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4 グローディア家の三姉妹。

今回のヒロインが本領発揮し始めます。


 グローディア家の三姉妹。

 長女エリザベス。

 当時の王家からも婚約の打診が来るほどの美女。

 豪奢な黒髪に宝石のような紫紺の瞳。それはグローディア家が王家の血も引いていたから現れた色。

 抜けるような白い肌に豊かな胸。

 そして蠱惑的な薔薇色の唇。

 まさに完璧な美貌を誇る令嬢。

 絵に良く表せたと思う。


 次女ユージェニー。

 姉と同じ黒髪だが、瞳は清んだ青空のような。

 彼女は当時の学園でも、在学中は首席を誰にも譲らぬほどの頭脳の持ち主であったとか。

 姉が王家に嫁ぐのではなく、グローディア家を継いだことにより、その補佐となるべく、よく領地も見回っていたという。頭脳派ではあるが、馬も乗れ、単騎で走らせられたという。当時の時代の傾向では画期的な女性であった。


 三女のイヴリン。

 髪色は姉たちと違い淡い色だが、瞳の色はまた紫紺。彼女はまだ幼い顔立ちだが、それがまた姉たちと違う魅力を感じさせる肖像画になっている。そう、将来はもしや一番美しくなったのでは、と……。

 彼女のことは書物にはあまり載っていない。書くべき事が無かったのも、亡くなったのはまだ十三とあれば、哀れすぎる。


 今、その三姉妹の肖像画が――暗く笑ったのだ。


 ――ホホホ……。

 ――フフ……。

 ――クスクス……。


 


 リラは一応、ちゃんと頑張った。

 まず、売れないかどうかの確認。更地にしてよいと言質はあるとも。

 しかし訪れたどの不動産屋からも断られた。本当に申し訳ないと逆に頭を下げられるほど。

 不動産屋さんの間では有名なお館であったのだとも改めて。あんにゃろめフェルナンド。


 仕方なく。

 しばらく自分が住んで「大丈夫だった」という実績を作るしかない。

 何故か訪れた不動産屋さんたちから連名で応援された。横の繋がりあるんですね。

 一番親身になってくれたのは実家を買ってくれた不動産屋さんだった。遠くの親戚より近くの、と……本当に染みた。

「エルマー家のお嬢さんなら、何でしたらうちで働いてくださっても」

 先祖たちの善行に感謝。

 何かあれば逃げ道――就職先があるのはありがたい。


 グローディア邸。

 三百年前からのいわく付き。

 建物もその期間、修繕の手が入っていないとあれば危険視された。

 そう――手を入れようとした者が館を見に来ると、その度に怪現象があり、皆悲鳴をあげて逃げ出してくる。


 その噂は、まさに。


 小さな鞄ひとつ手に持って館に訪れたリラは、現在進行形でそれを体験していた。


 まず、入ってきた扉がバタンと閉じた。

 途端に暗くなる。

 昼であるというのに、閉じられたカーテンの隙間からは一筋の光の漏れもなく。

 やがて、ぼ……っと、薄青く怖ろしい火の玉があちらこちら。壁に掛けられている燭台に勝手に火が。それもまた青白く。

 カタカタと、置いてある年代物の壺や花瓶が揺れ始めた。


 そして聞こえた女たちの笑い声。


 ――……ホホホ……。

 ――……出ておいき……。

 ――……出ていけぇ……出ていけぇ……。


 カタカタと鳴っていた花瓶が浮いた。

 それがゆらゆらと揺れながら恐れ固まる娘に迫った――!



 ――その瞬間。

 壁にかけられた肖像画の三姉妹の方が目を丸くした。


「――とぅッ!」


 ――ぱきゃん。


 素晴らしい手刀一閃。

 花瓶は床に叩きつけられ、哀れ真っ二つ。


「きゃああ!? ロージットの花瓶よぉ!? 今なら金貨五十枚はするのよぉ!?」


 絹を裂く悲鳴は、何やら妙にリアルな言葉を。妙に骨董品にお詳しい。


「いや、だったら人にぶつけちゃいけませんよ?」

「そうよ、お姉様。だから火の玉だけにしようって」

「あっちの壺はいくらでしたっけぇ?」

 ……。

 思わず突っ込んだリラだったが、まさか自分に続いて突っ込む人がいるとは。

 ここにいるのは自分だけのはずだが。


 じっと壁の肖像画を見る。

 先ほど唇が動いたのは、もはや見間違いではあるまい。


 うん、今それとなく視線をそらしたのは末娘。


 ――やっぱり、いる。


 リラは素早く動いた。

 スカートがめくれ上がるが気にしない。むしろ両手で掴んで、しかし恥じらい残して優雅にたくし上げる。

 幸い、額縁はじゅうぶん手が届く高さ、位置にあった。

 階段を昇りきった勢いのまま壁まで跳んだ。


「え、ちょっと?」

「な、なに?」

「うそでしょ?」


 絵から何か聞こえるけど気にしない。

 素早く壁から外す。

 そしてあるだろうと目星をつけた右の壁側――あった。三百年前の館でも、今現代とあまり変わらない。


 それは暖炉。


 この館のメインホールであるここの暖炉はでかい。肖像画の三枚くらいは余裕で入る、きっと。入らなかったら膝で折る。


「……お焚き上げが一番手っ取り早い」


 リラがつぶやいた言葉。


「お焚き上げ?」


 何ですそれ、と思わず気になったのだろう、問いかけられた。そして律儀に答えるリラ。


「燃やす」


 容赦なく暖炉に放り込まれる寸前。


「ぎゃー!? 止めて止めて止めてー!」

「ふざけました! 冗談です! 悪戯です!」

「本当にごめんなさい! ごめんなさい! 許してください、すみませーん!」


 絵から何と三人の美女が飛び出してきた。



 土下座する三人。しかし薄らと後ろが透けて見える通り――幽霊なのだろう。

 ふむ、と腕を組んで立つリラをちらちらと見上げる姿は肖像画どおりの風貌。


 ――悪霊ではない?


「……もうしませんか?」

「し、しません!」

 リラに許されて顔を上げた三人は明らかに顔色を明るくしてほっとした。幽霊だけど。

「ですが、次は本気で燃やします」

 火打ち石は暖炉の近くに備えてあった。それをリラが真顔で見ていることに、三人はまた顔色を変えてこくこくうなずく。幽霊だけど。


「私は貴方たちを怖がりません」


 それはつまり。


 幽霊が、それらの類いが怖ろしいのは――土俵が違うからだ。


 もし同じく、身体無き同じ土俵になった時を考えたことはあるか?


「私に何かして同じ立場になったとしたら……私は素手で相手する覚悟も完了しているし、力も技もある」


 両手を打ち付け――令嬢は問いかけた。


 それを覚悟なさって、ください。


 令嬢が拳を、ポキポキと指を鳴らし。

 幽霊たちが悲鳴をあげた。


 

ひっそりミ○ゾノさん走り。

強々ヒロインが好きです。皆さんもお好きだと嬉しいな。

彼女の秘密は次話にて!

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