ブルースナイパー ~合体ロボの肩から追放された俺は戦闘機モードで星を救う~
「鳥のように自由な男には、合体ロボはつとまらない――そゆことにしといて」
バンダナコミック01応募の作品です。
がらんとした宇宙船の一室に、三人の男女。
黒髪の男が、椅子を並べて寝ころがっている男に指を突きつける。
「ディーノ、君を『ブレイヴァー・ファイブ』から追放する!」
そう宣言された茶髪の男――ディーノはのそりと身体を起こす。
「ナナク、昨日も聞いたぜ」
「じゃあ何でお前が船に居るんだよ!」
「俺ってば宇宙天涯孤独の身で、行く当てどころか故郷も無いし」
ディーノは空のパック食料をゴミ箱に投げる。
「追放なんて冷たいぜ。今日の怪重討伐での活躍を見てから再検討していただくってことに――」
荒野に取り残され宇宙船を見送るディーノ。
「ちっ、また一人かよ。朝めしだけでも食わせて貰えばよかったな……今更か。あーあ、『召喚』」
ディーノが手を前にかざすと、風が吹き光が包む。
それが収まった時、ディーノは青い戦闘機の操縦席にいた。
「発進!」
戦闘機はふわりと浮かび、ジェット噴射で低空を飛行する。
「調子はいいな青鴫、またしばらく二人きりなんだ、仲良くやろうじゃないの」
「悪かったな、妙なところを見せて」
ナナクは、少女に声をかける。
「昨日言った通り、これからは君が『ブレイヴァー5』の"肩"担当だ。よろしく頼む」
「は、はい。あの、さっきの人はどうして追放なんか……」
「他人の物を勝手に使う、プライバシーを守らない……。時代錯誤のふざけたやつでね、面接だけは良い顔してて騙されたよ」
「召喚機の兵装は何だったんですか?」
「『ディフェンス・ビーム』。攻撃を撃ち落とす自動防御のビーム兵器らしい。怠け者のあいつにはピッタリだ」
「あはは……」
笑って、少女は首をかしげる。
(自動防御の兵装……そんなの聞いたことあったかなぁ?)
峡谷。戦闘機2機、戦車2台、ヘリコプター1機が車ほどの大きさの四足歩行ロボットの群れと戦っている。
「みんな落ち着いて! 『小鬼級』しか居ないわ! 落ち着いて……きゃあ!」
ヘリの撃ったミサイルが、戦車の隣で爆発する。
「ご、ごめんなさい! 私、リリーさんを守ろうとして……!」
「私は大丈夫だから、フェイは敵の群れを狙って!」
「リリー、後ろからさらに十匹だ!」
「こちらイルカ、どうやら囲まれてるぞ。『合体』するか?」
壊れた小鬼を乗り越え、新たな小鬼が現れる。
「リリー!」
「……そうね、イルカ、フェイ、アナ、ミサキ。合体よ!」
「了解!」
五台のメカから光が発せられ、時間の流れが止まったように世界が静止する。
戦車が足に、二台の戦闘機が右半身と左半身、戦車が頭部、ヘリが肩に変型合体する。
搭乗していた五人の少女たちの席は、リリーを中心にひとつの操縦室へと集合される。
「『ハート・アーチャー』発進!」
家よりも大きい人型ロボが着地すると同時に再び小鬼たちが動き出す。
「イルカ、道を作って!」
「承知!」
ロボの左手が光り、巨大な弓が出現する。
「受けてみろ! 『炉の嵐』!」
ロボが弓を放つと、小鬼の群れに向けて炎の突風が放たれる。
吹き飛ばされたり熱で溶かされる小鬼たち。
「ミサキ! 行って!」
「よし! ……あん!?」
「どうしたの!」
「お、重い! 足が動かせ、ねえ!」
「フェイ、どうなってる!?」
「小鬼が取りついてるみたい……ど、どんどん集まってきてます!」
背後から、複数の小鬼がロボの足に爪を食い込ませて登ろうとしている。
「イルカ、腕で振り払って!」
「危険だ、バランスを崩せば小鬼のただ中に倒れ込むぞ!」
「脚部損傷! 左腕にも一匹!」
「くっ、どうすれば……」
ピピッ、と通信が入る。
「――こちらディーノ、事情は知らんが勝手に助けさせてもらうぜ」
「えっ……」
「小鬼相手に至近距離で合体たあ、ちっと不用意ちゃいますのん?」
ディーノが左右二本の操縦桿を引くと、台座から外れる。
両手にそれぞれ持った操縦桿を銃のように構えて窓に向けると、赤い照準が風景に重なって表示される。
ディーノは二丁拳銃を構えて、青鴫を小鬼の群れに突っ込ませた。
青鴫は高速でロボの脇を通りすぎる。
「一機だけ!? チームじゃない!」
激しくロボが揺れる。
「きゃああ!」
「何だ、どこがやられた! フェイ!」
「うそ……。ミ、ミサキさん、動かして!」
「へっ!?」
「今のは、と、取りついていた小鬼が一斉に破壊された衝撃です! 動けます!」
「は? そんな……」
「ミサキ! 行って!」
我に返ったミサキが操縦すると、ロボはゆっくりと歩き始める。
またしても、ロボの脇をすり抜ける青鴫。
一拍遅れて、周囲の小鬼たちが多数爆発する。
「すごい……あんなこと可能なの、イルカ?」
「私には無理だ。あの速度で飛びつつ正確に射撃するなど、人間業ではない」
「助かったんだね。私たち」
少女たちは、ほっと息をついた。
「あ、降りてくる」
戦闘機が弧を描き、光と共に消えてディーノが立つ。それに近寄る五人、リリーが先頭に立つ。
「リーダーのリリーです。ありがとうございました」
「いやなに、男として当然のことをしたまでですよ」
ディーノはにこやかにリリーの手を取る。リリーは引きつった笑顔で握手する。
「それにしても、パーティー全員女性とは華やかで良いですなー。それに皆さんお若いし美人だ」
視線を交わし眉をしかめる面々。
「美人かは分かりませんが、若いのは事実です。私はまだ17歳なので」
「いっ!?」
ディーノは驚いて手を離す。
「どおりで若い……若すぎると思った。そこの子なんて、10代前半じゃないか?」
指されて身を竦めるフェイ。リリーはディーノの前に立ちふさがる。
「彼女は最年長。26歳」
「はぁ!? アレで!?」
ミサキがずいと前に出る。
「オッサンさぁ、さっきから失礼だよ。歳やら見た目やらさぁ」
「ちなみに俺は24歳でお前の保護者より年下だ」
「お前がオッサンなのは事実だろうがオッサンよぉ」
「なぁんだとぉ……!」
「ミサキさん、やめましょう命を救ってくれた人に。私は平気ですから」
フェイに言われ、ミサキは睨んだまま引き下がる。
リリーは頭を下げた。
「町まで来てくれたら少しのお礼ぐらいは……」
「ご冗談。お子さまから小遣い巻き上げるほど落ちぶれてませんことよ。町の場所だけ教えてちょ」
ディーノが小鬼の残骸に手をかざすと、数匹が光となってその手に吸収される。
「いくらかもらってくよ。お嬢様がた、危ないお遊びはほどほどになさって下さいまし?」
「なっ、狩りは遊びじゃねえ!」
ミサキが反論すると、ディーノは肩をすくめた。
「それが分かってるなら、もうちっと真剣に準備するんだな」
ディーノは青鴫で飛び立つ。
「くそっ! 腹立つ! イルカ、"足"を代われよ! 操縦なんてやってらんねえ!」
「ミサキの適性は"足"が『B』で、残りは『C』以下だろう? どのパーツを担当するつもりだ?」
「お前だって"右半身"以外は『C』以下だろ!」
「私の適性は『A』だ」
イルカと睨み合うミサキに、フェイが近寄ってなだめる。
リリーが手を打った。
「今は帰ろう。悔しいけど……あの人の言う通りだ」
荒野に数十の建物が建っている小さなコロニー。
リリーは他メンバーと分かれ、役所に向かう。
(準備……か。でも質問できるような相手も居ないしなぁ)
道中、道端でぐったりしているディーノがいる。
(……ん?)
慌てて駆け寄る。
「ディーノさん? どうしたんですか?」
「うぅ……」
「ちょ、ちょっと! すぐ医者を――」
「医者じゃない……」
役所のロビー、もそもそとサンドイッチを食べるディーノ。
「何でお金持ってないんですか」
「騙したのはそっちだよ? 町に怪重スクラップの引取り所が無いなんて、詐欺だ」
「この辺りも怪重が増えて、危険になったから業者が引き上げてしまったんですよ」
「あーやだやだ辛気臭い、どこかに景気の良い話は無いもんかねえ」
リリーがチップを取り出し、机に置く。
「なあにこれ?」
「ディーノさんのお金です」
「ちょい待ち、あの小鬼の残骸のことか? ありゃあんたらの獲物だ。受け取れない」
「でも倒したのは全部ディーノさんです。みんなで話して返すと決めました」
(ミサキが「借りを作りたくない」って譲らなかったからだけど)
「いや、しかし……」
唾を飲むディーノ。チップに手をのばし、拾い上げる。
「……受け取るんだ」
「何だよ! 罠かよ! 一回は奥ゆかしく断っただろうが!」
机にチップを投げるディーノ。
「返して欲しいなんて言ってませんよ」
「良い性格してるね。金持ちと結婚するよあんた」
リリーはチップを拾い、再びディーノに差し出した。
「これだけあれば数日は滞在できますよね」
「んん?」
「少しで良いんです。怪重討伐の基礎を教えて下さい」
「いやあのさ……」
「足りなければもっと払います」
「う……」
リリーの真剣な目に、ディーノは思わず目を逸らし、その眼を見開く。
「あー! ナナク!」
役所の男と話していた黒髪の男が振り返る。
「何だ、まだこんな所にいたのか?」
「こっちのセリフだ! ここで会ったが百年目!」
「つい半日前だろ……」
ナナクに近づくディーノを、役所の男が止める。
「今お仕事の話をしてまして……」
「仕事ぉ? 『召喚機』を使う仕事なら、俺もこっちのリリーもパイロットだ。聞かせてもらおうじゃあないの」
「やめろ。これはブレイヴァー5の仕事だ。子どものヒーローごっこでも……無職の暇つぶしでもない」
「なにをぉ……!」
ナナクはふんと鼻で笑って男と扉の向こうに消える。
ディーノは毒づき席に戻った。
「今の人、ニュースで見た事あります。『勇者』ブレイヴァー5の方ですよね? 知り合いなんですか?」
「……」
むすっとして答えないディーノ。
「多数の巨神級怪重を討伐してきた特A級のパイロットチーム……」
「んん、ごほん! 実際はろくなもんじゃないぞ、仲間を追放したりするような奴らだ!」
「もしかして、ディーノさんって……悪い事してブレイヴァー5に懲らしめられたことがあるんですか?」
「ちっがーう! 今朝までメンバーだったんだよ!」
「すみません冗談です」
「ああそう……」
「勇者なら、なおさら後進を育ててくださいよ」
「……断る。俺はもう勇者じゃない、勇者だったのも一年だけだったしな」
「わかりました」
リリーは立ち去ろうとする。
「ちょちょ、ちょい待ち! もう一歩食い下がったりとか無いわけ?」
「断られましたけど」
「そうじゃなくて熱意とか、強くなりたい理由とか、そういう心に訴えるさぁ……今の若者ってみんなそうなわけ?」
「知りませんけど、『若者みんな』って発想は古いと思いますよ」
「うっ……」
「別に大した理由なんてありません。リーダーとして、やるべきだと思っただけです。引き受けてくれるんですか?」
「……かわいくないね。まあ急ぐ理由も無いし、代金分は働きますよ」
「『召喚機』を呼び出せる奴を『パイロット』と呼ぶ。
一人のパイロットが呼べる召喚機は一つだけ、兵装も形状も選べない。
召喚機が相手をするのが『怪物重機械』、通称怪重。種類によって『小鬼』『巨神』みたいな分類がされてる。
でかい怪重に対処するために大事なのが、合体ってワケ。召喚機が五機集まる事で一体のロボになることができる。
これは召喚機の種類を問わない、とにかく五機必要なだけ。頭・肩・右半身・左半身・足、この五部分を誰かが担当すれば良くて、メンバーも配置も自由」
「それから、パイロットにはそれぞれパーツごとに『適性』がありますよね。『A』から『E』の五段階。私は"頭"が『B』で、後はダメです」
「まあそういうのも、あるっちゃあるね……ふむ、基礎知識は大丈夫そうか。一つアドバイスすると、小鬼相手に合体は必要ないぞ」
「あの時は囲まれたので……」
「逆、逆。合体すれば図体がデカくなって死角も増える。バラバラじゃ歯が立たない相手にだけ使う切り札なんだよ、合体ってのは」
「なるほど……」
メモを取るリリー。
「ま、急に俺みたいにはなれないから、気楽にやってちょうだい」
ディーノは端末で動画を見ながら歩き、宿屋までたどり着いた。
その時、宿屋から出てきた男が、看板の「空きあり」の札を「満室」に裏返す。
「ちょ、ちょっと待て!」
「おっと、すみませんもう満室でして」
「満室!?」
「申し訳ないのですが。今日は団体様がいらっしゃった事もあり……」
「団体ぃ? こんなしょぼい村に観光バスでも来るってのかよ?」
「いえ、お仕事とのことで……」
(仕事の団体……あっ! ブレイヴァー5かっ!)
「あのっ……」
「ん? ああ、さっきの……」
振り返ると顔を赤らめたフェイが立っている。
「先ほどはありがとうございました。その、お困りのようだったので……よければ、うちに来られますか?」
「……え?」
翌朝、ディーノはボロい物置で目を覚ます。
「ふぁ……うちって孤児院のことね……」
ドアからフェイが顔を出す。
「ディーノさん、おはようございます。私は出かけますが、朝食はテーブルに用意していますので」
「はぁ~い……ふふ、新婚さんみたい……ぐあっ!」
涙目のディーノが顔を上げると、リリーが箒を構えて立っている。
「フェイに何かしたら殺す」
「何でお前が……」
「孤児だからですけど。文句ありますか?」
「ないで~す……」
「事情はフェイから聞いたけど、一日だけですから。今晩からは宿に泊まって下さい」
「頼まれてもこんなボロ屋にずっといませんよぉ。あだっ!」
箒で突かれるディーノ。
「うぅ……ところで今何時?」
「8時です」
「じゃあ、勉強は11時からだな。うわストップ! サボる訳じゃなくてちょっと調べ物があんのよ、これホント」
「はぁ、まあ良いです。では11時にここで」
カフェ。タブレットを見ているナナク。
「だーれだ❤」
「うわっ!」
目を塞がれ、驚いて振り返るとディーノが立っている。
「何の用だ」
「ふっ」
ディーノは同じテーブルに座り、きょろきょろと見回す。
「すいません、メニューください」
「何の用だって訊いてるんだ」
「『何の用だ』って訊きに来たんだよ」
「はぁ?」
「お前らがこんな田舎で滞在してるなんておかしいだろ。近場に出るのは小鬼級だけ、ブレイヴァー5の受けるクエストなんて無いはずだ」
ディーノは届けられたココアを飲む。
「昨日話してたのは何の仕事だ?」
「チームを追放されたお前には関係ない」
「あーあー、そういう態度取っちゃう? 小鬼の数が増えてる元凶を知りたいんじゃないの?」
「! お前……知ってるのか」
「……その反応、やっぱりこの辺りに工場が造られてるってワケね」
ナナクは席を立つ。
「ちょい待ち、俺も連れてけよ。役に立つぜ」
「……言ったはずだ。これはブレイヴァー5の仕事、お前には関係ない」
釣りはいい、と言ってナナクは紙幣を払い店を出て行く。
「けっ、余裕の無い男ってやだね」
ディーノはナナクの残した珈琲を自分のココアに注いで混ぜる。
「俺を連れて行ってれば、教えてやったのにな、大量発生した小鬼にパイロットが襲われてた場所の事」
一気に飲み干して、席を立つ。
「俺が援護してやりゃー、リリーたちが工場を潰すってのも出来ん事は無いだろ。するとニュースの見出しはこうだ『ブレイヴァー5! 田舎の素人パイロットに完敗!』そして小見出しには『少女たちを勝利に導いた謎のイケメンパイロットの正体とは!?』。くっくっくっ……ざまあ見せてやる」
ディーノが店を出ようとすると店主が立つ。
「あ、ちょっと。ココアの代金を払ってくださいよ」
「ん? さっきの奴が払っただろ? あれで清算してくれ」
ディーノは店主に手を差し出す。
「何です?」
「おつり」
呆れ顔で店主は小銭をディーノに渡した。
孤児院で勉強しているリリー。
「うーっす」
「早いですね。まだ9時過ぎですよ?」
「俺ちゃん仕事が早いから。勉強中?」
「ええ、この孤児院の運営を手伝うんです。買い付けとか経理を、フェイみたいに」
「そりゃいいね。じゃあちょい寝よっと」
「……無駄だからやめろ、って言わないんですね。パイロットとして働いた方が儲かる、って」
「あー……まあ俺も散々言われてきたからな。軍を辞めるなんていつか後悔するぞ、とか」
(元軍人……それが強さの理由……?)
ミサキがやってくる。
「げ、何でここに? リリー、このおっさん追い出すか?」
「私から頼んで、色々教わってるの」
「はぁ!? こんなやつに教わる事なんかねえよ!」
「あのなぁ、年上に敬意ってもんを……。そうだ、お前、適性どんな感じだ?」
「あ?」
「パーツごとのパイロット適性だよ。検査は受けただろ?」
「"足"が『B』。それがどうしたってんだよ」
「俺、適性オール『A』だから」
「なっ、はっ、ああ!? あり得ねえだろ!」
「これ俺のライセンス」
「マジかよ……」
「どうよ、見直したか?」
「何でおっさんにこんな才能が……もったいねえ」
「そこまで言うかい?」
「何でそんな適正で追放なんてされるんですか? 普通なら手放されませんよね」
「……」
黙ってしまったディーノにため息をつくリリーとミサキ。
「ミサキ、何か用があったんじゃないの?」
「ん、自主練誘おうと思ってよ。フェイいるか?」
「自主練?」
「操縦のな。小遣い稼ぎにもなるし」
「フェイなら朝から出かけてるけど。一人で行ったのかな」
「はえー、相変わらずやる気あるよな。合流してくるわ」
ミサキをディーノが制する。
「ちょっと待て、その自主練ってのはどこでやってるんだ?」
「あん? 村の外だよ。南の方の、ちょうど昨日会った場所のへん」
「一人で行ってるのか?」
「な、なんだよ。フェイも私も、飛べる召喚機だから小鬼相手なら危なくないって……」
ディーノが外に向かい、二人が後を追う。
「工場がある可能性がある」
「なんだそりゃ?」
「怪重を生産する拠点だ。奴らは通常、同種を『召喚』することで増えるが、工場は新たに危険な怪重を生産する」
「あの辺りに?」
「分からんが、可能性は高い。リリー、残りの二人を呼び出せ。俺は先に行く」
ディーノは青鴫を召喚し、飛び出す。
切り立った山肌の中腹に、羽の曲がったヘリコプターが引っかかっている。
小鬼が山肌を登ろうとすると、ヘリがミサイルを放ち吹き飛ばす。
「大丈夫、何とかなる」
フェイはそう呟き、新たな小鬼をミサイルで撃破する。
小鬼は残り十体、直進では接近できない事を学習したのか、無秩序にうろついている。
「さっきの奴さえ来なければ……」
レーダーに新たな敵が示される。
「また……? この大きさ……小鬼じゃ、ない?」
現れた二体の怪重は、小鬼よりも一回り大きく、大口径の砲に犬の四足を取り付けたような姿をしていた。
「魔狼型……!」
それらは、離れた場所で伏せの姿勢を取り砲身をフェイに向けた。
ゴガン、と榴弾が装填される音が響く。
「う、ううぅぅ……みんなぁ……ごめん……」
発射された二発の弾は、しかし中空で炸裂し、炎を散らした。
「え……」
「フェイ、無事か?」
「ディーノさん!?」
青鴫はフェイのヘリの側に浮遊し、周囲の小鬼を一掃した。
「助かった……」
「召喚は解除すんなよ、何が起こるかわかんないんでね。リリーたちが来るまで辛抱だ」
「みんなもここに……? ダメです! この辺りには、さっき私がやられた怪重が……!」
ビビッ、とディーノのレーダーが警告音を鳴らす。
魔狼の背後の森から、巨大な怪重が這うように現れた。
球形の本体を六本の長太い足で支え、不安定に起き上がる。
木々よりも背が高い。
球体が開き、巨大なレンズがディーノを見据えた。
大鬼級一ツ目型。
レンズが光を帯びる。
「逃げて下さい!」
フェイは、温存していたミサイルを一斉に放つ。
それらは怪重の足元で爆発し、一ツ目は姿勢を崩した。
一ツ目の放ったビームは、二人から外れて崖の一部をえぐり飛ばす。
「ビーム兵器を備えた怪重です! あれは防げません、早く!」
一ツ目のレンズに、再び光が集まっていく。
ディーノは操縦幹を抜き、二丁拳銃の形にして構えた。
「はっ!」
ディーノの掛け声と同時に、一ツ目がビームを放つ。
そのビームに向けて、ディーノは引き金を引く。
高い金属音のような音が響き、ビームは鋭く曲がり上空へと消えた。
「……嘘……ビームを?」
次の一発も同じように弾いて、ディーノは笑みを浮かべる。
「どうした? 合体ロボじゃないなら簡単に倒せると思ったか?」
一ツ目は姿勢を低くし、根を張るように足を地面に広げる。
先ほどまでとは明らかに異質な光が、直視できないほど強まる。
「舐めんなよ!」
今度は単発ではなく、一本の線となった光がレンズから放たれる。
空へと逸らされたビームが雲を貫いた。
「ぐっ……こらえろ青鴫。ヒーローってのは……」
ビームの屈折点がゆっくりとディーノの方へとずれていく。
「遅れて来るもんだからよ!」
一ツ目の側頭部が爆発し、ビームが途切れた。
一ツ目の脇をすり抜けた二機の戦闘機が旋回し、再び攻撃を仕掛ける。
魔狼がそれを迎撃しようとするが、装填する間も無く炎に包まれ爆発した。
「みんな!」
「フェイ、ディーノさん!」
「何だこの巨大な怪重は……」
「大鬼級だ! 合体してぶっ叩け! 細かいのは俺が蹴散らす!」
「わかった、みんな!」
四機がフェイの元へと集まり、光に包まれる。
次の瞬間には、巨大な弓を携えた人型ロボットが顕現していた。
「くらえ! 『炉の嵐』!」
イルカの叫びと共に、ロボは弓を引く。
劫火の渦が一ツ目を包んだ。
「よし!」
「まだだ! 回避しろ!」
炎の中から現れた一ツ目は、煙の上がる球体を開いた。
守られていたレンズは、傷一つ無くリリーたちを見つめる。
放たれたビームは弓に当たり、衝撃でロボは仰向けに倒れた。
「炎を防ぐとはな……かくなる上は徒手空拳で……」
「そ、それは流石に無理だって!」
青鴫が間に割って入り、ビームを逸らす。
「別の配置での再合体を試せ!」
「おっさん! よし……」
「ダメ!」
リリーが叫ぶ。
「最適な配置を崩す訳にはいかない!」
「通用しなかっただろ!」
「配置の基本は適材適所、適性の無いパーツへの配置は危険よ!」
ディーノは笑った。
「適材適所ねぇ。けどリリーはパイロットの才能があるのに勉強を頑張ってるだろ」
「それは……」
「良いじゃない不適材不適所、才能を乗り越えろよ。それが、"挑戦"ってやつだ!」
弾いたビームが一ツ目に当たり、退かせる。
「やろう、リリー!」
「リリーさん!」
「でも、今から新しい配置を考えるなんて……」
「みなさん!」
視線がフェイに集まる。
「……覚えてますか? 最初に合体を練習した時の配置。適正じゃなくて、それぞれの希望で決めた時の事」
五人は視線を交わし、頷き合った。
光を放ち、ロボは五台の召喚機に分かれる。
そして再び、ひとつの光となった。
「合体! 『スペード・セイヴァー』!」
幅広で短いグラディエーターソードを構え、騎士姿のロボは一ツ目と対峙した。
レンズに光が集まる。
「やっ!」
ビームが放たれた瞬間、ロボは素早く半身になり躱す。
「今のどうやったんだよイルカ!」
「後だ! 行くぞ!」
地面を蹴り、一気に間合いまで踏み込む。
「リリー!」
「はああっ!」
頭めがけて振り下ろされた剣を一ツ目は躱す。
だが、剣は一ツ目の足を二本斬り落とした。
一ツ目は、残り四本の足を使ってロボに取りつく。
「こいつ……!」
ロボの眼前で、レンズに強烈な光が集まっていく。
「ヤバいぞこりゃ!」
一ツ目の足はガッチリと食い込んで離れない。
その時、青い突風が一ツ目との間をすり抜けた。
フェイが叫ぶ。
「リリーさん!」
間髪入れず、リリーは腕を操作する。
一ツ目の手が爆発を起こし、拘束が緩んだ。
「食らえぇっ!」
剣がガツンとレンズに食い込む。
みしりとヒビが広がると同時に閃光と爆風が迸った。
夜、食料品店から出てくるディーノに、リリーが声をかける。
「ディーノさん」
「よう、町の英雄さん」
「やめてください。もう発たれるんですか?」
「工場が破壊されて、この星は少し平和になった。つまり、俺ちゃんみたいなのが稼げなくなったわけだからしてね」
「なるほどですね」
「冷たいな! もっと引き留めたりとかさぁ」
「残ってくれるならそうしますけど」
「……くくっ、効率的だな」
「これからどうするんですか?」
「どっか宇宙をぶらぶらしようかねぇ」
「新しく入るチームを探さないんですか?」
「う、チームで働くのは適正ないって今回の追放で再確認できたしなぁ」
「適正、ですか。『それが挑戦』なんじゃないんですか?」
「……こりゃまいったね」
リリーは拳を差し出し、ディーノがそれに拳を打ち合わせる。
「ニュース、毎日見ますから。ディーノさんの活躍を期待してます」
「お前も、仲間を大切にな」
ディーノと別れ、リリーは仲間の元へと戻っていく。
フェイが空を指差した。
リリーたちの見上げる夜空に、青い流れ星が瞬いた。