ、えっと今は……あの」


 ウォルター。こんなに分かりやすくうろたえるなんて。

 きっと旦那様は今、浮気相手のところにいるのだろう。

 ……察してしまった。


「カレン・ゲイラー様というお客様がお越しなの。旦那様を呼び戻して頂くことはできる?」


 旦那様と浮気相手の密会に、名ばかり本妻が突入するのは色々と支障があるだろう。もしも()()の真っ最中だったら、私は一生立ち直れないかもしれない。ここはウォルターに頼んで、旦那様を連れ戻してもらおう。


「かしこまりました、奥様。すぐに旦那様をお呼びしてきます。奥様は、カレン様のお相手はなさらぬよう、お部屋にお戻りください」


 そう言ってウォルターは、小走りで去っていく。


 カレン様のお相手はするなと釘を刺すなんて、ますます怪しい。

 やはり、カレン様も旦那様の餌食になったことがあるのだろうか。

 あれだけ美しくて強くて凛とした女性までもが惑わされてしまうとは……私はとんでもない方と結婚してしまったのかもしれない。


(でも、ダメだと言われればやってしまいたいのが人の性よね)


 私はウォルターの忠告を無視して、カレン様の待つサロンへ向かった。


「お待たせしております。今、執事に旦那様を呼びに行かせておりますので、少々お待ちくださいませ」


 自分に残っている最大限の品性をフル活用して、私はカレン様に上品に挨拶をした。

 彼女は私の髪を見て目を丸くしている。先ほどは髪が見えないように隠していたから、気付かなかったのだろう。この珍しいスミレ色の髪に。


「えっ……もしかしてあなた、メイドじゃなくてリカルドの奥様だったの!?  結婚すると聞いてはいたけど、まさかお相手が()()()だったなんて……! 大変失礼しました。申し訳ありません」

「いいえ、気になさらないでください。私も嫁いだばかりで勝手が分からず、屋敷の中を連れまわして申し訳ございませんでした」


 スミレ色の髪を食い入るように見るカレン様。珍しい色だから、驚くのも仕方ない。


 さあ、旦那様のいないこのチャンスを生かさでおくべきか。

 カレン様は、旦那様の幼馴染だと言っていた。旦那様の過去も良くご存じだろう。

 厨房でこっそり食事をとったり、毎朝スミレを摘んだり、私のことを愛するつもりがないと言ったり。私にとっての旦那様は、まったく理解できない謎の人物。旦那様のことを、カレン様から聞き出してみよう!


「カレン様。私まだ結婚したばかりで、旦那様のことをよく分かっておりませんの。幼馴染でいらっしゃるのなら、旦那様の幼い頃のお話などお聞かせいただけると嬉しいですわ」

「リカルドの幼い頃? 騎士学校に通っていた頃のことかしら。そうね……彼は、騎士というよりも研究職の方に興味があったわね。体格的に女性は騎士として適さない、お前も別のスキルを身に付けろと、リカルドから口酸っぱく言われたわ。彼と一緒に、たくさん研究や実験をしたものよ。騎士学校なのにね」

「なるほど、そういう厳しいところに惹かれたと……」

「そうね、そうかもしれないわ……って、奥様何言ってるの! ごめんなさい。私、別にリカルドとそういう関係じゃないわ。()()


 ……私、思うの。ロンベルクの方って、皆さん素直すぎる。

 『()()』なんて付け加えたら、昔はそういう関係だったと告白しているようなものだ。


「いいんですよ、旦那様のお噂は承知した上で嫁ぎましたので。こんなことを聞くのは大変失礼で申し訳ないですけれど、カレン様ももしかして旦那様の……」

「ごめんなさい!」


 ああ、やっぱり……。

 食われてましたか。

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