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8 歴史の生き証人(そりゃ当時は生きていた)。


 ラヴェンダー・エルマー。


 三百年前に存在した――エルマー家を興した先祖。


 もとは家族に反対されながらも、当時は数少ない女性騎士になった方だ。


 それが「姫の騎士ラヴェンダー」という物語のモデルとなって。


 彼女が当時の王女を助けたことが物語の始まり。彼女は反対されていた家とは縁を切り、騎士爵を受け、エルマーという家の始まりとなった。

 彼女の存在でこの国の女性騎士の立場も地位も変わったという。

 王女もラヴェンダーを親友と宣い、彼女もまた女でありながら己の騎士団を作った。決して姫君のお遊びでは無く、本格的な騎士団を。当時、実力ありながら女性故に不遇に遭っていた騎士たちをまとめあげて。

 王女も――姫君もまた「姫騎士」として王家の歴史に名を残している。


 三百年経った今ではその姫の作った騎士団は王国の騎士団の中に組み込まれているが、彼女らの存在あって女性騎士の立場はこの国ではそれほど悪くはない。


 エルマー家に生まれた女子が、本人が望めば武芸を身につけられる家訓もそこから。


 その歴史を。

「そうか、三百年前なら」

 同時期に生きていた……?

「ええ、ラヴェンダーさまはすでにご高齢でいらしたけど、本当に素敵な方で……」

 いつも騎士服が格好よくてと、ユージェニーが懐かしそうに。頬を染めながら。

 聞けばラヴェンダーの方が彼女らのまだほんの少し先の時代に。老年になっても騎士服を美しく着こなし、常に剣を佩いていたと子孫に伝わる話は作り物ではなかったと、生き証人が。幽霊だけど。

「ジーン姉様の憧れだったのです。お姉様は騎士物語が大好きで」

 イヴリンに追加説明された。

「ごめんなさいねユージェニー。あなた、騎士になりたかったのに、わたくしの補佐の役目が……」

「お姉様、それは三百年前にも話し合いましたし」

 ユージェニーが様々なことに優秀で馬にも乗れたという話は、そうした家族にしかわからない事情もあったようだ。

「何と、ご先祖さまをご存じで……しかも、互いに生きていた時代が……」

 「姫の騎士ラヴェンダー」が発刊されたのはラヴェンダーの死後。親友との思い出を残しておきたかった姫さまが、また作られた物語だ。ひっそりと若い頃から物語は綴られ、ファンの間で少部数まわし読まれていた、それらを。正式な本に。

 未だ彼女らのファンにより、何度も新装版が出ていることを、リラは何故かユージェニーから聞いた。

「図書館にありましてよ?」

「あ、うちには初版がありましたから」

 姫さまから寄贈されたのが。

 だから買ってなかった、新装版。

「初版!?」

 知らずマウントを取ってしまったかもだが、それもまた……。

「それも借金のかた……」

「……つらい」

「……はい」

 そういえば不動産屋さんがめちゃくちゃきらきらした目をしていた。そうかラヴェンダーのファンだったのか。

 だからあんなに親切に。

 実はヘタな業者に引き取られる前に、ファンとして保護する目的が強かった不動産屋さんだったと、リラは後に知り。家財道具も大事に扱ってくださっていた。ありがとうご先祖さま。

「ああ、私たちの方が年若かったとはいえ、ラヴェンダーさまより先に亡くなったから、その本はうちにはありませんの」

 ユージェニーの嘆きはそこに。

 彼女らの死後に、物語は発行された。

 ラヴェンダーの亡くなったのは、彼女らの死後より数年後。発刊はさらにその数年後。

 図書館で読むしかなかったユージェニー嬢。いや、読めただけましと今まで自分を慰めていたが。

「あ、そうか。ご先祖さまの肖像画も、ありがたい値段ついたのは、そういう……」

「肖像画!?」

 ユージェニー嬢、何やら考えこみ始めた。

 推しの肖像画。聞けば若い頃まであったという――自分が拝んだことがない若い頃まで。三百年のその少し前の頃が。


「それ、立て替えますから買い戻しません?」

「――は?」



 

 そもそも何故、三姉妹が亡くなったのか。

 

「……きのこ?」

「ええ、きのこ」


 グローディア邸の三姉妹の死因は、何ときのこによる食中毒だった。

「いや、毒味とか」

 当時のグローディア家は王家の流れある公爵であったはず。ならば毒味役とかいそうなものだが。

「いたけど、発症したの食後一時間後ですの」

 毒味の悩みだ。

 直前に同じものを確認はできるが、一時間経ってから、潜伏式に効果を出すものまでは、ちょっと無理。

「いや、毒殺とか呪いとか……」

 そういう話しになっている。

「いえ。そりゃあ、大貴族でしたから恨みくらいは買っていたでしょうけども……」

 自分でいうのもなんだがと、エリザベス。いや本当に。

「今でも、年に数人は亡くなってますね。きのこ」

 意外と情報通なユージェニー嬢。本を借りに行って図書館で語り合うらしい。ご近所さんと――ご近所の幽霊さんたちと。

「それは、何とも……」

 リラはちらりと、イヴリンをみる。

 先ほど、リラの前世の最後を嘆いてくださった三人だが、話を聞いたらリラも彼女らを気の毒に思った。

 三百年前なら今よりもきのこの種類は判明していなさそうだし。医療だって、毒消しだって。

 まだ皆さん、こんなにもお若いのに。外見が。イヴリンなどまだ子供ではないか。


 しかし、三百年越しの謎があっさり解けてしまった。

 三姉妹同日同時に亡くなったという謎まで。


 きのこ、恐るべし。





ベル○ら的なファンがこの世界にも。

不動産屋(取立屋)さんもまさにでした。推しの子孫さまが困ってるぅ。


……回し読みされる、同人誌(わかるひとはわかる(汗)


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