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5 何百年経っても恋バナは人気。


「あ、あなた……いったいなんですの……?」

「はい?」

 恐る恐る尋ねたのはエリザベス。幽霊歴三百年。長女として妹たちをかばいつつ。

 今まで、確かにちょっと根性あるものもいないわけではなかったが、いきなり燃やそうとした存在はいなかった。

 こわ。

「あ、リラ。リラ・エルマーと申します。初めまして」

「あ、ええ。初めまして。わたくしはエリザベス。こちらは妹たちで」

「ユージェニーです」

「イヴリンです」

 つられる妹たち。

 もとは王家の流れもある公爵家だが、三百年後な今はどうなるのかなと、リラもちょっと悩む。身分的に。

 それに不動産屋さんたちからお館についての資料は頂戴していたから、三姉妹のことは存じ上げていた。飾ってある肖像画が著名な画家さんの作品とか。

 まぁ、自己紹介していただけた方が気分的には良い。

 それに立場的には――土下座させちゃった……。

 ――ついうっかり、昔の感覚(くせ)で。


 自己紹介しあったので、膝をつかせたままは申し訳ない。

「ええと、改めまして。この度こちらの土地とお屋敷の持ち主になりました、リラ・エルマーと申します」

 かわいそうだが、まだどう出られるかわからないので、肖像画は傍らに置かせてもらっている。人質ならぬ絵質。

 ホールの横に来客用の応接室があると案内された。

 三姉妹がふよふよと浮きながらの移動だったことにびっくりはした。やっぱりこの世界の幽霊も浮くんだ。足があるのかと気になったが、女性のドレスの中を覗く趣味はリラにはない。


 生前もそうであったのだろう。

 コの字型に配置されたソファーの上座にエリザベス。その補佐をする為に傍らにはユージェニー。イヴリンはその姉たちの邪魔にならぬよう、しかしユージェニーの隣に。そう自然にお座りになられた。

 リラもすすめられてソファに腰掛けたが、不思議と埃もたたない。三百年もので覚悟していたのに。

 そして気がついた。

 部屋がきれいなことにも。灯りはないから引き続き青白い火の玉が燭台で照らしてくれているけれども。

 不思議がるリラだったが三姉妹の方は彼女の改めての挨拶に、エリザベスが代表して鷹揚に頷いた。土下座は無かったことにしてあげたい美しく優雅な所作。

「確か、エマルシア家が持ち主ではございませんでした?」

 それは彼女らが亡くなったあと。確かに近縁のエマルシア公爵家が屋敷を引き継いでいた。


 ――彼女らの葬儀も。


「あ、そのお家から、コルシオ伯爵家に嫁がれたお方の持参金の一部になっていまして」

「あら、そうでしたね。百二十年くらい前……だったかしら?」

 あら?

 意外とご自分たちのことを把握なさっている?

「それで婚約破棄の慰謝料にコルシオ伯爵家より、私に譲渡されました」

 血のつながりもないので恐縮ですがと続けたリタに、三姉妹は「え?」と。気になったのはそこではないと、姿勢を正して、むしろ前のめりに尋ねてきた。

「婚約破棄ですって?」

 ちょっとそれどういうこと? と。

 食いつくのそこですか。

 時代違えど、こういう話しは女性の好物なのだなと、リラは改めて学んだ。

「まあ、形には解消に近いのですが……――」



「お、お兄様、かわいそう……」

「いえでも、男ですね。惚れた女のために何もかも捨てて!」

「家族の方もえらいわ! お兄様を応援なさったのね!」

「でもちょっと脳筋すぎない?」

「っていうか、聖女、ないわ……」

「いたわねぇ、わたくしたちの時代にも、そういう女」

「でも貴方、書類はきちんと確認してから受け取らなきゃ」

「あ、はい」

「お兄様は辺境で冒険者?」

「わぁ、憧れるぅ。夫婦で冒険者。物語みたい!」

 盛り上がってるなぁ。

 兄さん、お元気ですか。幽霊がほめてくれてるよ。

 リラは一通り話し終えて、ほっと一息。お茶が欲しい。

「ようございます。そういう正統な手続きで貴方が持ち主になられたのですね」

 長女の言葉に、妹たちも頷いた。

 やはり意外と話しが通じるなと、リラの方が驚くほど。

 先ほどの心霊現象はなんだったのかしら。

 リラの疑問が伝わったのか、ユージェニーが静かに説明してくれた。


「盗っ人と肝試し感覚の侵入者対策でした」


「それは、あー……お疲れさまです」

 すぐ、理解。納得。把握。

 未だに価値あるものも確かに残っている。先ほどの花瓶然り。

「一年に一度は、泥棒きます」

 イヴリンもまだ幼い眉を困ったと寄せる。

「まぁ、ちょっと悪戯心もありましたが」

 何故ならば、肝試しに使われるならまだしも……。

「半月前くらいにも、恋人に自慢したいのか、ほっそい男が来たわね。女連れで」

 逢い引き場所は嫌だから。

「そういえばアイツ、自分ちの、とか言ってなかった?」

 ……ほっそい男、なんか知り合いにいますわ。

「悲鳴もか細かったわね」

 あんにゃろめ。

「貴方もその類いの侵入者と思ったの」

 ごめんなさいねと続けられた。

 でも……――。


「ですが、わたくしたちとこのように会話できる貴方も、いったいなんなのかしら?」


 普通は、こんなにはっきりと姿も見えないし、声も聞こえないはず。


 何より。

 猛ダッシュして先手燃やそうとする相手は初めて。

 めちゃくちゃ恐かった。幽霊なのに。


「まぁ、過去には何人か見える方もいないこともありませんでしたが……」

 お前は異常だわと、面と向かっては言わないさすがお育ちが良い。幽霊だけど。

 幽霊――ならば、話しても大丈夫だろうと、リラも腹をくくった。

「これは今まで兄にしか話したことがないのですが」

 ふんふん。あのお兄様ね。

 すでに兄の方が好感度が高い三姉妹さん。会ったこともないけど。

「そう、兄を一本背負いで投げ飛ばしたときに思い出したのですが……」


 ――何て?


「投げ飛ばした?」

「はい」

「一本……て?」

「柔道です。私のは正しくは古武術が主にですが」

「コブジュ……ツ……?」

「はい」

 これはちょっと本腰入れないとと、姿勢を正した幽霊三姉妹。さすが元公爵家の跡継ぎの方々。何かすごいこと話されそうと察しなさった。

 

「私は前世というものの、記憶があるのです」


 幽霊となっている存在ならば、魂の概念も理解あろう。



「前世は、寺生まれでございました」




 寺生まれのリラさん。

 あ、いや。解らない方はそのままで大丈夫ですw


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