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20 そして時は動き出す。


 ドワーフ姉妹があちこち点検をしてくれている間に、リラも三姉妹とお話があった。

 まず。


「竜金貨だったんですが?」

「竜金貨ですわよ?」


 齟齬。

 エリザベス嬢が間違って渡してきたのではないとわかり、リラは――目眩して倒れそうなのを踏ん張った。胆力。

「幽霊は怖がらないのにお金が怖いって、変わった方ね?」

 落語にそんなお話があったなぁと、飛びかけた意識を掴む。いや、あれはまんじゅうだったね、落語をラジオで聞いていたのはおじいちゃん。全然違うお話だったね。膝の上は懐かしい……帰ってこい、私。

「規模が……規模が違いますから……」


 エリザベス嬢。

 生前より目利きであり、価値あるものを大事に。

 しかして決してケチではないお方であった。お金の使い処を間違えることはなく。

 彼女が怒ったのは家族の、妹たちの悪口を言われたときと、ケチ野暮、呼びをされたときだとか。

 館にある美術品の真贋はすべて彼女の目利きであり、当時は芸術家たちのパトロンとしてもあったという。そう、広間に掲げられた彼女らの肖像画も――彼女が支援した後、著名な画家となっている。

 ちなみにそんな彼女を恐れ多くもケチ野暮呼びをしたのは、彼女のお眼鏡にかなわず、あまり実力がないのに自意識ばかり高い芸術家が、彼女が支援を断った時に。その芸術家がどうなったかは……歴史に名前が残っていないことで察しよう。


 そう――リラも彼女のお眼鏡にかなったのだ。

 だから、支援した――のだが。


「でも規模が違いますから!」


 リラにこっちは庶民であり、町中で「竜金貨」は逆に使えないと教えられ。

「あらまぁ? そうでしたの?」

 屋台ではお釣りにも困るし、リラが気がつかず、そしてお店も気がつかず、竜金貨が普通の大金貨と間違われて町に流れていたら。

 騒ぎになってしまっていただろう。


 と、いうことで。

「はい、こちらは大金貨と小金貨」

 そりゃあ駄目ですわお姉様、と。ユージェニー嬢が交換してくれた。竜金貨はまた金庫にないない。

「良かれと思いましたのにぃ……」

 エリザベス嬢にはちぇーっ、と、いじけられた。

「竜金貨ではその辺りのお店でご飯買えませんよ……?」

 お店でご飯やおやつを買ったことがなかった公爵家の御当主はびっくり。そりゃ、買い食いもしたことありません。

 そうして。リラもようやく分相応な――まだちょっと大金を手に入れたのだった。

 


 そうして、「住んでもらってもよろしくて」。

 だ。

 言葉に色々、迷ったんだなと、そろそろリラもわかるというもの。

 横をみたらユージェニーとイヴリンが「察してあげて」と、微笑んでいる。あたたかい目で。

 エリザベス嬢は当主となるべく、大変な勉強や他の貴族とのやり取りや、なんかこう……うん、リラもあたたかい目で。上から目線は仕方ないのです、エリザベス嬢は。

 ドワーフの姉妹さんたちの事情を、井戸の確認中に彼女たちにも許可を取って話してあった。そうした話が好きな幽霊姉妹たちが「壁ドンはないですわー」と、ドン引きしていると通訳したのはリラ。「ねぇ、好みの相手以外からはドン引き案件ですよね?」と、ドワーフ姉妹からの返事をまた橋渡し。

 キャッキャッ、ウフフ。と、何やら場は和みつつ。女三人寄ればなんとやら。


 そういうことならば、と。

 エリザベス嬢は提案してくれたのだ。

「そもそも、リラさん一人が住んでいるというのも、あんまりよろしくないと思っていたの」

 そもそも、防犯の面で。

 いかにリラが強くても、女の子一人が住んでいるとあれば。

 ちゃんと考えていたのは一番お姉さん。お姉さん、実は心配していた。

「確かに。幽霊屋敷の噂があっても、年一くらいで泥棒ありましたしね」

 妹たちもうなずく。

 だから、見た目からしても強そうなドワーフの姉妹さんにも一緒に住んでもらった方が良いのではないか。


「徒歩二時間は大変ですしね……」


「それ、片道でしてよ?」

「まって。歩く前提、まってあげて」

「馬車、使わせてあげてぇ」


 リラには本来の住み主たちであるエリザベスたちが提案するなら、そしてダイアたちが了承するならば、構わないことで。部屋もあまりまくっているし。

 そういうことだがどうだろうかとドワーフ姉妹に話せば、彼女たちは少し悩んでいるようだ。確かにラーソンに世話になり、宿代がかさんでいたのは気になっていた頃で。

「この館が怖かったら、鍛冶場の方はいかがかしら?」

 「この館が」の副音声に「私達が」とあったけど。つまり、幽霊が。

 幽霊たちの方が気を使ってると、ダイアたちが苦笑してしまうが。まさに悩みは「鍛冶場」であった。

「鍛冶場があるのですか!?」

 悩んでいたのも鍛冶場有る無しなら、決定打も鍛冶場有る無しだった。それがドワーフという種。

 自分(幽霊)たちよりも、そっち?

 と、三姉妹も何だか苦笑してしまう。リラといい、彼女がつれてきたこのドワーフの少女たちといい。


 広大だったグローディア家の敷地内には鍛冶場もあった。

 主には馬房にて飼っている馬たちの蹄鉄を整えるのが役割。

 たまにそれ以外でも主の要望や、鍛治師の作りたいものを製作していた。

「人間の鍛治師たちだったから、諸々のサイズは大きいかもだけれど……」

 しかし、そんなのはどうとでも調整できると、古い鍛冶場でも姉妹たちは嬉しそうだ。

 昨夜リラが薪を拾った館の横の森。その中に鍛冶場は在った。

 ギリギリ、朽ち果てる寸前で。

 三百年前は森ではなかったと聞いたら、納得である。他の設備と違い、館に近い鍛冶場は使い道がないと、放置された末路である。

 館まわりの森もまだ、書類上でもリラに譲渡されたうちに入る。

「森の手入れも必要ですね」

 いくつか伐採して、通れる道を作らねば。

 しかしドワーフ姉妹は目を輝かせた。

「鍛冶場だわ!」

「ちゃんと炉もある……!」

 彼女たちの腕なら、諸々設備の修復も可能そうだとのことで。

「かつては住み込みで、徒弟も何人かいましたから、ドワーフのお二人でなら住めるのではないですか?」

 鍛冶場兼、住居であったと。

 ちなみに案内と説明はユージェニー。かつて愛馬の蹄鉄を彼女も頼んでいたこともあり、鍛冶場には足を運んでいたから。

 ……朽ちかけていた鍛冶場は、蜘蛛の巣だらけなので。エリザベス嬢は引き攣った微笑みで館に帰られた。イブリンはそんな姉に付き添って。優しい。

「ありがたく! 住まわせてください……と、お伝えください」

 通訳係としてリラも当然同行していて。

「あら、家主はリラさんでもあるのよ?」

「あ、そうなる……んですか?」

「お家賃は……そうね、館の修繕と管理をやっていただくことで応相談なさったら?」

 さすがしっかり者のユージェニー嬢。

「あの、今の家主は私だから、私が許可するなら、と……あ、もちろん大丈夫です」

「ありがとうリラさん!」

 ややこしいと思いながら、リラもダイアたちとなら一緒も頼もしいかも、思った。

 そして提案したお家賃は。

「え、家賃、そんなことでいいの!?」

 そんなことでと言われても。リラには出来ないことだから。

「まずは本館の修繕からさせて頂きます。その間はすみませんが、私たちもお館に住まわせてください」

「そうだね。まずはあんたの生活ができるようにしないと」

「今後の維持と修繕も家賃にしてください、リラさん。三百年ものですから、ちょこちょこ傷んだところが出てきますからね」

 ……本当に頼もしい。


「こちらこそよろしくお願いします」


 もう一度、握手を。




 そうして幽霊姉妹とドワーフ姉妹との、リラの生活は始まり――。



 ――あっという間に半年が過ぎた。



 

 そして時は動き出し――とんでも聖女が来た!のです!

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