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幽霊と幽霊と幽霊と令嬢。  作者: イチイ アキラ


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24 「名乗ったな?」


「うーん……すごいわ……」

 ドワーフの超絶美人のダイアが唸り、同じく妹のサフィアがうなずいた。

「さすが、神童と呼ばれたベリル兄さん……」

 ベリル・ラーソン。

 父親が従兄弟という縁で、自分たちの身元引き受け人になってくれたのは。

 かつて神童と呼ばれたほどの。

 彼は物作りに超絶技巧を持つドワーフのなかでも、それほどの腕を持っていた。

 いた、と……過去形なのは。彼が左腕を負傷してしまい、力をいれて長いこと物を掴むことができなくなってしまったから。

 腕の負傷。

 それはドワーフ族にとってすでに「死」に等しい。

 けれど彼は腐らず、新しい道を見つけてこの人間の国に来た。

 しかしドワーフの性は失われず。小さくも工房を住まいに拵えていて。姉妹たちもグローディア家の鍛冶場を借りられるまでこの工房に助けられていた。

 ドワーフの性とは。

 物作りを時に無性にやりたくなる。武器や防具、装飾品や日常品まで。

 彼女らはラーソンのお店の品々に感嘆の目を向ける。


 そしてこれはそのうちの一つ。


 リラの、愛用するブーツだ。

「ごらんなさいよサフィア、この足首の可動域!」

「鉄板の厚みも絶妙ですよ姉さま! これ以上薄くしたら意味がなく! しかし絶妙って言ったら重さですね!」

「そうね、これだけ重たいと履いてるひとも負担になるはずなのに、リラさんの歩きや動きに邪魔にならないようにしてある。履いたら重さやバランスで……」


 美人姉妹が讃えまくるブーツだが、メンテナンスでラーソンが預かっているところで。

「そろそろ作業したいから、返してくんない?」

 従姉妹姪たちの賛辞にちょっと照れくさいラーソンさんだった。

「代わりに新しい試作品を今日は履いてもらってるけど、リラちゃんは今ごろ何処を歩いてるかな?」


 ……歩くどころか。




 ――ゴッ!


 鈍い音がして破落戸(ごろつき)一号は声もなくバタリと倒れた。

 リラが決めた回し蹴りが見事に決まったために。


 リラは市場でナンパ野郎ども兼破落戸(ごろつき)崩れの貴族の青年たち相手をしていた。


 リラの生前のお家は古武術を伝えてきたが、その中には蹴り技もあった。

 格闘技好きであった叔父がさらに昇華させ、姪や甥にも教えており。

 そしてリラは生前も叔父により提案されたブーツを、ラーソンさんに再現してもらっていた。


 鉄板と鉄芯入りのブーツを。


 叔父さんのちょっとオタク入った語りをしっかり聞いてあげていたリラは、今世においてまたしっかり説明することができた。ラーソンさんはその指示通りにブーツを再現してくれた。彼も少し――いや、ドワーフは物作りに於いてはオタクの最高峰である。

 もしもリラがもう少しファンタジーに詳しかったらドワーフという存在に感動しただろう。それでも「匠」として尊敬している。リラも金継ぎなどの物作りや工作の技能持ちだから。

 ラーソンさんがこの国への移住を決めてくれたことに、それを勧めたご先祖さまに感謝だ。


 今日はメンテナンスに出しているが、リラの話を聞いてブーツを作ってからはラーソンさんも自分でも考えてオリジナルブーツを製作されるようになった。

 今日はその試作品の何作目かを試させて貰うために、市場まで買い出しがてら歩いて来ていたのだが。


「少し重心が爪先に行くかな?」


 世にサバットという格闘技がある。

 靴を履いたままの護身が主な格闘技だ。紳士の格闘技ともあるが――実際は靴を履いての喧嘩打撃系の格闘技である。

 こうした破落戸を相手にするのをもともと想定されたものであり。まさに今にぴったり。

 とても有名な武術家にして映画俳優さんが己の武道に取り込んだともあるし、とても有名な小説の探偵の武術の元にもなっている説もある。


 まぁ、つまり。

 達人の蹴り技は、その重たいブーツでの蹴り技は――バットのフルスイングに等しく。

 

「あ、しまった」


 そしてつまり――また手加減間違えたリラさんだった。

「でも、多勢に無勢だから仕方ありませんよ」

 そう言ったのは彼女が助けた少女。銀の髪に黄金の瞳のすごい美少女だ。

「そうそう、助けてくれてありがとうございます」

 続けて赤毛のそばかすがあるお姉さんが。リラより少し年上のようだ。

 黒髪の少年はというと、黙って二人の言葉にうなずいていた。彼はリラに場を任せて二人を背中にかばっていた。

「……お姉さん、強いですね」

「……君も」

 達人同士は触れることなく、互いの立ち姿だけで力量を見合うこともあるという。


 リラは薄っすらと察していた。

 自分よりこの少年の方が強いことを。


 そして割り込んだのはむしろこのナンパの破落戸青年たちの為でもあった。



 そういう間にも腕をやられた仲間の仕返しに突っかかってきたもう一人に、リラのブーツの爪先が鳩尾に突き刺さる。吐かれる前に後ろに飛び退きながら。

「なるほど、このための重心」

 ちなみに爪先にこそ一番硬くしていたラーソンさん。


 ところで。

 何故レスリング希望のリラが今日は蹴り技主体なのかというと。

「ここで寝技や関節技は、服が汚れる……皆に心配かけてしまうし」

 と、いった理由から。観光地でもあり清潔を心がける市場でも、やはり路面はあまりきれいではないから。

 あの幽霊さんたちは案外過保護だから。


「き、貴様……俺をサウダ子爵家のエイドリアンだと知っての狼藉か!」

 腕をやられた青年が、とうとうその地位をひけらかした。

 ヤバいと、市場の皆さまが悲鳴を上げかける。

 皆さま麺棒やざるを構えていざとなればリラの助けに入りたい気持ちでも、お貴族さまを相手にしたら――問答無用でこちらが悪者である。

 それが貴族と平民の違い。かなしいが、それが身分差。


 ――だが。


「名乗ったな?」


 皆が心配していた外国からのお客様――その美少女が。

 その瞬間、市場の空気が変わった。


「我に名乗ったな? ならば覚悟せよ。相対した、己の身のほどを覚悟せよ」

「な……」

 美少女から、信じられない圧が。


 それは――畏怖。


 生まれ持ったものからしか発せられない、それは王者の気配。


「我はパルスェットが先の王弟の娘。グランザード・カフシャーンが唯一の子、フィアラルージュ・カフシャーンである!」


 名乗った。

 喧嘩をふっかけたあげくに。

 貴族の小倅が、他国の王族に。



 それはすなわち――戦争である。




 ちょっとだけジャンルが格闘、いや筋肉ですが。

 截拳道とかバリツとか、かっこいいです。今回「靴」て題にしようかすごく悩みつつでした。(わかる方にはさらにわかる)

 あとオタクは褒め言葉。専門家。


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