15 初めてのお供え。3
「何を買っていらしたの?」
そわそわ。×3
朝日とともに起きたリラが朝食を買って戻ってきた。お帰りなさいの言葉とともに、三姉妹さんはそわそわしている。
ちなみに、朝日を浴びても平気らしい。さすが三百年もののベテラン幽霊さん。悪霊ではないということもあるだろうか。ご自身たちもそう言ってるし。
「甘いものもとのことでしたから、チョコレートとクルミのデニッシュを」
そしてまた野菜たっぷりの、今日はチキンサンドも。昨日は夕方という時間帯でいろいろと品切れだったが、今日はまだ始まったばかりで店舗には焼きたてのパンが並んで、リラも悩んだほどだ。
「それとオレンジジュースを」
絞りたての果物のジュースを売る屋台が開店していたから、そちらでも。
「まああ!」
「パーフェクトです、リラさん!」
「チョコレート! チョコレート!」
三姉妹が喜んでいるその理由。
昨夜、リラは三人にお供えものをした。
彼女らの宿る肖像画を、お仏壇に飾る遺影みたいだな、とリラは絵質にしたそれを返しているときに思い。それは失礼ながらも――当たらずとも遠からずであったらしい。
リラが手を合わせて感謝をこめると、不思議なことが起きた。
何と半透明な彼女らの前に、また半透明なティーカップとカステラが!
「こ、これは……!?」
「紅茶ですわね?」
「ちゃんと味も香りも……?」
一組しか用意しなかったが、ちゃんと三人の前にそれぞれ。
びっくりしているのはリラもだったが、そういえばお仏壇にはご先祖さまが何人いらしてもお膳は一つだもんな、何てすぐに納得していた。ちょっとだけ、やはり脳筋気味な少女である。
けれどもそれは当たりでもあったのだろう。
贈られた側が受け取る気があれば、なのだろう。
今、三姉妹はリラからの思いを受け取った。
これからよろしく、を。
こちらこそ、と。
何をしていらっしゃるのかわからないままに――お供えと聞いて、他所の文化にはこのように霊前に供えものをすることがあるのだと、リラの生前のうっすらとした知識にさらに感謝した。
そう、食べるのが大好きだったグローディア家の三姉妹は、心底から、リラに感謝した。この娘が館に来てくれたこの不思議な縁に感謝を。
この半日は――三百年間をあっという間に変えていく。
「まさか、またお茶をいただけるだなんて……」
しかも、味も香りも。
姉たちが驚いている横で、イヴリンはえぐえぐと泣き出した。幽霊だけど泣けるらしい。
「甘いのぉ……うれしいぃ……」
ああ、妹は甘いものが好きだった。まだ子供だった。そう、まだ十三になったばかりの頃に……。
「お姉様たちも食べましょ? 甘くて美味しいわ」
エリザベスもユージェニーも甘いカステラを食べ、涙ぐむ。それはまたこの妹を喜ばせることができたから――いや、してもらえたから。
「ありがとうございます、リラさん」
「あ、い、いえ……」
ひっそりと、三人が泣き出してどうしようとわたわたしていたリラさんだ。
「紅茶も美味しいわ……」
「よかったです」
リラも子爵令嬢ではあるが、護衛をかねる侍女などを進路の一つにしていたこともあり、ちょっとしたお茶の煎れ方や作法を学んでいた。
これは余談でもあるのだが、以前の生の祖母がお茶好きであった。そして祖父も僧侶として様々なお宅に招かれることもあり作法を学んでいて。そのご縁で二人は出会ったということもあり。
子や孫にも時折お茶を。
そんなことで日本茶の作法を身につけていたリラは、この世ではちょっと動きが無駄なくきびきびシュッとし過ぎると講師には言われたが、悪いことではないので問題なく合格をいただいていた。
公爵家の方々にも喜んでいただけてほっとして。三百年ぶりな補正もあるかもだけど。
三姉妹さんは、「もしかしたらサンドイッチも食べられるかしら」とリラに試しについでに供えてもらい……。
「野菜が! 野菜がシャキシャキと……」
「パンも柔らかい、これはいいものです……」
「ハム美味しいぃ……トマトお……」
そうして無事お供えは成功した。
喜んでもらえて良かったと、お下げしたものはスタッフがきちんと――リラは紅茶が冷めないうちに頂戴したのだった。
サンドイッチ美味しい。
サンドイッチ食べたい。