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21 聖女さまは「本物」じゃなかったとか。


「ほぉ……これが金継ぎ……」

 お館の手入れをリラも手伝ったりしながら。半年はあっという間に過ぎた。

 生活基盤を整えるのがまず先、と。


 そしてようやく、合間に手がけていた花瓶の修繕も終わった。まだ素人なリラには時間がかかったが、なんとか。

「真鍮粉だと、行く行くは錆がでるから、金粉を使わせて貰えて良かったです」

 内心では金にどきどきだったけど。

 修繕のプロなドワーフ姉妹が来てくれたのだから、花瓶の修繕も彼女らに頼んだ方がとリラは思ったのだが、「金継ぎ」という手法にドワーフ姉妹も興味を持ってしまった。

「私たちの修繕といったら、どれだけ疵や傷みを無くして元に戻すかにあるから」

 逆に割れ目を装飾するような直し方にはお目にかかったことがない、と。


 そうして花瓶に施されていた赤絵を殺さず、共に生かす金の装飾。

 エリザベス嬢もドワーフ姉妹も、感心した。

「これはかえって面白くなりましたわ。味が深まったというか……」

「人間もなかなかやるわね……」

「割れ目を逆に、だなんて……」

 それはこの世界にはない芸術であり。ドワーフの世界には、さらになかった。

「割れ目が目立つ修繕なんてしたら、ドワーフの国じゃ笑いものだけど……」

「うん、この直し方なら、今まで修繕できなかったのも……」

 そんなにしきりに褒められるとくすぐったいリラであった。

「いやぁ、私にはわからないように直すとも色繕いは難しいです」

 むしろ難しいその修繕方法をするドワーフさんに褒められるのは、本当に。とも色繕いは祖父は頼まれたらやっていたが、金継ぎ以上の手間をかけていたように思う。それだけ難しい。

「花を生けたらまた変わりそうね」

「器は使ってからこそだもんね」

 エリザベス嬢とドワーフ姉妹が花瓶を囲んでいるが、なんと半年の間に、ドワーフの二人は何となくその存在を感じ取れるようになっていた。

 慣れ、だろうと二人は言うが。

 何となく近くで存在を感じて、そして何を言っているのか解るように。明確にはまだだが、ダイアよりサフィアの方はうっすらと声も聞こえるようだ。

「実は妹の方が繊細でして」

 一見にはドワーフの少年のようなサフィアであるが、実は淑やかに見える姉の方が豪快であるという。

 何と最近ではサフィアはイヴリンとチェスをしているときもある。視えるリラにはイヴリンと二人でさしているのがわかるが、ダイアはしっかりと目をこらさないとサフィアが一人で考察している図になっていたらしい。

 しかしそう、ダイアも目をこらせばわかるように。

 チャンネル的な波長が合うのかしらと、リラも姉妹さんたちが自分の通訳なしに通じあっているのはありがたい。

 ドワーフの姉妹も霊感的なものがあったのか。それともやはり慣れか。

「リラのが何か伝染ったんじゃない?」

「そんなまさか」

 はてさて。



 話はその日、サフィアが街から帰宅したことに始まった。

「なぁリラ、あんたの家が大変になったのって聖女さまがらみだっけ?」

 買い出ししてきた食材を荷馬車から下ろしつつ。

 ラーソンさんの馬と荷馬車。

 それは何とこちらで飼うことになった。

 もともと町中で飼っていたから、こちらの方が馬たちも落ち着きそうだ、と。

 何せ森であり、自然たくさん。馬糞の臭いの苦情もここなら無問題。近くの公園には馬を走らせられる運動場もあり。もとグローディア家の。

 鍛冶場の横を開墾して平らにし、その際にできた木材を使ってお馬さんの住まいをあっという間に作ってしまったドワーフさんたちだ。

 ラーソンさんは町中に住んでいるから買い出しにわざわざ馬を使うこともなかったから、姉妹たちが使う方が馬も運動になる。

 故郷に仕入れに行くときはもちろんラーソンにお返しで。

 二頭いる馬はつがいでもあり、いつかそのうち仔馬が産まれるかもだから、なおさらに静かなグローディア家に造った馬屋の方が良いだろう。

 そんなお馬さんの生活環境も整った半年間。

 ドワーフ姉妹はラーソンさんのお店の手伝い兼ねて、街にて武具をはじめとした道具の修繕や製作を請負いはじめた。館の修繕はほぼほぼ終わり、あとはまた経年劣化や変化により様子見だ。

 造った武具や防具は、またラーソンさんのお店にて売ってもらうように。

 ドワーフの性分というものらしく、数ヶ月に一度くらい、無性に何か造り出したくなるらしい。

 だから鍛冶場が必要なんだなぁと、人間のリラと元人間今幽霊の三姉妹もびっくりだ。

 ダイアがその身の丈を越えるバスタードソードを創り出したときも。

「片手でも振れるバランスが大事」

 と満足げなダイアに「いやそれ片手で振れるの?」と、人間たちのツッコミは心の中に。

 ちなみにサフィアは細やかな銀細工のネックレスや髪飾りを。

「可愛いいの、好き?」

「い、いいじゃんっ」

「わたしは好き。生きてたら造って欲しかったなぁ」

「……これも、お供えしたら、使える?」

 ボーイッシュでも可愛いの好き、良き良き。イヴリンは可愛い小花の髪飾りをお供えして貰った。

 ラーソンさんもサフィアのために店にアクセサリー部門を作る予定だ。


 そんなドワーフ姉妹がいたら街にても話題になるというもの。いや、リラ自身も。


 はじめは幽霊屋敷に越してきたと少しばかりざわめかれたリラ含めた三人だったが――三人の性格を察してみるべし。


 はじめは図書館近くで具合が悪くなり転んでしまったお婆ちゃんを、リラが病院までお姫様抱っこで連れていって。


 市場で車輪が外れた荷馬車を、通りかかったサフィアが直してやって。


 同じく、市場近くで火事になった家屋からダイアが子供を助け出して。


 お婆ちゃんはとある伯爵の元乳母であり、乳兄弟の息子は伯爵の側近として貴族の界隈にも顔が利き。当然、乳母で母代わりを助けてくれたリラに感謝を。


 サフィアが助けた荷馬車はどうしてもその日のうちに届けなければならない機材を積んでいて。市場の商工会の威信に関わり、大変感謝された。


 ダイアのは本当に人命救助。サフィアとリラも街の人とその間に周りの建物を打ち壊し、水をかけ、延焼の広まりを防いだと活躍を。


 そんな少女たち。

 リラが聖女さまから不興をかった縁者のエルマー家のものだと、その頃には広まっていたが。

 伯爵家は改めてリラに感謝を、街のひとたちの目に見えるように告げて。この子は悪い子ではない。お家も本当に。そもそも聖女さまの不興理由もアレ(・・)であると伯爵様が調べて、さらにこっそり街の人達に。お兄さんお幸せにと、皆さまも訳が広まれば同情的で。

「さすが騎士の家の娘御である。気高し」

 と。お姫様抱っこされたお婆ちゃんがポッとしていたそうで。息子さんたちもほっこり。ラヴェンダーの物語を図書館で借りるひとが増えてユージェニーが「良いでしょう、そうでしょう」と、ドヤァとしていたのに姉妹が苦笑していた。

 ドワーフという亜人を忌避する人間も、ダイアたちにより考えるきっかけになったようだ。良い奴らじゃないか。しかもたくましい。筋肉カッコ良いなぁ……など。


 そうして。半年間。

 図書館通りや市場で、彼女たちを悪くいうものはいなくなった。

 もちろん、幽霊屋敷に住んでいることも含め。


 まさに、情けは人のためならずを地で行く少女たちであった。

 パワフルでワンダフルに。



筋肉はご町内を救う。

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